インキュバスには負けられない

小森 輝

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「でも、その辺は男子だからねぇ。ぐいぐいいっちゃうのは男の性だよね。あぁ、初々しい!」
 そんなことを呟きながら悪魔は気持ち悪く体をくねらせながら悶えている。
「仕方ない。ここはこの愛の伝道師であるインキュバスのこの私が君にアドバイスをあげよう」
 興奮して今にもローションをまき散らしそうな菊臣をどうにかできるのなら悪魔にだって心を売ろう。
「そうだね。まずは手を握ってあげるこっとじゃないかな?」
 そう言われたので、恐る恐る菊臣に近づき、ローションを持ってない方の手を握った。
 これでいいのだろうかと不安に思っていると、悪魔から次の指示が来た。
「じゃあ、そのまま抱きしめてみようか」
 なぜ抱きしめなければならないのか、疑問がよぎったが、今はこの悪魔を信じることしかできない。なので、僕はそのまま菊臣を抱きしめてみた。
 仲がいいとは言っても、こうやって抱き合うのは初めてだ。なんだか、菊臣の体はごつごつしていて堅い。部活をしているから筋肉がしっかりついているのだろう。
「うんうん。そうだよね。何をやるにも順序っていうのは大事だよね」
 なぜか悪魔は満足そうだ。これであっているのだろうが、菊臣の興奮は収まっていないようだ。
 抱き合っているので、興奮して菊臣の体温が上がっているのがわかるし、心臓の鼓動も伝わってくる。
 そんな状態で次の指示が飛んできた。
「じゃあ、キスしてみようか!」
 これには思わず声を上げてしまいそうになった。
 キスとは、もちろん魚のキスではない。口づけという意味のキスだ。なぜそんなことになるんだと悪魔を睨んだ。
「順序が大事だっていっただろ? 最初に手を繋いで、そこから抱き合う。そして、キスをして、最後にセックスだよ!」
 悪魔は悪びれる様子もなく、そう言ってのけた。
「男性同士の愛にだって、順序は必要だ。いきなりセックスなんて、いろいろと飛び越しすぎだろ? そんなことをしたら、体だけの関係になりかねないからね。ちゃんと順序をたどって、愛し合ってからセックスは成り立つんだよ。菊臣君にもしっかり教えてあげないとね!」
 この悪魔は、最初から菊臣の興奮を押さえようとはしていなかった。むしろ、興奮をさらに助長させようとしていたんだ。
「ほーら! キース! キース!」
 そして、僕がキスを拒んでいると、この悪魔はキスコールまで始めてしまった。こんなことをされたらやらないわけ……いや、流石に無理だ。抱き合うぐらいなら僕でも不快感なくできるのだが、流石にキスとなると話が変わってくる。
「ご、ごめん、急に……」
 そう言って、菊臣から離れようとした瞬間、体を引き寄せられた。流石、運動部。僕なんて拒むことすらできずに引き寄せられ、そして、顔と顔が間近に迫る。
 もうお互いの瞳しか見えない。
 そして、ゆっくりと菊臣が瞳を閉じると、唇に暖かいものが触れた。
 暖かくて、柔らかくて、少し乾いている。
 そのファーストキスは、チョコのように甘くとろけるように僕の心へとからみついた。
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