主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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私は、君を、目覚めさせる

またあえた

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名前を呼ぼうとしたのに、私の口は掠れた音しか出さなかった。だって、涙が止まらない。
1歩、また1歩と泥の中を歩いているように重い足を動かしていく。
目の前にヴィーがいる。
現実の今、ここに、ヴィーが。

「あ、あぁ、う、っあぁぁぁぁぁ…!!!」

私はそっと震える手を伸ばす。
その手が、彼女に、届いた。

私はもう我慢することが出来ずに、大声をあげて泣いた。
だって、だって、ヴィーの祈る様に握られた手が抱くのは、私の手だったから。

どうして。
なんで。
そんな。
意味の無い言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
分からない。
私は怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも嬉しいのか。
ぐちゃぐちゃになった心で、私は、ただ、泣いた。


















しばらくすると感情の波は落ち着いてきて、私は恥ずかしくなってくる。

「ご、ごめんなさい。いきなり泣いたりして。」

慌てて目を擦れば、その手をエミリーが止める。

「謝ることではありません。マリー、よく頑張りましたね。」

「…はい。」

壊れてしまったのではないかと思うほど、私の目からは簡単に涙が零れる。
それをハンカチで丁寧に拭ってくれたエミリーは、その視線をヴィーへと向けた。

「本当に、ただ眠っているようです。」

「そのようだ。」

知らぬ間にジャヴィさんもいて、目を固く閉じたヴィーをじっと見つめていた。

「…主。」

ジルはただぼんやりと影に立っていた。
その傍でレーシアがジルの肩を叩く。
トールは少し離れたところで、部屋全体を眺めているようだった。

扉は開いた。
ヴィーに会えた。
けれど、ヴィーの起こし方を、私は知らない。

どうしたらいいのだろう。
触れると冷たいその肌は、なんだか硬くて本当に生きているのか不安になってくる。
そう思ったら堪らなくなって、私は無意識にヴィーの手を握って話し掛けていた。
夜寝る前、2人で潜った毛布の中でのおしゃべりみたいに、密やかに、小さな声で、ヴィーに話をする。

「ねぇ、ヴィー。リアムおじいちゃんがね、お髭を伸ばしてたの。ヴィーが帰って来ないとずっと伸ばしたままだよ。床に着いちゃったら大変でしょう?」

「あんなに自慢だって言ってたシオンの髪が短くなっててね、私じゃきっと上手く聞き出せないから、ヴィーが話を聞いて欲しいな。シオンもきっと聞いてほしいって思ってるよ。」

「…アシェルが泣いてたの。私、アシェルが泣くとこ、初めて見た。アシェルを幸せにするって言ったのはヴィーなんだから、約束は守らなきゃ。私も、アシェルとヴィーの結婚式見たいよ。」

「トールがね、酷いんだよ。私、ヴィーの秘密で精一杯なのに。でも、話してくれたのは信頼されてるって事なのかなって後からちょっと思ったの。」

「レーシアがもっと甘えていいって。ヴィー、新しいお姉ちゃんが出来たよ。いっぱい甘えて、頼ってほしいって。」

村の皆のこと、仲間のこと、いっぱいいっぱい話をする。
ヴィーに聞いてほしいことが沢山あった。
ヴィーに伝えたいことが沢山あった。
でも、1番言いたいことはきっと、これじゃない。

「…あのね、ヴィー。私ね、ヴィーがいなくても大丈夫なんて嘘でも言えないの。ヴィーがいなくちゃ、幸せになんてなれないの。だから、だから…。」

これを願ってしまったら、きっと世界が変わってしまう。
でも、それでも、私は。

「起きてよ、ヴィー…!」

ねぇ、ヴィー。
貴女が居てくれるだけでいいのだと、貴女に伝わっただろうか。
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