インキュバスには負けられない

小森 輝

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 少しだけ心配していた勉強道具だが、ちゃんと菊臣が持ってきてくれたので一安心だ。これで、授業の度に忘れ物の報告をしないですむ。
 ただし、今日の授業はいつもと違った。いつもは家に戻ってマンガでも読んで暇を潰しているのに、今日はなぜか授業中も僕の近くにあの悪魔がいた。もちろん、じっとなんてしていない。僕の前に立ちはだかって黒板を見えないようにしたり、局部を僕の顔にすり付けようとしたりと常に僕の邪魔をしてきた。本当にうざったかったのだが、何とか知らない振りをして乗り切れた。おそらく、誰にも気づかれていないだろう。
 そんな気が気でない授業を終えて、僕は帰り支度を始めていた。
「そっかぁ。今日は菊臣君と一緒じゃないのか……」
 そんなことを言いながらつまらなさそうな顔をあの悪魔がしている。しかし、そんなことを言われても僕にはどうしようもない。菊臣は僕と違って部活に入っているのだから。体調が悪いとかの理由がない限り、部活を休むことは許されない。運動部ともなれば尚更だ。なので、いくらこの全裸悪魔が駄々をこねようとどうしようもないことだ。
 そんな感じで、この悪魔のことばかり考えていると、急に声をかけられた。
「なあ、精志郎……」
 声をかけてきた相手は菊臣だ。今日は部活なので昨日のように一緒に帰ることができないので、なにかいっておきたいことがあるのだろうか。
「なに? 菊臣は部活だろ? 早くいかなくていいのか?」
 そう思っていたが、どうやら違うらしい。
「いや……今朝の子が……」
 菊臣が教室の入り口を指すので見てみると、今朝、話をしにきたあの小さい少女が顔を出していた。
「あの子、精志郎に用があるみたいだけど……」
「そうみたいだね……」
「その……どんな用か、聞いてもいいかい?」
「いや、それが話も全くしてなくてさ……」
「そ、そっか……」
 なんだか、菊臣の様子が少し浮かないようだ。やはり、昨日、突然、僕が帰ってしまったことを気にしているのだろうか。だとしたら、フォローしておかないと。
「また、部活が休みの日に遊びに行ってもいい、かな?」
 そう言うと、菊臣の表情が少し緩んだ。
「う、うん。明日の日ならいつでも。今度、テスト期間になったら勉強を教えるから……」
 テスト期間に入ると、大会が近くない限りは部活が休みになる。そのときに、また菊臣の家に行くことになるのだろう。そのときに、もう少しだけ菊臣のことを知れたらいいと思う。
「それじゃあ、俺は部活に行くけど……」
 しかし、先ほどから教室の入り口で顔を覗かせている少女を見ると、菊臣の表情は心配そうな顔に変わる。
「大丈夫だって。ほら、部活行ってこいよ」
「お、おう……」
 不安は残っているのだろうが、菊臣を送り出すことには成功した。
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