主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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旅に出よう、彼女の元へ、行けるように

うらないし

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「何処にいるんだろう、アルメリアさん。」

頼んだ軽食を食べ終え、食後の紅茶を飲みながらそう呟いた瞬間、横から声が聞こえてきた。

「私を呼んだ?」

驚いて声の方へと顔を向ける。
トールは素早く立ち上がり私を背に隠した。
いつからそこに居たのだろう。全然気付かなかった。
隣の席に座っていた彼女はそんな私たちを見て吹き出した。

「ぶっ、あっはははは!落ち着きなさいな。ふふ、貴女達、っていうかその子が私の名前を呼んだから、こうして不自然じゃない縁が繋がれたってだけよ。」

「十分不自然だろうが。」

警戒したままアルメリアさんを睨むトールに、彼女は笑いを引っ込めて首を傾げる。

「本当にそう思うの?考えてもみなさい。貴女達の隣の席に誰が居たかなんて覚えてないでしょう?そうね、せいぜい女が居たな、程度の記憶よ。その女が私であってもなんら不思議じゃない。納得出来た?」

「始めから決められてたってことか?」

トールは苛立たしげにそう尋ねた。

「んーちょっと違うけど、説明が難しいのよね。とりあえず、別にここに座っていた女性に成り代わったとかじゃないから安心してちょうだい。元々私がこの席で食事をしていたところに貴女達が来たんだから。」

「あの…。」

険しい表情のままのトールの影から顔を覗かせれば、アルメリアさんの視線が私に向く。

「あら貴女、あの時の子じゃないの。やっと呪いを解く気になったのね。待ちくたびれちゃったわ。でも見たところあのお嬢さんは居ないみたいだけど。」

キョロキョロと辺りを見回す彼女に、トールが告げる。

「今は訳あってここには居ない。本人が居ないと呪いってのは解けないのか。」

「そりゃそうよ。呪いがどんな風に掛けられたか判断するにはまず呪われた人を見なくちゃいけないの。呪いの本質が分からなければ、解き方だって分かるわけないもの。あぁでも呪いの本質が分かった状態なら、本人が居なくても呪いを掛けた人物が居るなら解けるわよ。」

「そんな…。」

声が震える。
アルメリアさんは私の顔を見て、眉を下げた。

「そんな顔しないで。あのお嬢さんの呪いは覚えてるわ。今貴女も居るし大丈夫よ。あれは死の呪いと生の呪い。…もしかして今仮死状態だったりする?」

「似たようなもんだ。」

「なるほど。なら確かにここに連れてくるのは難しいわね。お嬢さんのところに私を連れて行ってくれる?それとも呪いを掛けた人物に心当たりがあるのかしら。」

アルメリアさんがそう告げた直後、騎士達が数人なだれ込んでくる。

「英雄マリーゴールド様、お迎えに上がりました!!!」

大声で名前を呼ばれて視線が集まる。
周囲を確認するも窓の外には多くの騎士の姿が見えた。どうやら囲まれているようだ。

騎士達は警戒するようにアルメリアさんとトールを見つめる。
恐らく、トールのことは知っているが私の脱走の際に手を貸した人物であるのと、アルメリアさんについての知識を持っていないからだろう。
私の仲間だと告げれば、一応は納得した様子を見せた。
注目されている今、英雄である私の言葉を否定することは出来ない。

「あの、すみません、アルメリアさん…。」

「なるほど。そう来たか。いいわ、呪いを解くまで付き合ってあげる。」

城へと連行するために近くに来た騎士の手を払い除けながら、アルメリアさんが頷く。

「ならこのまま城までランデヴーだな。呪いを掛けたやつの顔をすぐに拝むことになるぜ。」

「あら、それは素敵ね。あんないたいけなお嬢さんに呪いをかけるクソ野郎を1度見てみたかったのよ。」

そんなやり取りをする2人の間で、私はギュッと手を握り締めた。
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