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オメガは定期的な発情期があり、抑制剤を飲んで一人過ごすか、番い、伴侶、恋人などと過ごして発情をやり過ごすのが普通だが、当然その間は引きこもり一切何もできない。上位の見た目も能力も高いアルファに比べて発情期を持つオメガという存在は社会的に劣性な遺伝子として下に見るものも少なくないのだ。
大昔はオメガは下位の性として差別の対象であった。今はそんな差別はなく、全ての性は平等に扱う平和な世界……というのが建前。
差別意識というのは長年培ってきた潜在意識の中に組み込まれるものである。
今もなおオメガへの差別意識はあって、まだまだそれはなくなってはいない。
それを、「明日からみんな平等だから」と偉い人たちが言ったところですぐに変わるものではない。まぁでも差別をなくしていこうという世界的な状況であることは確かだ。
こんなに長々と第二の性とオメガ差別について説明したのは、そう、この俺がオメガであるからだ。
そして俺は、できそこないのオメガ。
思春期ごろからずっと親にそう言われて育った。
親元を離れて時間が経っているのに、まだズキズキと胸が痛む。もう言われ慣れてしまって平気だと思っていたのに、年々胸の痛みは深くなっていく気がする。
ふるふると頭を振って歩き出す。
もう家に帰ろう。
そう決めていそいそと帰り道を歩き出す。
お金もないので、結構な距離があるが徒歩で歩いて帰る。
ボロボロの小さくて狭いアパートだけど、住めば都。俺は狭いところのほうが落ち着くし、今日はあったかくして寝よう。
「イチロさん、もうこれ以上うちのアパートに住ませてやれないよ」
「ちょ、う、うそ!なんでですか大家さんっ!」
大家さんに追い縋る。
「もう家賃をニヶ月も滞納してるじゃないか」
「そ、それはそうですけど……。お金が出来たら必ずお支払いしますから」
「そうは言ってもねぇ」
「前は四ヶ月くらいでも待ってくれていたじゃないですか!」
「こう、何度も滞納させるとね、こっちも商売でやってるからね……悪いけど、今すぐ出てっておくれ」
「そ、そんなぁ~……」
ねずみ獣人の大家のおばちゃんに退去をお願いされてしまった。
俺が悲痛な声をあげるのは何度目だろう。大家さんも申し訳なさそうではあるが、意思は固そうである。
大家さんはふるふると首を左右に振って目を合わせてはくれない。
そんな大家さんを後にして部屋に戻った。
いつかはこうなってしまうんじゃないかと心配していた。その心配が現実となってしまった。
バイトが決まってもすぐにクビになり、なかなかまとまったお金ができない。そんな中でもなんとか毎日の生活費を節約して家賃を払ってきていたのに。
次のバイト先が中々決まらないのもあって家賃を長期間分滞納してしまっていた。
やっと決まったコンビニ店員も先ほど解雇されたばかりだ。
――仕事も家もなくてこの先どう一人で生きていこう……。
はぁ、とため息を吐いて肩を落とした。アパートの自分部屋に戻って荷造りを始める。狭い部屋には本当に自分のものは少ない。大きめの使い古したリュックに必要なものを詰める。
服とお気に入りの手触りのいいブランケット、日持ちのする安いナッツの入ったチョコレートと好物のひまわりの種に洗面用具。
それだけ。後は持っていくのも大変だから全て捨てていく。といってもそんなに物はないけど。
荷物を詰め込むと、服が嵩張ってリュックがパンパンに破裂しそうになった。冬服が分厚いものばかりで、リュックの中を圧迫する。まだそんなに寒くもないので冬服なんか着てしまうと暑すぎる。
でも捨ててしまうと、冬が来た時に寒すぎて動けなくなってしまう。
お金のない自分にとって、寒い季節も動いて働くためには冬服は必需品だ。最大限に潰して小さくしてギュギュッと押し込んでいく。
ゴミを捨てるとかなり狭かった部屋はがらんとしていて広く感じたほどだった。
大昔はオメガは下位の性として差別の対象であった。今はそんな差別はなく、全ての性は平等に扱う平和な世界……というのが建前。
差別意識というのは長年培ってきた潜在意識の中に組み込まれるものである。
今もなおオメガへの差別意識はあって、まだまだそれはなくなってはいない。
それを、「明日からみんな平等だから」と偉い人たちが言ったところですぐに変わるものではない。まぁでも差別をなくしていこうという世界的な状況であることは確かだ。
こんなに長々と第二の性とオメガ差別について説明したのは、そう、この俺がオメガであるからだ。
そして俺は、できそこないのオメガ。
思春期ごろからずっと親にそう言われて育った。
親元を離れて時間が経っているのに、まだズキズキと胸が痛む。もう言われ慣れてしまって平気だと思っていたのに、年々胸の痛みは深くなっていく気がする。
ふるふると頭を振って歩き出す。
もう家に帰ろう。
そう決めていそいそと帰り道を歩き出す。
お金もないので、結構な距離があるが徒歩で歩いて帰る。
ボロボロの小さくて狭いアパートだけど、住めば都。俺は狭いところのほうが落ち着くし、今日はあったかくして寝よう。
「イチロさん、もうこれ以上うちのアパートに住ませてやれないよ」
「ちょ、う、うそ!なんでですか大家さんっ!」
大家さんに追い縋る。
「もう家賃をニヶ月も滞納してるじゃないか」
「そ、それはそうですけど……。お金が出来たら必ずお支払いしますから」
「そうは言ってもねぇ」
「前は四ヶ月くらいでも待ってくれていたじゃないですか!」
「こう、何度も滞納させるとね、こっちも商売でやってるからね……悪いけど、今すぐ出てっておくれ」
「そ、そんなぁ~……」
ねずみ獣人の大家のおばちゃんに退去をお願いされてしまった。
俺が悲痛な声をあげるのは何度目だろう。大家さんも申し訳なさそうではあるが、意思は固そうである。
大家さんはふるふると首を左右に振って目を合わせてはくれない。
そんな大家さんを後にして部屋に戻った。
いつかはこうなってしまうんじゃないかと心配していた。その心配が現実となってしまった。
バイトが決まってもすぐにクビになり、なかなかまとまったお金ができない。そんな中でもなんとか毎日の生活費を節約して家賃を払ってきていたのに。
次のバイト先が中々決まらないのもあって家賃を長期間分滞納してしまっていた。
やっと決まったコンビニ店員も先ほど解雇されたばかりだ。
――仕事も家もなくてこの先どう一人で生きていこう……。
はぁ、とため息を吐いて肩を落とした。アパートの自分部屋に戻って荷造りを始める。狭い部屋には本当に自分のものは少ない。大きめの使い古したリュックに必要なものを詰める。
服とお気に入りの手触りのいいブランケット、日持ちのする安いナッツの入ったチョコレートと好物のひまわりの種に洗面用具。
それだけ。後は持っていくのも大変だから全て捨てていく。といってもそんなに物はないけど。
荷物を詰め込むと、服が嵩張ってリュックがパンパンに破裂しそうになった。冬服が分厚いものばかりで、リュックの中を圧迫する。まだそんなに寒くもないので冬服なんか着てしまうと暑すぎる。
でも捨ててしまうと、冬が来た時に寒すぎて動けなくなってしまう。
お金のない自分にとって、寒い季節も動いて働くためには冬服は必需品だ。最大限に潰して小さくしてギュギュッと押し込んでいく。
ゴミを捨てるとかなり狭かった部屋はがらんとしていて広く感じたほどだった。
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