主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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旅に出よう、彼女の元へ、行けるように

みどりのいずみ

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ジャヴィさんの言葉の通り、少し歩くとすぐに拓けた場所に着いた。
木々に囲まれたそこは、ただただ美しい。
水は葉を映しているのか、それとも色そのものを宿しているのか、とても鮮やかな緑色をしていた。ちょうど泉に太陽の光が差し込んで、眩しい程にキラキラと輝いている。
ここが天界だと言われたら、そうかもしれないと思うほどだった。

「ここが、エルフの泉。」

「いかにも。しかしこの泉に明確な名は無い。皆はそのまま緑の泉と呼んでおる。」

「緑の、泉。」

そっと近付いて、中を覗き込む。緑の水面に私が映った。
しかしこれからどうしていいか分からず、風に揺れるその水面をじっと見つめているとジャヴィさんが私の傍に来るのが見えて、私は振り向いた。

「ふむ。これを。」

「?これは?」

「菓子だ。精霊は甘い物が好物なのだろうて。」

「あ、ありがとうございます。」

差し出されたお菓子は見た事の無いもので、エルフの森でしか作られないものかもしれないと思った。少なくとも、旅で寄った町や村では売られていなかったし、食べた記憶もない。

串に刺さったそれを持つ。確かに甘い匂いがする。紫がかった黒いコーティングでよく分からなかったが、裏返すとどうやら白い玉が3つ連なっているのが見えた。

「…ライラ。ライラ、居る?」

泉から見えるようにそれを掲げてみる。

「ライラ、あのね、聞きたいことがあるの。お願い、姿を見せて。」

…音沙汰はない。
風に揺られる葉の音だけが、この場に流れる。
これまで色々な泉や湖を訪ねてみたけれど、花の湖での出来事以来、精霊に会うことは無かった。

世界のどこにでもいると言われる精霊は、清廉な水場を一等好む。彼女たちは小さな体に膨大な魔力を宿し、自由と自然を愛し続ける存在だ。ライラのお母さんに会うまでは大きな体の精霊がいるなんて知らなかった。まぁ、精霊という存在は謎に包まれており、知ってることの方が少ないので仕方ないことだけれど。

彼女たちは気まぐれで、基本的に気に入った人の前にしか姿を現さないらしいとヴィーは言っていた。
もしかしたら、ライラは私を嫌いになってしまったのだろうか。 
ジャヴィさんの方へと視線を向けるも、彼は何も言わずただ水面を眺めている。
どうしたらいいのだろう。

もう一度、彼女に会いたい。会って話を聞きたい。

「…ライラ、会いたいよ。」

『まりー』

ポツリと零れた言葉に、水面が揺れる。
風じゃない。けれども確実に揺れたそこから、微かな音が聞こえた。私を呼ぶ音が。

「ライラ?」

『まりー、きて』

こちらにおいでと誘う楽しげな音色に、身体が自然と動く。
ゆっくりと水に触れた瞬間、私はまた引き込まれるように泉へと落とされた。

「マリーゴールド。」

ふと振り返れば、少し驚いた様子のジャヴィさんがこちらに向かって手を伸ばしているのが見えた。
そういえばジャヴィさんに名前を呼ばれたのは初めてだなと、そんなことを思った。
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