主人公なんかに、なってほしくはなかった

君が、私を、目覚めさせた

災いの子

「次の生贄は最初その溜め込んだ魔ごと受け入れるんだからぁ、器はそれより大きくなきゃでしょ？つまり勇者の証は今代魔王以上の魔力保有者の証ってこと。あ、もちろん最大魔力量の話だよぉ？だから魔物は活性化するしぃ、魔族も血の気が多くなるの。次の魔王を鍛えるためにね～。」

本格的に飽きてきたのか、フォーレンは自分の髪を弄り始める。

「でも浄化装置って言ったって結局人間だからぁ、不測の事態が起きる可能性があるんだよぉ。そんな時の為に作られたのが、じゃーん、寝所への鍵で～す。寝所の鍵は所謂システム解除キーってやつ。」

フォーレンが見覚えのある鍵を取り出して、ヴィオレットの手に渡す。

「不測の事態…？」

「そうそう。あの部屋の中では死なないようになってるけどぉ、万が一があるじゃん？ちなみに勇者の証も同じ役割だよぉ。この鍵を使うには魔王の魔に染まった魔力量と同等の浄化の魔力とその倍の魔力が必要なんだけどぉ、今回は勇者の証が現れてたから別に騎士様の魔力は別に無くても入れたんだよねぇ。もし勇者の証が現れてなかったら、騎士様の魔力でギリギリだったんじゃない？さてここで問題で～す。どうして私はぁ、この鍵を作れて、こんなに詳しく魔王と勇者のシステムについて知ってるのでしょーか？」

にんまりと笑ったフォーレンを前に、ヴィオレットはフォーレンの話とゲームの知識とを照らし合わせる。
ゲーム内では勇者はこの国の王族しかいないこと、魔王が目覚めることで世界が荒れること、勇者が次の魔王になること、くらいしか明かされない。

そして気付く。勇者は王族しかいない。故に魔王も然り。ならば、この循環の詳細について知ってるということは、それはつまり…。

「…まさか。フォーレン、貴女は。」

「やっぱ勇者ちゃん知ってたぁ？こーんな古臭い本読むくらいだもんねぇ。」

「主？」

「フォーレンは、王族だ。それも恐らく、初代に近い血を引く者。」

「だいせーかい！勇者ちゃんさっすが～。付け足すとしたらぁ、話題の災いの子、えーっと、赤い月の夜に生まれた子は禍の子となる、だっけ？それ私。改めて自己紹介してあげよっか？…わたくしの名はアリスティレリア国第一王女フォーレン。初代勇者にして2代目魔王の娘にございます。」

フォーレンはそう言って美しいカーテシーをする。
ヴィオレットは閉じられた本に視線を向けた。初代勇者の、日記に。
その視線に気付いたのか否か、フォーレンは格好を崩しケタケタと笑う。

「なんちゃって～！あんなのをお母さんだと思ったことないし。てかほとんど会ったこと無いやつのことはどうでもいいよね。ねぇねぇ、驚いた？ひっつき虫ちゃんもあの侍女も反応薄くてさぁ。嘘だと思ったのかな？ウケるね。さーて、勇者ちゃん達の驚く顔が見れたし、そろそろ帰ろ～っと。オーグ。」

「フォーレン！」

フォーレンが後ろを振り返り、ここにいない者の名前を呼ぶ。
瞬間、空気が揺れる気配にヴィオレットは立ち上がりフォーレンを警戒する。
数秒の後、フォーレンの後ろが歪み、闇の中からオーグが姿を現した。

「オーグ…！」

Xランクの魔族が増えたことに、警戒レベルは上がる。
しかし当のオーグはヴィオレット達のことなど見えていないかのように、フォーレンへと話し掛ける。

「…っ、ここ、キツいんですが。」

「あ、忘れてたぁ。ここは浄化の魔力濃度が高いんだっけ。まぁオーグなら大丈夫でしょ。帰ろ？」

顔を顰めたオーグの手を取り、フォーレンが笑う。

「私を足代わりにしないでください。」

「でも迎えに来るじゃん。てか呼んでなくても来るし。」

「それは、そうですけど。」

「じゃあ良くない？ほらほら今日はベイビーちゃんとこに帰ってあげるから機嫌直して？」

飛んでオーグを胸元に閉じ込めたフォーレンに、オーグは溜め息を吐く。

「分かりました。」

「いい子いい子。あ、言い忘れてた。」

闇の中に身体を沈めていたフォーレンが顔だけを出す。

「浄化装置に成り得るのは浄化の魔力を持った者のみ。じゃあ、その魔力を持ってないひっつき虫ちゃんは、どうなるんだろうね？」

楽しげにそう言ってフォーレンは、闇の中へと消えていった。