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第三章・せっくすの仕方がわからないぼくたちが、神の思し召しで遣わされた天使様方に教わって。
3-9・結果報告 その1
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3-9・結果報告 その1
欠片源所持者:イチカ
行為遂行対象者:レイ
場所:特段の希望なし 標準様式にて対応
用具:性行為指導用にダブルベッド一台追加
備考:担当二名の実演にて性行為の方法を指導
「おはようございます、ユージンさん」
「……おはよう」
翌朝のミゴーの挨拶は、腹立たしいくらいにいつも通りだった。一拍だけ言葉に詰まってしまった俺が、謎の悔しさを覚えてしまうくらいに。その後の、ややサボり加減の勤務態度も、休憩時間を含めた俺に対する態度も、何もかもがいつも通り。一方の俺が一日中ぼーっとしてしまっていたのとは天と地の差だ。
(ああ、でも)
半分上の空でPCに向かい、報告書の作成を続けながら考える。
そう言えば前も、そうだったっけ。
あの、ただ一度だけのはずだった過ちの翌朝。ミゴーが起きるのを待ちもせずに、俺はそそくさと彼の部屋をあとにした。出しなにようやく目を覚ましたミゴーに、帰っちゃうんですか、と声をかけられたのだけは覚えている。直後に俺が慌ただしく頭を下げたからだ──ごめん、なかったことにしてくれ、と。
今思い返してみると俺の行いも大概なもんだ。相手が純情な乙女だったら殴られても仕方がない仕打ちだが、しかし、翌日出勤してきたミゴーの態度はそれに輪をかけて酷かった。
「おはようございます、ユージンさん」
「……おはよう」
ああ、そうだった。前回も俺たちは今日とまったく同じ態度で、まったく同じ会話から一日を開始したのだ。
違ったのは、休憩時間。いつも通りミゴーを飯に誘うべきか否か、迷って固まっていた俺の肩を、ミゴーが軽い調子で叩いたときからだ。大げさなくらいに跳ね上がり、恐る恐るミゴーの顔を見上げた俺に、彼はいつもに増してうさんくさい、満面の笑みを浮かべながら言い放った。
「いやー、ユージンさん。ゆうべはお楽しみでしたね」
「……は?」
「いやいや、みなまで言わなくていいんですよ。俺もなんていうか、ごちそうさまでしたって感じです。あはは」
「は!? お前っ……」
あんまりにもあんまりな言い方に、俺は思わず椅子から立ち上がった。単刀直入な切り出し方はいいとして、こんな無神経な物言いをする奴だったか。憤るよりも困惑を覚えながら見下ろしていると、ミゴーの笑みがいつもの飄々としたものに戻る。
「ねえ、ユージンさん、そんなに重く考えないでくださいよ。たかがセックスの一回や二回で、俺たちの関係が変わるわけでもないでしょ?」
「いや、変わるだろ……普通」
「そうですか? なら三回目や四回目もしてみましょうか。そしたらもっといい方に転ぶかもしれませんよ」
「するか! 意味がわからん!」
「あはは」
人を煙に巻くような話のそらし方も、嘘くさい空笑いも、全部まさにいつも通りのミゴーだ。なんだか脱力してしまった。椅子に座り込んで腕を組みながら、自分の中で考えをまとめる。
わかった。つまり、こういう奴なのだ、ミゴーという人間は。らしからぬと思った無神経な言葉は、まだ付き合いの浅い俺が彼を見誤っていただけ。あるいは好意的にとらえれば、こいつなりのフォローのつもりなのかもしれない。何も重くとらえることはない、軽い冗談で終わらせるような話なんですよ、と。だとしても俺が笑ってやる義理は何もないのだが。
とにかく、そういうことなら俺の取るべき態度も自ずと決まる。こほんと咳払いをして、ミゴーの椅子に向き直った。
「……改めて言っておくこともないとは思うが」
「はい」
「昨夜のことは、忘れてくれるな?」
「え?」
当然返ってくると思っていた肯定は、なぜか意外そうな顔をしたミゴーの疑問符で打ち消される。
「いや、えってなんだ、えって」
「なんだはこっちのセリフですよ。忘れるわけないじゃないですか」
「はぁ!? なんでだよ、たかがセックスなんだろ!?」
「それとこれとは話が違うでしょ。忘れませんよ、もったいない」
「もった……っ」
「かわいかったですよー、昨日のユージンさん。痛い、こんなん入らないって泣きそうになってるのに、大丈夫ですかって手を握ったらこくんって頷いて」
「うあああ、やめろ、言うなっ!!」
脳みそが焦げる音を聞きながら机に突っ伏す。くそ。やっぱこいつ最悪だ。ああ、なんで俺はホイホイとこいつの口車に乗ってしまったんだ。いくら酔ってたからって、判断ミスにも限度があるだろ。今までこんな過ちを犯したことなんか当然一度もなかったのに、本当に、なんで今回に限って。
その後も。同僚と関係を持つなんて業務に差し支えるとか、そもそも俺はノンケなんだから忘れた方がお互いのためだとか、理屈をつけてなかったことにしようとする俺と、のらりくらりとかわしつつ、隙あらばモーションをかけてくるミゴー。幾日にも渡ってそのやりとりを繰り返すうちに、なんのかんのでこの関係が様式美のようになってしまったのは、不本意ではあるが収まるべきところに収まったと言えなくはないのかもしれない。
しかしその安寧は、収まった自分の心身がそれ以上揺れ動かない前提のもとにあるものであって。
昨日のあれは──仕事の一環とは言え、俺を揺らがすにはいささか強すぎる刺激だった。
欠片源所持者:イチカ
行為遂行対象者:レイ
場所:特段の希望なし 標準様式にて対応
用具:性行為指導用にダブルベッド一台追加
備考:担当二名の実演にて性行為の方法を指導
「おはようございます、ユージンさん」
「……おはよう」
翌朝のミゴーの挨拶は、腹立たしいくらいにいつも通りだった。一拍だけ言葉に詰まってしまった俺が、謎の悔しさを覚えてしまうくらいに。その後の、ややサボり加減の勤務態度も、休憩時間を含めた俺に対する態度も、何もかもがいつも通り。一方の俺が一日中ぼーっとしてしまっていたのとは天と地の差だ。
(ああ、でも)
半分上の空でPCに向かい、報告書の作成を続けながら考える。
そう言えば前も、そうだったっけ。
あの、ただ一度だけのはずだった過ちの翌朝。ミゴーが起きるのを待ちもせずに、俺はそそくさと彼の部屋をあとにした。出しなにようやく目を覚ましたミゴーに、帰っちゃうんですか、と声をかけられたのだけは覚えている。直後に俺が慌ただしく頭を下げたからだ──ごめん、なかったことにしてくれ、と。
今思い返してみると俺の行いも大概なもんだ。相手が純情な乙女だったら殴られても仕方がない仕打ちだが、しかし、翌日出勤してきたミゴーの態度はそれに輪をかけて酷かった。
「おはようございます、ユージンさん」
「……おはよう」
ああ、そうだった。前回も俺たちは今日とまったく同じ態度で、まったく同じ会話から一日を開始したのだ。
違ったのは、休憩時間。いつも通りミゴーを飯に誘うべきか否か、迷って固まっていた俺の肩を、ミゴーが軽い調子で叩いたときからだ。大げさなくらいに跳ね上がり、恐る恐るミゴーの顔を見上げた俺に、彼はいつもに増してうさんくさい、満面の笑みを浮かべながら言い放った。
「いやー、ユージンさん。ゆうべはお楽しみでしたね」
「……は?」
「いやいや、みなまで言わなくていいんですよ。俺もなんていうか、ごちそうさまでしたって感じです。あはは」
「は!? お前っ……」
あんまりにもあんまりな言い方に、俺は思わず椅子から立ち上がった。単刀直入な切り出し方はいいとして、こんな無神経な物言いをする奴だったか。憤るよりも困惑を覚えながら見下ろしていると、ミゴーの笑みがいつもの飄々としたものに戻る。
「ねえ、ユージンさん、そんなに重く考えないでくださいよ。たかがセックスの一回や二回で、俺たちの関係が変わるわけでもないでしょ?」
「いや、変わるだろ……普通」
「そうですか? なら三回目や四回目もしてみましょうか。そしたらもっといい方に転ぶかもしれませんよ」
「するか! 意味がわからん!」
「あはは」
人を煙に巻くような話のそらし方も、嘘くさい空笑いも、全部まさにいつも通りのミゴーだ。なんだか脱力してしまった。椅子に座り込んで腕を組みながら、自分の中で考えをまとめる。
わかった。つまり、こういう奴なのだ、ミゴーという人間は。らしからぬと思った無神経な言葉は、まだ付き合いの浅い俺が彼を見誤っていただけ。あるいは好意的にとらえれば、こいつなりのフォローのつもりなのかもしれない。何も重くとらえることはない、軽い冗談で終わらせるような話なんですよ、と。だとしても俺が笑ってやる義理は何もないのだが。
とにかく、そういうことなら俺の取るべき態度も自ずと決まる。こほんと咳払いをして、ミゴーの椅子に向き直った。
「……改めて言っておくこともないとは思うが」
「はい」
「昨夜のことは、忘れてくれるな?」
「え?」
当然返ってくると思っていた肯定は、なぜか意外そうな顔をしたミゴーの疑問符で打ち消される。
「いや、えってなんだ、えって」
「なんだはこっちのセリフですよ。忘れるわけないじゃないですか」
「はぁ!? なんでだよ、たかがセックスなんだろ!?」
「それとこれとは話が違うでしょ。忘れませんよ、もったいない」
「もった……っ」
「かわいかったですよー、昨日のユージンさん。痛い、こんなん入らないって泣きそうになってるのに、大丈夫ですかって手を握ったらこくんって頷いて」
「うあああ、やめろ、言うなっ!!」
脳みそが焦げる音を聞きながら机に突っ伏す。くそ。やっぱこいつ最悪だ。ああ、なんで俺はホイホイとこいつの口車に乗ってしまったんだ。いくら酔ってたからって、判断ミスにも限度があるだろ。今までこんな過ちを犯したことなんか当然一度もなかったのに、本当に、なんで今回に限って。
その後も。同僚と関係を持つなんて業務に差し支えるとか、そもそも俺はノンケなんだから忘れた方がお互いのためだとか、理屈をつけてなかったことにしようとする俺と、のらりくらりとかわしつつ、隙あらばモーションをかけてくるミゴー。幾日にも渡ってそのやりとりを繰り返すうちに、なんのかんのでこの関係が様式美のようになってしまったのは、不本意ではあるが収まるべきところに収まったと言えなくはないのかもしれない。
しかしその安寧は、収まった自分の心身がそれ以上揺れ動かない前提のもとにあるものであって。
昨日のあれは──仕事の一環とは言え、俺を揺らがすにはいささか強すぎる刺激だった。
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