インキュバスには負けられない

小森 輝

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 翌日。あれから家に帰り、菊臣に連絡をとることもなく、そのまま寝てしまった。しかし、一晩寝ても唇に感触が残っている。
 そう、昨日、僕はファーストキスをした。それも親友と呼ぶべき菊臣と。事故とかではない。お互いに望んで唇を合わせたんだ。
 もう、自分の唇が昨日までの唇とは違うような感覚がする。
 そんな奇妙な感覚を抱きながらも、学校へは行かないといけないわけで……。
「準備……するか……」
 一晩たっても悶々としてしまっているが、それでも、僕は学校へ行く準備を始めた。
「あれ? 筆箱とか……」
 鞄に入っているものが明らかに少ないことに気づいたのだが、同時になぜ少ないのか理由も思い出した。
「そっか……菊臣の家に忘れてきたんだった……」
 そこで再び菊臣の部屋でおきた出来事を思い出して唇に意識が向かってしまう。
 いいや、今はそれを思い出している場合ではない。それに、学校では嫌でも菊臣に会うんだ。そのたびに思い出して恥ずかしい気持ちになっていたら周りに変な目で見られてしまう。早くこの気持ちを割り切らなければならない。
 そんなことを考えながら、準備をして、学校へと向かった。
 もちろん、あの全裸悪魔は今日も僕の部屋で体を縛っているので、当然のように置き去りにしてきた。
 今日の天気も曇りだ。憂鬱だ。しかし、昨日の憂鬱とは少し違う。悶々とした憂鬱だ。もう一度、菊臣に会うまで悩み続けなければならない憂鬱だ。だから、今は早く菊臣に会いたい。
 そう言う思いからか、今日も学校に早めについてしまった。昨日との違いといえば、昇降口で菊臣とは出会わなかったということだろう。代わりというには違いすぎるのだが、菊臣の代わりにあの全裸悪魔と出会ってしまった。
「ちょっとぉ。酷いじゃないか! 私を置いていくなんて! 昨日、私が助けてあげたのを忘れたのかい? 私がいなかったら、また君は思考停止しちゃうだろ。そうなったらどうするんだい!」
 悪魔にそう訴えられるが、もちろん、無視する。確かに、昨日、菊臣と二人っきりになったとき、僕に声をかけてくれたのはこの悪魔だ。しかし、助けたというのは語弊がある。どちらかと言えば、してやられたが正しい。
「君と菊臣君のこれからを育んでいくには、私のアドバイスが必要だろ? 私のインキュバスとしての豊富なこの知識が!」
「全裸の変態に教わることなんかねぇよ」
 いらだちが我慢できなかったので、周りには聞こえないような声で呟いた。おそらくだが、声に出さなくてもこの悪魔には僕の感情を読みとれるのでなにを言いたいのか分かるだろう。
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