主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

話を聞かせて

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「ふむ。なれば、我は主の知る全てと答えるが。」

ジャヴィは微かに目を細めた。面白がっているようにも、どこか呆れているようにも見える。
ヴィオレットはゲームにはなかったこの状況の成り行きを見守るしかない。口を噤み、じっとオーグを見つめる。

「エルフの知識欲には驚かされますね。興味無い事まで知りたいのですか。」

「主の持つ知識の中に我の興味を引くものがあるやもしれぬ故。アレから我を何と聞いたかは知らぬが、我は千を超える時を過ごしている。ゆめゆめ忘るるな。」

「千……!?」

驚き目を見開いたヴィオレットがオーグから視線を外し、ジャヴィを凝視する。

「うむ。ヴィオレットには六百程度だと答えたが、知らぬ間に千を超えていたらしい。」

「サバ読みすぎですね。というか勇者も勇者でそこまでの誤差に違和感無かったんですか。」

「その、ジャヴィはすごく物知りなエルフなんだなって…。」

「はぁ、貴女よくそれで勇者なんか出来ましたね。」

オーグの心底呆れた声に、ヴィオレットは苦笑することしか出来ない。ヴィオレットにとってゲームで重要なのは戦闘能力で歳は関係無かったため、あまり気にしていなかったのだ。

だから、ゲームが現実のものとなった旅の最中でも、はるか昔の事をまるで見てきたかのような口調で話すジャヴィに違和感を覚えつつも、エルフとはそういうものなのかと教えられた通りをヴィオレットはそのまま信じていた。

「人間社会で生き残れた事が驚きです。むしろ勇者だから生き残れたんですかね。」

「ヴィオレットがヴィオレットたる所以よ。さて、我の問いに応え。」

オーグは舌打ちを零すと、背もたれへと体重を移動させた。

「私はそれを諾と言っていないんですがね。条件付けしないといけませんでしたか。」

「知りたいことと聞かれた故応えた迄。さて、主が否と言うなれば、2つの問いには必ず応えよ。」

ジャヴィの言葉にオーグは眉を跳ねさせた。最初からそのつもりだったのかどうなのか。
オーグは溜息を吐き、それから頷いた。

「いいでしょう。私の中のエルフ像がどんどんと下方修正されますが。」

「主は魔王をどう見ておる。王と仰ぎ見るものか。ただ通り過ぎるだけの風か。」

オーグの言葉を気にした様子もなく、ジャヴィは尋ねる。
オーグは何故そんなことを聞くのかと不思議そうにしながらも、口を開いた。
 
「私にとっての魔王ですか。特に何も、と言いたいところですが、思うところがないわけではないです。フォーレンがスペアなどと。本当に忌々しい。」

その物言いに、ヴィオレットは首を傾げる。それを見たオーグが微かに笑う。

「魔族が何をと思っていますか?人を殺すこと以外脳が無いくせに、と。別にそれを否定はしませんよ。魔王の仇討ち云々も、結局は人間を殺したいだけですし。」

オーグは紅茶に口をつける。それから、ゆっくりと話し始めた。

「私はフォーレンに助けられ、こうして無事大人になりました。フォーレンがいなければ私は人間共に嬲り殺しにされていたことでしょう。」

「嬲り、殺し…。」

「物心ついた頃には親は亡く、魔力を封じられてただただ人間のストレスの捌け口にされていたところを、フォーレンは救ってくれたんです。きっと気まぐれだったのでしょう。でも、私はそれが嬉しかった。あの日あの牢獄から連れ出してくれた彼女を私は心から感謝しています。彼女は私の全てだ。だから、誰にもフォーレンを殺させないし、奪うのならば容赦はしない。それが人間でも魔王でも、同じです。」

そう言って殺気立つオーグを見て、ジャヴィがひとつ頷く。

「ふむ。主は何年生きた?」

「は?」

「主の歳を聞いておる。」

「そんなこと聞いてどうするんですか。」

「何も。ただ知りたいと思うただけよ。」

「…20です。」

「ふむ、なるほど。そうか。」

「なんなんですか。人間よりははるかにマシですけど、エルフも関わり合いたくなくなりました。」

げんなりとした様子のオーグの後ろから、フォーレンが飛びつく。

「やば、普通に仲良ししてるじゃん。ウケる。殺し合いしてると思ってたぁ。」

「貴女がそう言ったんでしょう。」

「はいはい。私のベイビーちゃんは本当に良い子ねぇ。くそ真面目過ぎてめんどくさいけど。」

フォーレンはケタケタと笑いながらオーグの頭を撫でる。それから2人の方を見て、目を細めた。

「ちゃーんと完成させたよぉ。レシピ通りに、ね。」
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