『たった6文字のHOPE ~神谷探偵事務所はぐれ事件簿~』

水由岐水礼

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FILE・#7 憤り&不愉快がいっぱい

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 カァーカァー……カァー……。
 烏の鳴き声が、うら寂しい墓地に喧しくも不気味な味わいを添えている。
 真新しいものもあれば、長年風雨に曝され続けてきたであろう苔むしたものもある。いったい何基くらいあるのだろう、辺りには墓石や卒塔婆が所狭しと並んでいた。
 涼介の妖怪のお兄ちゃん姿が、場所柄にあまりにも相応しすぎたのだろう。
 向かいからやって来たカップルが、露骨にギョッとした表情をした。
 二人とも、涼介と同じくらいの年頃だ。
 男の方は、胸元に一眼レフのカメラをぶら下げている。
(なんだろう……この人たち)
 美咲は、涼介の隣でちょこっと首を傾げた。
 夕陽の放つ光線が、墨染寺本堂裏の墓地に降り注いでいる。
 じきに逢魔が時もやって来るだろう。
 少なくとも、人が好んで訪れるような場所でも時間帯でもない。
 ……何をしているんだろう。
 目の前の若いカップルは、どう見てもお参りにきている様子ではなかった。
 まさかデート中だとも思えない。
 一眼レフのカメラなど持ち出して、こんな場所でいったい何を撮ろうというのか。
 思い出の1枚……というには、この場所はあまりにも最低最悪のロケーションだ。
(……変な人たち)
 たっぷりの好奇心と共にそう思ったけれど、美咲はすぐに苦笑する。
(それは、あたしたちも同じかあ……)
 夕暮れの墓地を歩いているカップルという意味では、こちらも向こうと一緒だ。
 あちらの二人も、自分と同じようなことを思っているに違いない。
 美咲はもたれ掛かるようにして、涼介の腕に自分の腕を絡ませていた。
 涼介の個性的な風体に、美咲の方は学校帰りのセーラー服姿。
 夕暮れ時の寂しげな墓地で、寄り添い歩く妖怪男と女子高生の二人連れ……。
 あちらの二人の目には、さぞかし奇怪なカップルに映っていることだろう。
 ちらちらと、何かを探るように女性の視線が涼介に向けられている。
 遠慮気味の女性に対し、男の方はあからさまに涼介を見つめていた。
 その視線が隣の美咲に移る。
 目と目とが合った。美咲はにっこり微笑んだ。
 微笑に意味などない。ただ単に、「こんにちは」の挨拶代わりくらいのものだった。
 なのに、狼狽したように、男が慌てて美咲から目を逸らす。
 男には、「にっこり」が口裂け女に代表される「にやり」にでも見えたのかもしれない。
 男の反応に、美咲はムッとした。
(なによそれ! 人のことを物の怪か妖怪みたいに!)
 擦れ違いざまに、美咲は男の方をむすっとした顔で睨みつけた。
 それでも収まらず、くるりと身体の向きを変え、去っていく男の背中に「あっかんべー」をくれてやる。
 その時、間が良くか悪くか、男の方も後ろを振り返った。
 男の眉間に皺が寄る。
 相手の顰めっ面に、とりあえず美咲は溜飲を下げる。
「フン、だ!」
 さっさと正面に向き直る。
 背後でカメラ男がどんな顔をしていても、もう知ったことではない。
 目的の墓は、あと数ブロック先だった。
 会いに来た知人の姿もすでに見えている。こちらに向けて手を挙げている。
 どうやら、美咲の「あっかんべー」が見えていたらしい。
 知人、神谷探偵事務所・別働隊元締め、西河晋次郎はおかしそうに笑っていた。
「晋さん!」
 と、美咲は、警官姿の享年48歳の幽霊に手を振り返した。
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