主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

文字の大きさ
63 / 122
旅に出よう、彼女の元へ、行けるように

おうとでひとさがし

しおりを挟む
息を潜めて身を縮める。
やっぱり留守番をしておいた方が良かったかなと後悔しつつも、フードを目深に被りゆっくりと路地裏から出る。
パレードで通ったこの道をこんな風に歩くことになるなんて思いもしなかった。

あの日魔族の襲来にあった王都はすっかり元通りとはいかないものの、活気づいていて明るい未来を想像させた。
人の多いここで彼女を見付けられるのか不安になる。紙が示したのはここまでなのだ。

「見つかるかな…。」

思わず言葉がぽつりと零れた。
そんな私の頭を、フードが落ちない程度にトールが撫でる。

「なんとかなるだろ。お前の記憶通りなら結構目立つ格好してるしな。ただ、通りを1本奥に入られたら見分けつかねぇ可能性はあるが。」

ちらりと横道に視線を向ければ、地べたに座り込む人々の姿が見える。
活気づいているのは本当。けれど1年前魔王が目覚め、魔族や魔物が活発化し大地の恵みが枯れた影響は、魔王を倒した後もこうして深く爪痕を残していた。

「こうなるのは当然予想されるもんだ。対策が遅れたのはどうせ普段からふんぞり返ってる上の連中のせいだろうし、お前が気にすることでもねぇよ。」

「…うん。」

俯いた私の顔を覗き込み、トールが問う。

「辞めるか?」

「ううん。」

私が即答したすればトールが笑った。
見ず知らずの誰かより、私はヴィーを選ぶと決めたのだから。

「ならこの話はここで終わりだ。それに、次はイレギュラーになる。同じかどうかは分かんねぇぞ。」

「うん。」

「まずは占い師を見つけ出さないことには始まらねぇしな。…道を変える。はぐれんなよ。」

鳥がトールの頭上で1度鳴く。ジルの伝書鳩だ。それを聞いてさりげなくトールが横道へと進路を変えた。騎士が近くにいるらしい。私はその背を見失わないように追いかける。

「ったく面倒くせぇ。いい加減好きにさせろよな。」

騎士達とすれ違わないよう慎重に足を進める。ジルの鳥が鳴く度に、私の心臓は破裂しそうになってしまう。
どうか見つかりませんようにと祈りながらトールの後を着いていき、アルメリアを探す。

「なかなか見つからないね。」

「人が多いからな。田舎の村で人を探すのとここで人を探すのじゃ難易度が違う。でも村にしろ王都にしろ俺たちに縁があるならそいつは見つかるだろうよ。」

「縁…。」

「だからお前が来たんだろ。」

勇者の仲間が王都に集うのはリスキーだということで、ここに来たのは紙の持ち主である私と王都周辺の地理に詳しいトール、それから紛れるのが上手いジルだけ。ただ、ジルは人の多いところを好まないし、追っ手の監視も必要だろうと少し離れたところで私たちを見守ってくれている。
レーシアはエミリーの元へ現状報告に向かい、ジャヴィさんは準備をするとエルフの森に残ったのだ。

何度か道を変えつつ歩き続けるも、アルメリアはなかなか見当たらない。
相手も人だから、一箇所に留まっているとは限らないのに加えて、顔を覚えられないようにあまり聞き込みも出来ないため難航していた。

「少し休憩にするか。」

日は既に傾きかけていた。王都に着いた時はてっぺん辺りだったから、結構な時間が過ぎていたようだ。
大通りを少し外れたところにある食堂を指差し、トールが私に提案する。
滞在時間が伸びると騎士達に見付かる可能性が高くなるけれど、ずっと緊張しながら探し回っていて疲れていた私はその提案に頷いた。

「店に入ったら、お前の存在感を盗んでやるよ。」

「えっそんなこと出来るの?」

「目くらまし程度だがな。言っとくが、人が多い場所じゃ通用しねぇ。」

王都に入る前に奪ってくれればと思ったことが顔に出ていたのだろう。トールはそう言って私に釘を刺した。
店内は人が少なく、程よい温度に調整されており、フード付きの外套を脱がなくても済みそうだった。
すぐに席に通されホッと一息つけば、トールが魔法を使う。心做しか、私の周りに薄い膜が張った様な感覚を覚えた。

「ありがとう。」

「盗まれてありがとうなんて言うもんじゃねぇよ。俺が一生返さなかったらどうすんだ。影が薄いやつなんざ村で生活するには不便だろ。」

「でもトー…貴方は私の存在感なんて要らないでしょ?持ってても意味ないもん。それに、私の村の人はみんな優しいし、よく人を見て気にかけてくれる人達ばっかりだから大丈夫だと思う。影が薄かったら狩りには便利かもしれないし。」

名前を呼ばないように慌てて言い換える。
誰が聞いているか分からないのだから、用心に越したことはないとジルから言われていたのだ。

「そうかよ。」

なんだか不思議な顔をしたトールが私をじっと見る。

「どうしたの?」

「お前はなんで…いやなんでもない。とりあえず好きなもん頼め。休憩だ休憩。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...