主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、独り、流される

はなしあい

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※グロテスクな死体描写注意

「今回の襲撃は起こりうるものでした。騎士達に警戒をするよう伝達していたのもあり、速やかに鎮圧が行われ、被害は最小限に抑えられたと思われます。中でも、サーフィとマリーゴールド様の活躍は我々の勝利に大きく貢献しました。」

王妃様の言葉に戸惑っていると、私の後ろに控えていた侍女さんが静かに頭を下げた。私もそれを真似をする。

「魔族はA級ランクとされていますが、マリーゴールド様の最上級魔法で倒れなかった者達はそれ以上と考えた方が良いかと思われます。特に、あの4体の魔族、いえ3体の魔族は桁外れ。SSランク、もしくは災害級のXランク指定を検討しています。」

「あの、イールと呼ばれていた魔族は侍女さんが…?」

「はい。運が良かったといいますか、あの魔族は火を得意としていたようで、水の使い手であるサーフィにはやりやすい相手だったようです。随分と直情的なようでしたしね。」

空に浮かんでいた魔族を思い出す。確かに、あまり頭を使うようには見えなかった。

「お母様、他の魔族について何か分かったことは?」

「いえ、サーフィがあの魔族を討伐した後、彼等はすぐに撤退していきましたから、詳しいことは何も。マリーゴールド様は面識があった様子でしたので話を聞きたいと思い、この場を設けさせていただきました。ソフィアも彼については知っているようですわね。」

「はい。旅の途中に立ち寄った村で、森で怪しげな影を見たという報告がありました。村では、それは魔物ではないかとまことしやかに噂が流れており、ヴィオレット様が様子を見に行くと。森に入ったのはギリューを含む数名の騎士と、わたくしとマリーゴールド様、ヴィオレット様です。森を進んでいくと少し開けたところに小屋が建っておりました。そこに住んでいたのが、魔族であるソレントと人間の子供です。名前はエイダン。はっきりとした年齢は分かりませんが10歳前後くらいに見えました。ソレントは数年前に拾ったと。エイダンにはソレントに拾われる前の記憶は無いようで、エイダンという名前もソレントに付けてもらったそうです。」

自分の名前を嬉しそうに教えてくれたエイダン。彼はソレントが魔族である事を知っていた。それでもなお、ソレントを慕い、ソレントを守るために騎士になりたいと、そう言っていた。

「話には聞いていたけれど、本当に人間の子供を育てていたのね。」

「えぇ。エイダンはソレントを慕い、ソレントもエイダンを慈しんでいるように思いました。まるで本当の兄弟のように。当時、わたくし達の力では到底ソレントを討伐することは不可能でした。しかし相手は魔族です。どうしたらいいかと悩んでいると、ソレントがエイダンに手を出さないのならば人間を殺さないと約束してくれたのです。」

「約束を?」

王妃様が驚いたよう声をあげる。

「はい。知っての通り、魔族は約束を破れません。ソレントの約束はこちらにとってメリットしかなく、わたくし達はそれを了承し、そのまま森を去りました。…本当に情けないことですが、ギリューがいつエイダンを殺したのかは、分かりません。」

「それについては後で彼に聞くことにしましょう。ソレントの得意とする魔法や武器に関しては?」

「残念ながら何も。無詠唱で移転できる程の魔力の持ち主であることと、おそらく剣を使う、ぐらいでしょうか。」

首を振る姫様に、王妃様が頷く。

「分かりました。やはりXクラスに指定した方が良さそうですね。女の子の姿をした魔族についてはどうでしょう?マリーゴールド様。」

「あ、えっと、ソレントよりもずっと後の話になるのですが、立ち寄った町で悪魔が住んでいるという噂が流れていました。月に1度、不可解な死体が広場に吊るされるのだそうです。滞在期間中新たに死体が吊るされ、討伐を町長さんから依頼されました。調査の結果、町のはずれに住む母子に辿り着きました。彼女達は人間に擬態し、人を騙しては殺すという遊びをしていたらしいです。母親役を討伐し終えた時、子供の魔族、のフリをしていたフォーレンが泣きながら殺さないでとヴィーに縋りつきました。もう殺さないから許してと懇願する姿は凄く哀れで、ソレントの件もあり、ヴィーはフォーレンを逃がしました。まさか、あれが全て演技だったなんて今でも信じられません…。だけど今日の話から、あの事件の首謀者も母親役の魔族ではなくフォーレンだったのだと思います。」

町長さんから聞いたのは、ツギハギの死体。笑顔で自殺したと思われる死体。生きたまま腹を捌かれたと思われる死体。全ての血が抜かれた死体。男か女かも分からないほどぐちゃぐちゃになった死体。そして私達が見つけたのは両目をくり抜かれ、宝石が嵌め込まれた死体だった。

「彼女は楽しければなんでもいいというかなり享楽的な思考の持ち主です。あの場にいたヴィー、レーシア、エミリー、ジャヴィ、それから私に関しては、約束のため手出し出来ないようですが、それ以外は気分で殺すこともありえるかと。幸い、今の興味は私とヴィーにあるようなので、そこまで戦うことに意欲を見せてはいません。」

「なるほど。」

「もう1人の魔族に関しては、魔法を弾いていたことから魔法防御力が高い可能性があります。あとは人間は敵だと言っていたのと、フォーレンがその魔族について原型が無くなるまでぐちゃぐちゃにするのが好きだと言っていました。名前はたしか、オーグです。」

「その魔族もかなり危険な存在のようですね。それではソレント、フォーレン、オーグ、3体の魔族をXランク指定を致します。ギルドに報告を。」

「かしこまりました、我が君。」

侍女さんが部屋を出ていく。我が君って言ってた。侍女さんは姫様の侍女さんではなかったらしい。

「マリーゴールド様、今後の予定は何かありますでしょうか?」

「いえ、特には…。ただ、ヴィーの事を仲間には説明しないとと思っています。」

ジルの言う通り、多分誰も英雄と呼ばれないことには怒ってない。もしかしたらファルさんは怒ってるかもしれないけど。でも、ヴィーが欲のためにそうしたんじゃないって事を、伝えたい。

「そうですか。なら、こちらでレーシア様方の行方を調べましょう。代わりと言ってはなんですが、しばらくの間城に滞在してはいただけないでしょうか?」

「え?」

「魔族がいつまた襲ってくるとも限りません。不安に震える民のために、今ここに英雄がいることを示したいのです。」

抑止力だろうか。見世物になるのは辛い。でも断れる程私は強くない。

「…わかり、ました。」

「ありがとうございます。部屋は今お使いのところをそのまま使ってくださいませ。サーフィ、案内を。」

「承知致しました。」

いつの間にか戻ってきていた侍女さんに連れられて、私は宛てがわれた部屋に戻ることになった。

「後日、昨日の件についてお伺いすることになるかと思います。お忘れなきよう。」

ドアが閉じる前、ジルの小刀をチラッと見せられた。色々あって忘れていたけれど、昨日ジルが来たんだっけ。あぁ、なんて誤魔化そう。そんなことを思いながら、私は汗を流すためにお風呂場へ向かった。

今日は、本当に疲れた。
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