インキュバスには負けられない

小森 輝

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 とりあえず、帰り道で何か起こることはなかった。気まずいというかなんというか、これが付き合いたての微妙な距離感という奴なのだろうか。菊臣は自転車通学なので、自転車を手で押し、僕は鞄を菊臣の自転車に乗せてもらって、帰り道なのに手ぶらだ。すごく、奇妙な感覚を抱いていたが、だからといって何か特別なことが起こるわけではない。ただただ、僕たちは道を歩いていき、菊臣の家までたどり着いた。
 菊臣が自然な動作で自転車を止め、僕は返してもらった鞄を持って、菊臣の家へとあがった。そう言えば、小さい頃は何度も遊びに来ていたのに、中学の後半ぐらいからは全く遊びに行くことがなかった。僕の受験勉強や菊臣の部活なんかで忙しかったし、それに、遊びに行くなら家ではなく外で遊ぶことが多かったので、今思えば、家の中に入るなんて久しぶりかもしれない。
「どうぞ」
 中にはいると、自分の家とは違うその家独特の匂いが漂ってくる。
「……おじゃまします」
 そう控えめに言ったのだが、家の中から返事が聞こえてくる様子はない。
「大丈夫。今日は誰もいないから」
 そう言えば、菊臣の両親も共働きだった。つまり、今、この家には僕と菊臣の二人だけしかいない。そう分かると、不覚にも胸がドキッとしてしまった。
「とりあえず、俺の部屋で待っていてくれないか? 場所、分かるだろ?」
「う、うん。まあ、分かるけど……」
 久しぶりとはいっても菊臣の家には小さい頃に何度も遊びに来ているので、菊臣の部屋ぐらい案内されなくても分かる。問題はそこではない。
「菊臣は何をするんだ?」
 一緒に部屋に行けばいいのに、ここで別れる意味が分からない。
「ほら、ちょっと、お菓子とか用意するからさ。だから、先に行ってて」
 そう言えば、菊臣の家に行くと、必ずお菓子とかを持ってきてくれた。久しぶりすぎてそんなのも忘れていたんだ。
「そっか……。分かった。先に行って待ってるよ」
 リビングで菊臣と別れて、僕は先に菊臣の部屋に行った。

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