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2章: 戦術なき軍師

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 聞けば入学翌日から決闘が催されるというのは、この士官学校創設以来の珍事だという。
 お陰で物見遊山のギャラリーが押し寄せ、当事者であるレムダさえもが会場入りに苦労する程だった。
 決闘に選ばれた場所。
 そこは長方形のバルコニーに囲まれた大理石造りのホールだった。
 バルコニーが観戦席で、中央へ行くにしたがって石段を三段上がった先が闘技フィールドである。
 これまた正方形の大理石が整然と並べられた空間で、戦いに地の利が生かせる余地はない。
 もっともそんなものに頼るつもりは毛頭なかったのではあるが。
「ふん、逃げずに来るとは。そこだけは褒めてあげてもよくてよ」
 フェリスはのこのこやって来たレムダを侮蔑的に眺めながら、腰のレイピアに指を掛けた。
 フィールドに上がったのは決闘する二人に加え、もう一人いる。
 物静かな中年の男が対峙する両者を交互に見ながら手を上げた。
「ではこれより校則第百七十八条一項に基づき、学生同士の決闘を開催する。なおこの決闘は同条二項に定める厳格な規則に基づいて実施し、勝敗の判定は学長であるハウフリーベンが証人として立ち会う。双方、決闘の前に申し立てはあるか?」
「ありません」
 最初にフェリスがきっぱりと答えた。
「あの~」
 レムダが遠慮がちに手を上げる。
「何だね?」
「最初に、この決闘の勝敗条件を教えてくれませんか?」
「は? あなた何を今更――」
「よかろう。決闘の勝敗要因は三つだ。双方のどちらかが死傷した時、あるいは昏倒、武器破損など戦闘継続な困難な状況に陥った場合、そして自ら決闘の敗北を審判に申告した場合のいずれかの条件が成立した時点だ」
「なるほど、よくわかりました」
「あら、私に勝てるとでも言うの」
「さて、どうですかね」
「ではこれより、フェリス=トレスデン及びレムダ=ゲオルグの決闘を執行する!」
「トレスデン!?」
「あっちはゲオルグだってよ? あの血塗られた一族の?」
 錚々たる名前が立て続けに呼ばれ、会場内はどよめいた。
 それは参加者とて例外ではなかった。
 白の皮手袋に包まれたフェリスの指が、微かに震えているのがわかる。
「ゲオルグ? あなたが?」
「ええ、これでもあのゲオルグ家の三男ですよ」
「いいでしょう。相手にとって不足はありませんわ」
 フェリスは剣を抜き放った。
 甲高い鞘鳴りの音がホール内の空気を張り詰めさせる。
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