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私は、独り、流される
片腕の少女*
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馬に乗って城への道を走る。
目の前には、片腕の女の子。彼女を乗せた時に見た瞳は翳り、目の周りは腫れぼったくなっていた。
拒んでいたパレードへの参加が強制され、こうして表舞台へと引き摺り出されて、これからずっと人目に晒される。それでも彼女は何も言わず、背筋をピンと伸ばして前を見据えている。
平凡な少女だ。長閑な村の娘。優しい両親に愛情をもって育てられ、親しい友の為に旅へと向かったごく普通の、戦う術のない女の子。
辛くはないのだろうか。
そんなことを問う権利は、私には無いのだけれど。
「緊張しておりますか。」
「え?…あぁ、そうですね。」
ピクリと反応して頷く姿は以前と変わらず、しかしどこか壁がある。当然だ。昨日私は彼女に刃を向けたのだから。
「私はマリーゴールド様の護衛も兼ねておりますので、傍にいる事をご了承ください。」
「護衛、ですか。すみません。」
「…何故謝罪を?」
「ただでさえ足手まといなのに、腕も無くなっちゃいましたし…。侍女さんは本来なら姫様の護衛でしょう?役立たずの私がいるばっかりに迷惑をかけてしまい申し訳なくて。」
心からそう思っている様子の彼女に、私は何故か胸が痛んだ。それは久しぶりの事で、内心驚く。姫の護衛についてから、心を動かす事などしていなかったというのに。
そう思ったら、思わず口から言葉が零れ出していた。求められていないのに個人的な思いを話すなど、護衛としては失格だ。
「いえ、むしろ、1度己を害そうとした者が護衛にあたるなんてと怒っていい所だと思いますが。」
「怒る?」
「はい。昨日、私は貴女に刃を向けました。命を、脅かしたのですよ。」
「それは仕方ないです。私が不用意な発言をしそうになったから、止めてくれたんですよね?」
「…私は王家に忠誠を誓っておりますので。」
はいともいいえとも言えず、私はそう言うしか無かった。それに気付いたのか、彼女が口を開く。
「あ、すみません。でも私はどちらでもよかったんです。」
「どういう意味でしょうか?」
「私が貴女に殺されても、殺されなくても。ヴィーがいないのなら、どちらでも。」
その声はいつもと変わらないままなのに、今まで聞いてきたどの声よりも悲痛で、思わず息を飲む。
「……。」
「昨日はありがとうございました。貴女に殺されなくて、ホッとしたのも事実ですから。…私は貴女を怖がっていませんよ。大丈夫です。」
こちらを向いた瞳には、私への怯えは無かった。その事に、酷く動揺する。
そんな私の心に反応して愛馬のシェリーが鳴く。その声にハッとして安心させるようにその背を撫でた。
「…では、私に寄りかかっていただけますか。そちらの方が私も楽ですので。」
「分かりました。」
素直に身体を預けてくれる彼女の暖かな体温に、私はとんでもないことをしてしまったのではないかという不安を覚えた。
我が君よ、姫によく似た色の彼女を犠牲にして得られた未来は、明るいものだと信じていいのでしょうか。
親しい友と片腕を失った少女の前で、彼女の犠牲を仕方の無い事だと思う事は、もう出来なかった。
目の前には、片腕の女の子。彼女を乗せた時に見た瞳は翳り、目の周りは腫れぼったくなっていた。
拒んでいたパレードへの参加が強制され、こうして表舞台へと引き摺り出されて、これからずっと人目に晒される。それでも彼女は何も言わず、背筋をピンと伸ばして前を見据えている。
平凡な少女だ。長閑な村の娘。優しい両親に愛情をもって育てられ、親しい友の為に旅へと向かったごく普通の、戦う術のない女の子。
辛くはないのだろうか。
そんなことを問う権利は、私には無いのだけれど。
「緊張しておりますか。」
「え?…あぁ、そうですね。」
ピクリと反応して頷く姿は以前と変わらず、しかしどこか壁がある。当然だ。昨日私は彼女に刃を向けたのだから。
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「護衛、ですか。すみません。」
「…何故謝罪を?」
「ただでさえ足手まといなのに、腕も無くなっちゃいましたし…。侍女さんは本来なら姫様の護衛でしょう?役立たずの私がいるばっかりに迷惑をかけてしまい申し訳なくて。」
心からそう思っている様子の彼女に、私は何故か胸が痛んだ。それは久しぶりの事で、内心驚く。姫の護衛についてから、心を動かす事などしていなかったというのに。
そう思ったら、思わず口から言葉が零れ出していた。求められていないのに個人的な思いを話すなど、護衛としては失格だ。
「いえ、むしろ、1度己を害そうとした者が護衛にあたるなんてと怒っていい所だと思いますが。」
「怒る?」
「はい。昨日、私は貴女に刃を向けました。命を、脅かしたのですよ。」
「それは仕方ないです。私が不用意な発言をしそうになったから、止めてくれたんですよね?」
「…私は王家に忠誠を誓っておりますので。」
はいともいいえとも言えず、私はそう言うしか無かった。それに気付いたのか、彼女が口を開く。
「あ、すみません。でも私はどちらでもよかったんです。」
「どういう意味でしょうか?」
「私が貴女に殺されても、殺されなくても。ヴィーがいないのなら、どちらでも。」
その声はいつもと変わらないままなのに、今まで聞いてきたどの声よりも悲痛で、思わず息を飲む。
「……。」
「昨日はありがとうございました。貴女に殺されなくて、ホッとしたのも事実ですから。…私は貴女を怖がっていませんよ。大丈夫です。」
こちらを向いた瞳には、私への怯えは無かった。その事に、酷く動揺する。
そんな私の心に反応して愛馬のシェリーが鳴く。その声にハッとして安心させるようにその背を撫でた。
「…では、私に寄りかかっていただけますか。そちらの方が私も楽ですので。」
「分かりました。」
素直に身体を預けてくれる彼女の暖かな体温に、私はとんでもないことをしてしまったのではないかという不安を覚えた。
我が君よ、姫によく似た色の彼女を犠牲にして得られた未来は、明るいものだと信じていいのでしょうか。
親しい友と片腕を失った少女の前で、彼女の犠牲を仕方の無い事だと思う事は、もう出来なかった。
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