主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、独り、流される

ゆめ、と、せかいの、

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ヴィーの傍に私の心があるなんて話をしたからだろうか。私はその日腕を無くしてから初めてヴィーの夢をみた。

目の前に立つヴィーはちょっと怒ったような、困ったような顔をしている。

─ヴィー!!!

何故か、声が聞こえない。確かに叫んだ筈なのに、私の声は、聞こえなかった。叫びと共に駆けた筈なのに、私の身体は動かなかった。動け動けと念じているのに、ピクリとも動かない身体に苛立ちが募る。

…こんなに傍にいるのに、また私には何も出来ない。嫌だ。嫌だ嫌だ。私はヴィーを抱きしめたいのに、怒りたいのに、泣きたいのに、どうして。どうして!!!

「全く、マリーはここぞという時無茶するんだから。」

溜め息を零して、ヴィーが言う。ヴィーの声だ。ヴィーの声が聞こえる。私を叱ろうとする時の、少しだけ改まった声。

「まずは落ち着きなさい。ここは夢と世界の狭間、みたいな所ね。マリーが今動けないのは、本来君がここにくる事は許されていないから。いや、許されていないっていうか、イレギュラー過ぎて対応出来てないというか。そもそもゲームにない展開だったし当たり前なんだけど。」

相変わらずゲームの事になるとヴィーは早口だ。貴女がいなくなってからそんなに経っていないのに懐かしくて、嬉しくて。

「マリー?ちゃんと聞いて。君がした事によって、未来が少しだけ変わったみたいなの。それがいいのか悪いのかは、私には分からない。」

ヴィーの知る未来。ここがゲームの世界だと言ったヴィーが提示した3つの結末。

魔王が倒され、世界に平和が訪れる、ハッピーエンド。

魔王を封印し、監視をし続けるトゥルーエンド。

魔王に敗北し、世界が滅亡へと歩みを進めるバッドエンド。

分岐点は、仲間の数、レベル、聖剣の有無、クエストの達成度、魔王へのダメージ総量だと言っていた。

ヴィーはハッピーエンドを目指して慎重に、けれど確実に条件を達成していった。ハッピーエンドは皆が幸せに暮らす平和な世界への第1歩だと、そう言っていたのを思い出す。

魔王は倒せた。これで平和に、幸せに暮らせると思っていたのに。そこにヴィーがいないなんて、考えもしなかった。

「ねぇマリー。私知ってたの。最後、『勇者』が次の魔王になる事を。このゲームはそうして何周も遊べるってコンセプトだったから。今の私は残りカスみたいな感じかな。君の親友ヴィオレットは、もうこの世にはいない。」

ヴィーの言葉に絶望する。

─ねぇ、どうして教えてくれなかったの。

「どうしてって顔してる。だって言ったら絶対阻止しようとするでしょ?」

─当たり前だ。ヴィーは私の大切な親友なのだから。

「ほら、だから言わなかったんだよ。…私は『勇者』だから。そういう役を与えられた人形だとしても、この世界を守るために戦わなきゃいけなかったの。辛かったし、何度も辞めたいって思った。でも、君が、アシェルが、村のみんなが生きていく為には必要な事だった。」

どうしてヴィーだったんだろう。どうして姫様じゃ駄目だったんだろう。勇者が知らない誰かであれば、無責任に祈っていられたのに。

「後悔はしてない、訳でもないけど、多分何度だって同じことすると思うからしょうがないよね。私、マリーもアシェルも村のみんなも大好きだから。」

大好きだと言うのならば、どうして傍にいてくれないの。しょうがないなんて言わないで。そんな顔で笑わないで。

動かない身体が、届かない声が、こんなにも恨めしい。

「…そろそろ夜が明けるみたい。マリー、忘れないで。未来は変わった。私の知る未来とはズレ始めた。これがどんな意味を持つか、考えて。物語は私の手を離れ、別のものへと変わっていくの。ちゃんと前を見て、生きていきなさい。決して私の所に来ようとなんてしないこと。分かった?」

少しずつヴィーが消えていく。それが嫌で、怖くて、悲しくて、必死に手を伸ばすのに、やっぱり私の身体は動いてくれなかった。

「いきなさい、マリー。君の幸せを心から願ってる。大好きよ。」



ねぇ、貴女がいないのに、どうして幸せになれるというの。



ヴィーは賢い癖に、どうしようもない馬鹿だ。
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