1 / 4
1
しおりを挟む
ここは魚人族の集うお洒落なバーである。
浅瀬が広がるこじんまりとした無人島。月明かりに水面が蒼白く反射して光り輝いており、水中には光る魚や貝が散り散りに広がっていて思ったより明るい。
無人島の近く、浅瀬の海の中に建つバー。
丸く円になっているカウンターの中心にタコ魚人のマスターがいる。マスターからは手足がたくさん出て次々にカクテルを作ってサーブしている。
カウンターの周りには円柱状の椅子が海の中に沈んでいる。座ると腰まで浸かるほどの高さだ。月明かりに照らされて見える全てが幻想的で、異世界にきてしまったようだ。
まぁ、実際人族の自分にとって魚人のテリトリーに来ているのだから異世界にきてしまったと言っても間違いではない。
今回人族の私がこの魚人族の領域に踏み込むことになったのは、仲良くなった人魚のルシュールカから行きつけのお洒落なバーがあると聞きつけたからだ。
ひょんなことから陸に住む人族の自分と海に棲む魚人族で人魚のルシュールカと仲良くなった。
ある日、早朝に朝のお散歩として海辺を1人歩いていたところ、なんと人魚が打ち上げられており、かろうじて息をしていたルシュールカを私が助け出したのだ。これがひょんなことの詳細だ。
滅多に近寄らない海辺に、散歩もしない自分がなぜかあの早朝に行くことにしたのは本当に偶然だった。
見つけてから人族の医者に見せて、すぐにルシュールカは回復した。元気になって海に帰ったその後も、なんやかんやと次に海辺で会う約束を取り付けては私とルシュールカは色んなことを語り合った。
こんなに話が合って仲良くなれる人と出会えるとは思ってもみなかったなぁ。
このバーはルシュールカ行きつけとは言っても最近出来た若者向けの魚人専門のバーである。客の中で人間はスーシャのただ1人しかいない。
今日は平日の中日で比較的バーで飲むにはいささか早い時間でもあり、バーはそんなに混み合ってはいなかった。
それでもちらちらと周りからは少なくない視線を感じた。悪い視線というわけではなく、珍しい珍獣を見る観客のような視線だ。自分が動物園の動物にでもなったような気分になる。
カウンター席へと2人並んで座り、メニューを見たがそもそもお酒に詳しくもなく、魚人バー特有のカクテルもあるようで何が何だかわからない。
「マスター、おすすめ2つお願い」
ルシュールカが、とりあえずここのおすすめを飲んでみて、と同じものを2つ頼んだ。
すると、マスターのタコの足(手?)がにょろにょろと宙を舞い、青のグラデーションの液体がおしゃれな透明の貝を型どったグラスへと注がれる。
「すごくキレイ~~!テンション上がる!」
「でしょでしょ!初めて来た時もすごく興奮して!絶対にスーシャを連れてきたいって思ったのよね」
「初めて来た時は誰に連れてきてもらったの?」
「……えっとぉ、付き合ってる……彼氏に……」
きゃー恥ずかしー!と顔を両手で隠しながら照れる人魚。そんな姿が、すべてがかわゆい。
天使かよ。いや人魚だけど。
「お付き合いは順調なんだねぇ。いいねぇ。同じ人魚の彼氏だっけ?」
「そうだよ~。スーシャは今彼氏は?」
「いないよ」
「あれ?!この前会った時に一緒にいた人は?」
「あれは、まぁ、……友だち?」
セックスをする友だちだ。ただそのまま伝えるのは憚られるため言葉を濁す。私には特定の異性はいない。むしろ作らないようにしている。
なぜなら、1人が気楽だからだ。
元々ただの田舎の村娘だったが、村中の人が「結婚しろ」「子ども作れ」と会うたびに口にしてきた。村の女たちを見ても結婚したいとは到底思えなかった。
村の妻たちは遊びもせずに家事育児を1人で行い、おしゃれも出来ず、化粧っ気もない。しまいには、夫は子どもだけ沢山作って面倒も見ずに他の若い女にうつつを抜かす。
それを女たちが集う場でやんややんやと夫の文句を垂れるだけ垂れて、日々のストレスを少し発散するだけでなんの解決にもなっていない。
そんな村の世帯持ちたちの姿を見ているからか結婚願望も希望もない。
根なし草として、ふらふらと色々な場所を旅して、見て、触れて、感じることが楽しいのだ。
それでも子どもはいつかは欲しいなとは思っているけれど、女手1つでも育てられて、それを許してくれる周りの環境が整った場所なんて中々見つからない。
だから自分の根を下ろす場所探しのための旅をずっと続けている。そんな場所が見つかるかどうかわからないけど。
今はルシュールカとの友好関係がとても心地よくてこの海辺の街に長く居座っているが、ここまで長く1つの場所にいたことはないな、とふと思った。
何杯目かのお洒落なカクテルグラスを傾けて、目線と思考を宙に浮かせていた私は人魚のルシュールカへと視線を向ける。
「友だちにしては親しげだったよねぇ?」
「まぁ、そうなんだけど……って、わぁ!」
今までルシュールカとの会話と自分の思考に夢中で隣の席に巨体が座っていることに気づかなかった。
その隣の巨体の主と自分の肩がぶつかってしまい、そのぬるりとした肌の感触にびっくりして大きな声を上げてしまった。
浅瀬が広がるこじんまりとした無人島。月明かりに水面が蒼白く反射して光り輝いており、水中には光る魚や貝が散り散りに広がっていて思ったより明るい。
無人島の近く、浅瀬の海の中に建つバー。
丸く円になっているカウンターの中心にタコ魚人のマスターがいる。マスターからは手足がたくさん出て次々にカクテルを作ってサーブしている。
カウンターの周りには円柱状の椅子が海の中に沈んでいる。座ると腰まで浸かるほどの高さだ。月明かりに照らされて見える全てが幻想的で、異世界にきてしまったようだ。
まぁ、実際人族の自分にとって魚人のテリトリーに来ているのだから異世界にきてしまったと言っても間違いではない。
今回人族の私がこの魚人族の領域に踏み込むことになったのは、仲良くなった人魚のルシュールカから行きつけのお洒落なバーがあると聞きつけたからだ。
ひょんなことから陸に住む人族の自分と海に棲む魚人族で人魚のルシュールカと仲良くなった。
ある日、早朝に朝のお散歩として海辺を1人歩いていたところ、なんと人魚が打ち上げられており、かろうじて息をしていたルシュールカを私が助け出したのだ。これがひょんなことの詳細だ。
滅多に近寄らない海辺に、散歩もしない自分がなぜかあの早朝に行くことにしたのは本当に偶然だった。
見つけてから人族の医者に見せて、すぐにルシュールカは回復した。元気になって海に帰ったその後も、なんやかんやと次に海辺で会う約束を取り付けては私とルシュールカは色んなことを語り合った。
こんなに話が合って仲良くなれる人と出会えるとは思ってもみなかったなぁ。
このバーはルシュールカ行きつけとは言っても最近出来た若者向けの魚人専門のバーである。客の中で人間はスーシャのただ1人しかいない。
今日は平日の中日で比較的バーで飲むにはいささか早い時間でもあり、バーはそんなに混み合ってはいなかった。
それでもちらちらと周りからは少なくない視線を感じた。悪い視線というわけではなく、珍しい珍獣を見る観客のような視線だ。自分が動物園の動物にでもなったような気分になる。
カウンター席へと2人並んで座り、メニューを見たがそもそもお酒に詳しくもなく、魚人バー特有のカクテルもあるようで何が何だかわからない。
「マスター、おすすめ2つお願い」
ルシュールカが、とりあえずここのおすすめを飲んでみて、と同じものを2つ頼んだ。
すると、マスターのタコの足(手?)がにょろにょろと宙を舞い、青のグラデーションの液体がおしゃれな透明の貝を型どったグラスへと注がれる。
「すごくキレイ~~!テンション上がる!」
「でしょでしょ!初めて来た時もすごく興奮して!絶対にスーシャを連れてきたいって思ったのよね」
「初めて来た時は誰に連れてきてもらったの?」
「……えっとぉ、付き合ってる……彼氏に……」
きゃー恥ずかしー!と顔を両手で隠しながら照れる人魚。そんな姿が、すべてがかわゆい。
天使かよ。いや人魚だけど。
「お付き合いは順調なんだねぇ。いいねぇ。同じ人魚の彼氏だっけ?」
「そうだよ~。スーシャは今彼氏は?」
「いないよ」
「あれ?!この前会った時に一緒にいた人は?」
「あれは、まぁ、……友だち?」
セックスをする友だちだ。ただそのまま伝えるのは憚られるため言葉を濁す。私には特定の異性はいない。むしろ作らないようにしている。
なぜなら、1人が気楽だからだ。
元々ただの田舎の村娘だったが、村中の人が「結婚しろ」「子ども作れ」と会うたびに口にしてきた。村の女たちを見ても結婚したいとは到底思えなかった。
村の妻たちは遊びもせずに家事育児を1人で行い、おしゃれも出来ず、化粧っ気もない。しまいには、夫は子どもだけ沢山作って面倒も見ずに他の若い女にうつつを抜かす。
それを女たちが集う場でやんややんやと夫の文句を垂れるだけ垂れて、日々のストレスを少し発散するだけでなんの解決にもなっていない。
そんな村の世帯持ちたちの姿を見ているからか結婚願望も希望もない。
根なし草として、ふらふらと色々な場所を旅して、見て、触れて、感じることが楽しいのだ。
それでも子どもはいつかは欲しいなとは思っているけれど、女手1つでも育てられて、それを許してくれる周りの環境が整った場所なんて中々見つからない。
だから自分の根を下ろす場所探しのための旅をずっと続けている。そんな場所が見つかるかどうかわからないけど。
今はルシュールカとの友好関係がとても心地よくてこの海辺の街に長く居座っているが、ここまで長く1つの場所にいたことはないな、とふと思った。
何杯目かのお洒落なカクテルグラスを傾けて、目線と思考を宙に浮かせていた私は人魚のルシュールカへと視線を向ける。
「友だちにしては親しげだったよねぇ?」
「まぁ、そうなんだけど……って、わぁ!」
今までルシュールカとの会話と自分の思考に夢中で隣の席に巨体が座っていることに気づかなかった。
その隣の巨体の主と自分の肩がぶつかってしまい、そのぬるりとした肌の感触にびっくりして大きな声を上げてしまった。
114
あなたにおすすめの小説
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
獅子の最愛〜獣人団長の執着〜
水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。
目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。
女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。
素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。
謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は…
ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる