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私は、独り、流される
さばかれるひとたち
しおりを挟む鋭く厳しい言葉と共に現れたのは、王妃様だった。慌てて膝をつく。王妃様は数人の騎士を従え、姫様の元へ足を進めていく。あ、侍女さんもいる。それに騎士の中の1人は見た事がある。確か近衛隊長ではなかっただろうか。
「王族は民の為にあるもの。そしてそれを守る騎士もまた、民の為にあると聞いていたのですが。いつから騎士の心得は弱者を虐げるものに変わってしまったのでしょう。アルベルト、教えて下さらない?」
「返す言葉もありません。」
「隊長!」
頭を下げた近衛隊長に、騎士が驚きの声をあげる。
「貴方には期待していたのですが、残念です。」
「申し訳ございません。人の為戦う姿を間近で見れば、騎士たる心得は自然と身に付くと思っていたのですが。」
「貴方のその使えるものはなんでも使う精神も嫌いではなかったのだけれど。まさか世界の危機に希望を貶めるようなことをする騎士を付けるなんて、許される事ではないわね?」
「はい。」
「よろしい。勇者及び英雄の名誉を著しく傷つけたとして、近衛隊長を懲戒処分とし、ギリュー他数名の騎士を身分剥奪の上無期限の金鉱労働を命じます。」
「はっ。王妃様の御心のままに。」
深く頭を垂れる近衛隊長に、旅に同行していた騎士達から動揺の声が上がる。筆頭はギリューだ。
「っお待ちください!そんな、私は、」
「誰が発言していいといいましたか。」
「あ、」
「わたくしは発言を許した覚えはないのだけれど。」
冷たい声が静かに響く。顔を青くした彼が慌てて謝罪するも切り捨てられる。
「謝罪は結構よ。今回の件は貴方の首1つですむものだと思って?思い上がりも大概にしてちょうだいな。本来なら極刑も免れないところだけれど、世界平和の叶った直後にというのはさすがに無粋というもの。よかったわね、勇者様が魔王を倒してくださって。お陰で貴方方は生きていられるわ。…この者たちを連れて行きなさい。」
王妃様が連れてきた騎士達が一斉に動き出す。抵抗するもの、大人しく従うものがいる中で、縋るように近衛隊長を呼ぶ声が聞こえた。
「隊長…!」
「俺達騎士は清廉ではいられない。だからこそ、己を磨き、正義を見据えて誇り高く生きなければならないのだ。お前は今、お前の一番大切な人に胸を張って誇り高き騎士だと言えるか。勇者にした行いを、大切な人にも出来るのか。…出来ないのならば、それはしてはいけない事であったのだ。」
近衛隊長の言葉に思うところがあったのか、抵抗していた者達も動きを止め、静かに連行されていった。
残ったのは数人の騎士達。確かに彼等には暴力を振るわれたことも命令された事もなかったように思う。魔法騎士様もそこにいた。目が合うと笑顔を向けられ慌てて視線を逸らす。
すると、頭上に影が差した。顔をあげると王妃様が立っている。驚く私に王妃様は手を差し出してくれた。恐る恐る手を取り立ち上がる。
「英雄様…いえマリーゴールド様。この度は、本当に申し訳ございませんでした。世界の為に立ち上がった勇気に感謝と賞賛を。そしてその心を踏みにじるかのような行いに謝罪を。」
王族に頭を下げられる経験を2度もするなんて、思ってもみなかった。別に王妃様と姫様は悪くないと思うのだけれど。こういう時はどう言うのが正解だっただろうか。正式な場で謝罪を受けた時、ヴィーは貴族の方に頭を下げられた時どうしていただろう。あ、そうだ、えっと、
「…許します。」
「ありがとうございます。」
頭を上げてくれたから、これが正解だったようだ。良かった。
「旅の最中に起きた出来事は概ね把握しております。若い身空でお辛かったでしょう。…本当になんと言って良いか。今はただ感謝と弔いの言葉を受け取っていただけますでしょうか?」
「…はい。」
痛ましげな表情を浮かべる王妃様に、本心なのだろうかと考えてしまう私は、本当に嫌な人間だ。今回のことだって、全部仕組まれていた事だったら、という思いが捨てられない。
本当に、どうしてあの騎士達だったのだろう。あの人たちでなければ、あの子が死ぬ事も、ヴィーが傷付く事もなかったかもしれないのに。
王妃様の顔を見れなくて俯く私に、王妃様は感謝の言葉を述べると椅子へ腰掛け、隣を指し示した。侍女さんが椅子を引く。大人しくそこに座ると、隣に姫様が座った。この位置に私がいていいのだろうか。緊張して死にそうだ。
「それでは、これからの事を話し合いましょう。」
にっこり笑った王妃様が楽しそうにそう言った。
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