主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

文字の大きさ
34 / 122
私は、独り、流される

ふぉーれん

しおりを挟む
結局何も思い付かないまま、次の日事情聴取に来た侍女さんにはジルが来たこと、ヴィーが消えた事実に動揺して魔力制御が甘くなってしまったことを話した。首の傷も、窓も故意ではなくそのせいだと。

ジルは悪くない。私が、彼をそうさせたのだから、別に間違ってないだろう。

けれど、今後何があるか分からないからと誰かを部屋に招く時には報告する事と、侍女さんが護衛につく事を約束させられた。

だから、この状況は本気で不味いのではないかと思ってる。

「ひっつき虫ちゃん、遊びにいこーよぉ。どこ行きたい?エルフの森?ドワーフの里?ひっつき虫ちゃんと一緒ならぁ、精霊の庭にも行けちゃうかもねぇ。」

「魔族がどうしてここに…。英雄様は外出されません。お引取りを。」

臨戦態勢の侍女さんが私を背にフォーレンを睨み付ける。その視線をものともせず、フォーレンは侍女さんを躱し、私に抱きつく。

「はぁ?お前には聞いてないんだけどぉ。つーかお前イールを殺した奴じゃん。ウケる。」

「私は英雄様の護衛です。」

「イールを殺せるレベルだもんねぇ確かに護衛にはぴったりかもぉ。まー私よりは弱いんだけど。いいのぉ?私が殺せないのはひっつき虫ちゃんだけなんだけどぉ。あーそっか、分かってるから動けないんだぁ。」

侍女さんがナイフを構える。それをフォーレンは面白そうに眺めていた。流石にこれ以上は見逃せない。

「フォーレン。」

「やだひっつき虫ちゃん怖ぁい。殺さないよぉ。こんなの殺したって面白くないもん。こいつ殺すよりひっつき虫ちゃん殺した方が断然面白いでしょ。殺せないけど。でもこれ以上騒ぐならその口、潰しちゃうかもぉ。」

首に回された腕に力が籠る。フォーレンは私が止めなければ本気で侍女さんを殺しかねない。それは駄目だ。

「侍女さん、大丈夫です。約束しましたから。」

私の言葉に侍女さんが首を振る。

「私は英雄様の護衛を任されました。害する可能性があるものの前で警戒を解くことは出来ません。」

「うわぁちょー堅物じゃん。そんなに心配ならもう一度約束してあげる?本格的にひっつき虫ちゃん気に入ったし。名前なんだっけ?」

フォーレンが顔を覗き込んでくる。その目には親愛が浮かんでいた。
どうしてこんなに気に入られているのか分からないけれど、名前ぐらいならいいかと口を開く。

「…マリーゴールド。」

「へーひっつき虫ちゃん名前可愛いじゃん!私マリーゴールド好きなんだよねぇ。形も可愛いけど、花言葉が最高に好き。名は体を表すっていうけどぉ、流石私のひっつき虫ちゃん、ちょー似合ってるわ。…そんな睨まないでよぉ、そんなに私が気に入らないのぉ?私もつまんない人間嫌いだからいいけど。はいはい。えっとぉ、『魔族フォーレン・アリスティレリアは人族の娘マリーゴールドを害さず、慈しみ、守ることをここに誓う。』これでいいでしょ、侍女さん?」

「…護衛につくことはお許しください。」

「うわうっざ~。でもぉひっつき虫ちゃんがいいならいいかなぁ。いつでも殺せるしぃ。」

「侍女さん…。」

「私は貴女の護衛ですから。」

頑なに譲らないという意思が見えて、私は困惑する。別に私が1人いなくなっても、何も変わらないと思うのに。

あぁでも今いなくなられたら大変だろう。みんなの不安を解消するために、私は城にいるのだから。

「分かりました。」

頷いた私にフォーレンが耳打ちしてくる。少しくすぐったい。

「…めっちゃ好かれてんじゃん。ウケる。」

「私が英雄だからだよ。」

「ふーん、まぁどうでもいっか。ねね、どこ行く?私のオススメはぁ、ドワーフの里か精霊の庭だけどぉ。エルフの森は彫刻エルフがいると思うしぃ、ひっつき虫ちゃん行きたくない?」

「ドワーフの里は侵入禁止令が出ているかと思いますが。」

侍女さんの言葉にフォーレンが笑う。

「そんなの魔族が聞くわけないじゃん。侍女さん頭悪いのぉ?私に楯突くような勘違い野郎は殺すし安全だよぉ。ひっつき虫ちゃんはワンチャンいけると思うんだよねぇ。片腕無いし。運が良ければ義手くれるかもよぉ?」

「義手…。」

思わず零した言葉に、フォーレンが反応する。

「そうそう。ドワーフは錬金得意だからねー。欲しくない?義手。」

「…いらない。」

「えぇ、なんで?私的には無くてもいいけどぉ、片っぽ腕無いの辛いでしょ?不便でしょ?」

「この腕は、ヴィーと一緒だから。」

そっと肩を撫でる。精霊がそう言ってくれた。細いけど、私とヴィーは繋がってる。この腕はその証だ。

「ヴィー?あぁ勇者ちゃんね。…なるほど。」

「だからいらない。」

「ひっつき虫ちゃんホント勇者ちゃん好きだよねぇ。ふふふ、苛立って泣きたくなったりぃ、無い腕が痛んで泣きそうになったらぁ私を呼んでねぇ?ひっつき虫ちゃんの泣き顔ちょー見てみたい。あ、そうだ!」

くっついていたフォーレンがふわりと宙に浮かぶ。

「面白いこと考えついたからぁ、今日は帰るねぇ。今度来る時、とびっきりのお土産持ってきてあげるぅ。ばいばーい。」

突然帰ると言い出したフォーレンに驚いているうちに、彼女は投げキスをすると空へ飛んでいった。

「また、来るって…。」

「マリーゴールド様、くれぐれも1人でお会いになりませんよう、お願い致します。」

「…はい。」

彼女は何を思い付いたんだろう。怖い事ではないといいなと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...