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4章: 血縁なき絆

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 何事もなかったかのように、フェリスは自分の用向きの話を始める。
「ところで今日の予定は空いていますか?」
「え? やる事なら色々とあるけど?」
「・・・・・・やる事と言っても、どうせまた部屋に籠って熱心に研究だの何だのされるのでしょう? 少しは学生らしく、休日は外で遊びませんか?」
「遊ぶって?」
「その、ここは帝都ですから、色々とお店もありますし」
「いや、でも・・・・・・」
「さっきの泥棒猫のこと、知っている限りのことは教えてあげてもいいですよ」
 あまり言い出したくないようにフェリスが小声で言う。
「それなら、行くか」
「あら、そっちには興味を示すんですね?」
「何で?」
「いえ、では支度を整えますので」
「そういうわけだ、そろそろ起きろ、シア」
「ふわぁ・・・・・・あれ? アイツは?」
「とっくに窓から逃げたよ。今日は出掛けるぞ。フェリスさんが美味いものの店を教えてくれるってさ」
「あの、そのことなんですけど今日はできればふた――」
「やったぁ!!」
 シアは一気に目が冴えて飛び跳ねる。
「ああ、もうわかりましたよ」
 こうしてレムダ達は帝都の繁華街に足を延ばすこととなった。
 一番張り切っていたのはシアで、フェリスは最初それに振り回される形だったが、女同士趣味が合うのか、次第に二人で楽しむようになった。
 それはそれでよかったが、道を渡り歩く度、レムダの手荷物は増えていった。
「少しお茶でもしませんか?」
 青果市場を抜けた頃には陽が西に傾きかけていた。
 フェリスによるとこの先に行きつけの喫茶店があるという。
 それほど広くない店ではあったが、インテリアのこだわりが強く、訪れる客層も洒落物好きが多い。
 店主は意外にもごつい親父で、カウンターの奥に収まって不機嫌そうな顔でグラスを磨いている。
 静謐な店内で日当たりのよい丸テーブルを三人で囲む。
 あれだけ買い食いをしたにもかかわらず、シアは巨塔のようなパフェを注文し、それを苦笑いしながらフェリスとレムダはティーカップを握っていた。
「それで今朝の珍事のこと、教えてくれるんですよね?」
 パフェの半分がシアの胃袋に消えた頃、レムダが切り出した。
「ええ、私の知る範囲で」
「ではまず、あの子の素性を教えて下さい。僕達と同じ士官学校の学生、で間違いないんですよね?」
「同じ学生ではありますが、恐らくあれは魔導科の学生でしょう」
「魔導科? そんなものがあるのですか?」
「あまり人数が多くないから目立たないのかもしれませんが、この学校には私達一般の兵士を輩出する普通科、それに魔法の高い素養を持つ魔導科という学部が存在するのですよ」
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