インキュバスには負けられない

小森 輝

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59(完)

 何かを失うことなく、無事に次の日を迎えた朝。今日もいつもと変わらず、悪魔は縛られていた。相変わらず全裸なのだが、エネルギーを吸収したせいだろうか、妙に肌の艶がよくて気持ち悪かった。なので、いつもより厳重に縛ったのだが、夜と変わりはない。絶妙に肌がテカテカしているのがゴキブリみたいで気持ち悪いと思う。
 朝からそんなものを見て寝覚めは最悪なのだが、ある程度慣れ始めている自分が怖い。
 そんなことを考えながら、学校へと登校した。
 今日は早くもなく遅くもなく、いつも通りの時間に登校できた。
 教室に入り、自分の席で授業の準備をしていると、そこに菊臣もやってきた。
「おはよう、精志郎。昨日はあれから変わりはなかったか?」
 菊臣はまだ心配していたようだ。もちろん、インキュバスには気が抜けないのだが、サキュバスからの驚異はもうない。そのことを説明したいのだが、悪魔のことを話すわけにもいかないので、説明に困ってしまう。なので、僕が言えることは一つしかない。
「大丈夫。何も起こってないから」
「そうだといいんだけど……また来てるぞ」
 菊臣が親指で後ろを指すので見てみると、教室の入り口で顔だけ出しているアワセがいた。おそらく、昨日のことで来たのだろうが、まだ何か用があるのだろうか。
 そんな感じで見ていると、アワセは教室の中に入ってきた。相変わらず、男と知らなければ分からないような見た目だ。
 しかし、それはおかしなことだ。確か、彼は、サキュバスに強制されて女装をしていたはずだ。それなのに、サキュバスがいなくなった今でもアワセは女子の制服を着ている。
「なんでまだその制服を……?」
「こっちの方が馴染んでて……」
 そう言ってモジモジしている姿なんて、もう女子にしか見えない。サキュバスから無理矢理やらされていると思っていたのだが、性同一性障害とは言わなくともアワセは女装癖があるのだろう。
「その……あの人はいないの……?」
「あの人? あぁ……」
 僕と菊臣以外でアワセが知っている人物なんて一人しかいない。あの悪魔、インキュバスのことだろう。
「一緒じゃないんだ。もしかして、変なことでもされたか?」
「いえ。お礼を言ってなかったので……また今度来ます」
 そう言って、そそくさと教室を出て行ってしまった。今朝のインキュバスの肌の艶といい、なにか変なことをしでかしていないといいのだが。
「いいのか? 精志郎、あいつに襲われかけてたんだぞ?」
「事情があったみたいだからさ。それに、何事もなかったからいいじゃないか」
「まあ、俺もお前も、初めてを奪われなかったから訳だし……」
 菊臣は未だにアワセを敵視しているのだろうが、お互い、似たような性癖の持ち主だ。話していくうちにきっと打ち解けあえるだろう。
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