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私は、独り、流される
ふぉーれん
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結局何も思い付かないまま、次の日事情聴取に来た侍女さんにはジルが来たこと、ヴィーが消えた事実に動揺して魔力制御が甘くなってしまったことを話した。首の傷も、窓も故意ではなくそのせいだと。
ジルは悪くない。私が、彼をそうさせたのだから、別に間違ってないだろう。
けれど、今後何があるか分からないからと誰かを部屋に招く時には報告する事と、侍女さんが護衛につく事を約束させられた。
だから、この状況は本気で不味いのではないかと思ってる。
「ひっつき虫ちゃん、遊びにいこーよぉ。どこ行きたい?エルフの森?ドワーフの里?ひっつき虫ちゃんと一緒ならぁ、精霊の庭にも行けちゃうかもねぇ。」
「魔族がどうしてここに…。英雄様は外出されません。お引取りを。」
臨戦態勢の侍女さんが私を背にフォーレンを睨み付ける。その視線をものともせず、フォーレンは侍女さんを躱し、私に抱きつく。
「はぁ?お前には聞いてないんだけどぉ。つーかお前イールを殺した奴じゃん。ウケる。」
「私は英雄様の護衛です。」
「イールを殺せるレベルだもんねぇ確かに護衛にはぴったりかもぉ。まー私よりは弱いんだけど。いいのぉ?私が殺せないのはひっつき虫ちゃんだけなんだけどぉ。あーそっか、分かってるから動けないんだぁ。」
侍女さんがナイフを構える。それをフォーレンは面白そうに眺めていた。流石にこれ以上は見逃せない。
「フォーレン。」
「やだひっつき虫ちゃん怖ぁい。殺さないよぉ。こんなの殺したって面白くないもん。こいつ殺すよりひっつき虫ちゃん殺した方が断然面白いでしょ。殺せないけど。でもこれ以上騒ぐならその口、潰しちゃうかもぉ。」
首に回された腕に力が籠る。フォーレンは私が止めなければ本気で侍女さんを殺しかねない。それは駄目だ。
「侍女さん、大丈夫です。約束しましたから。」
私の言葉に侍女さんが首を振る。
「私は英雄様の護衛を任されました。害する可能性があるものの前で警戒を解くことは出来ません。」
「うわぁちょー堅物じゃん。そんなに心配ならもう一度約束してあげる?本格的にひっつき虫ちゃん気に入ったし。名前なんだっけ?」
フォーレンが顔を覗き込んでくる。その目には親愛が浮かんでいた。
どうしてこんなに気に入られているのか分からないけれど、名前ぐらいならいいかと口を開く。
「…マリーゴールド。」
「へーひっつき虫ちゃん名前可愛いじゃん!私マリーゴールド好きなんだよねぇ。形も可愛いけど、花言葉が最高に好き。名は体を表すっていうけどぉ、流石私のひっつき虫ちゃん、ちょー似合ってるわ。…そんな睨まないでよぉ、そんなに私が気に入らないのぉ?私もつまんない人間嫌いだからいいけど。はいはい。えっとぉ、『魔族フォーレン・アリスティレリアは人族の娘マリーゴールドを害さず、慈しみ、守ることをここに誓う。』これでいいでしょ、侍女さん?」
「…護衛につくことはお許しください。」
「うわうっざ~。でもぉひっつき虫ちゃんがいいならいいかなぁ。いつでも殺せるしぃ。」
「侍女さん…。」
「私は貴女の護衛ですから。」
頑なに譲らないという意思が見えて、私は困惑する。別に私が1人いなくなっても、何も変わらないと思うのに。
あぁでも今いなくなられたら大変だろう。みんなの不安を解消するために、私は城にいるのだから。
「分かりました。」
頷いた私にフォーレンが耳打ちしてくる。少しくすぐったい。
「…めっちゃ好かれてんじゃん。ウケる。」
「私が英雄だからだよ。」
「ふーん、まぁどうでもいっか。ねね、どこ行く?私のオススメはぁ、ドワーフの里か精霊の庭だけどぉ。エルフの森は彫刻エルフがいると思うしぃ、ひっつき虫ちゃん行きたくない?」
「ドワーフの里は侵入禁止令が出ているかと思いますが。」
侍女さんの言葉にフォーレンが笑う。
「そんなの魔族が聞くわけないじゃん。侍女さん頭悪いのぉ?私に楯突くような勘違い野郎は殺すし安全だよぉ。ひっつき虫ちゃんはワンチャンいけると思うんだよねぇ。片腕無いし。運が良ければ義手くれるかもよぉ?」
「義手…。」
思わず零した言葉に、フォーレンが反応する。
「そうそう。ドワーフは錬金得意だからねー。欲しくない?義手。」
「…いらない。」
「えぇ、なんで?私的には無くてもいいけどぉ、片っぽ腕無いの辛いでしょ?不便でしょ?」
「この腕は、ヴィーと一緒だから。」
そっと肩を撫でる。精霊がそう言ってくれた。細いけど、私とヴィーは繋がってる。この腕はその証だ。
「ヴィー?あぁ勇者ちゃんね。…なるほど。」
「だからいらない。」
「ひっつき虫ちゃんホント勇者ちゃん好きだよねぇ。ふふふ、苛立って泣きたくなったりぃ、無い腕が痛んで泣きそうになったらぁ私を呼んでねぇ?ひっつき虫ちゃんの泣き顔ちょー見てみたい。あ、そうだ!」
くっついていたフォーレンがふわりと宙に浮かぶ。
「面白いこと考えついたからぁ、今日は帰るねぇ。今度来る時、とびっきりのお土産持ってきてあげるぅ。ばいばーい。」
突然帰ると言い出したフォーレンに驚いているうちに、彼女は投げキスをすると空へ飛んでいった。
「また、来るって…。」
「マリーゴールド様、くれぐれも1人でお会いになりませんよう、お願い致します。」
「…はい。」
彼女は何を思い付いたんだろう。怖い事ではないといいなと思った。
ジルは悪くない。私が、彼をそうさせたのだから、別に間違ってないだろう。
けれど、今後何があるか分からないからと誰かを部屋に招く時には報告する事と、侍女さんが護衛につく事を約束させられた。
だから、この状況は本気で不味いのではないかと思ってる。
「ひっつき虫ちゃん、遊びにいこーよぉ。どこ行きたい?エルフの森?ドワーフの里?ひっつき虫ちゃんと一緒ならぁ、精霊の庭にも行けちゃうかもねぇ。」
「魔族がどうしてここに…。英雄様は外出されません。お引取りを。」
臨戦態勢の侍女さんが私を背にフォーレンを睨み付ける。その視線をものともせず、フォーレンは侍女さんを躱し、私に抱きつく。
「はぁ?お前には聞いてないんだけどぉ。つーかお前イールを殺した奴じゃん。ウケる。」
「私は英雄様の護衛です。」
「イールを殺せるレベルだもんねぇ確かに護衛にはぴったりかもぉ。まー私よりは弱いんだけど。いいのぉ?私が殺せないのはひっつき虫ちゃんだけなんだけどぉ。あーそっか、分かってるから動けないんだぁ。」
侍女さんがナイフを構える。それをフォーレンは面白そうに眺めていた。流石にこれ以上は見逃せない。
「フォーレン。」
「やだひっつき虫ちゃん怖ぁい。殺さないよぉ。こんなの殺したって面白くないもん。こいつ殺すよりひっつき虫ちゃん殺した方が断然面白いでしょ。殺せないけど。でもこれ以上騒ぐならその口、潰しちゃうかもぉ。」
首に回された腕に力が籠る。フォーレンは私が止めなければ本気で侍女さんを殺しかねない。それは駄目だ。
「侍女さん、大丈夫です。約束しましたから。」
私の言葉に侍女さんが首を振る。
「私は英雄様の護衛を任されました。害する可能性があるものの前で警戒を解くことは出来ません。」
「うわぁちょー堅物じゃん。そんなに心配ならもう一度約束してあげる?本格的にひっつき虫ちゃん気に入ったし。名前なんだっけ?」
フォーレンが顔を覗き込んでくる。その目には親愛が浮かんでいた。
どうしてこんなに気に入られているのか分からないけれど、名前ぐらいならいいかと口を開く。
「…マリーゴールド。」
「へーひっつき虫ちゃん名前可愛いじゃん!私マリーゴールド好きなんだよねぇ。形も可愛いけど、花言葉が最高に好き。名は体を表すっていうけどぉ、流石私のひっつき虫ちゃん、ちょー似合ってるわ。…そんな睨まないでよぉ、そんなに私が気に入らないのぉ?私もつまんない人間嫌いだからいいけど。はいはい。えっとぉ、『魔族フォーレン・アリスティレリアは人族の娘マリーゴールドを害さず、慈しみ、守ることをここに誓う。』これでいいでしょ、侍女さん?」
「…護衛につくことはお許しください。」
「うわうっざ~。でもぉひっつき虫ちゃんがいいならいいかなぁ。いつでも殺せるしぃ。」
「侍女さん…。」
「私は貴女の護衛ですから。」
頑なに譲らないという意思が見えて、私は困惑する。別に私が1人いなくなっても、何も変わらないと思うのに。
あぁでも今いなくなられたら大変だろう。みんなの不安を解消するために、私は城にいるのだから。
「分かりました。」
頷いた私にフォーレンが耳打ちしてくる。少しくすぐったい。
「…めっちゃ好かれてんじゃん。ウケる。」
「私が英雄だからだよ。」
「ふーん、まぁどうでもいっか。ねね、どこ行く?私のオススメはぁ、ドワーフの里か精霊の庭だけどぉ。エルフの森は彫刻エルフがいると思うしぃ、ひっつき虫ちゃん行きたくない?」
「ドワーフの里は侵入禁止令が出ているかと思いますが。」
侍女さんの言葉にフォーレンが笑う。
「そんなの魔族が聞くわけないじゃん。侍女さん頭悪いのぉ?私に楯突くような勘違い野郎は殺すし安全だよぉ。ひっつき虫ちゃんはワンチャンいけると思うんだよねぇ。片腕無いし。運が良ければ義手くれるかもよぉ?」
「義手…。」
思わず零した言葉に、フォーレンが反応する。
「そうそう。ドワーフは錬金得意だからねー。欲しくない?義手。」
「…いらない。」
「えぇ、なんで?私的には無くてもいいけどぉ、片っぽ腕無いの辛いでしょ?不便でしょ?」
「この腕は、ヴィーと一緒だから。」
そっと肩を撫でる。精霊がそう言ってくれた。細いけど、私とヴィーは繋がってる。この腕はその証だ。
「ヴィー?あぁ勇者ちゃんね。…なるほど。」
「だからいらない。」
「ひっつき虫ちゃんホント勇者ちゃん好きだよねぇ。ふふふ、苛立って泣きたくなったりぃ、無い腕が痛んで泣きそうになったらぁ私を呼んでねぇ?ひっつき虫ちゃんの泣き顔ちょー見てみたい。あ、そうだ!」
くっついていたフォーレンがふわりと宙に浮かぶ。
「面白いこと考えついたからぁ、今日は帰るねぇ。今度来る時、とびっきりのお土産持ってきてあげるぅ。ばいばーい。」
突然帰ると言い出したフォーレンに驚いているうちに、彼女は投げキスをすると空へ飛んでいった。
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