主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

魔王の意地

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「は?その様子だと分かってるみたいじゃん。萎えるわ~。」

上機嫌だったはずのフォーレンから笑みが消える。気だるげにオーグの背中から降りると、何処から取り出したのか四角い箱をヴィオレットへと投げる。

「分かってるやつを煽る時ほどつまんないこと無いよねぇ。ほんと最悪。これだから勇者ってきらーい。」

「フォーレン。」

「オーグ、お菓子食べたぁい。取ってきて。」

べぇ、と舌を出したフォーレンがテーブルに座る。
オーグは呆れた様子だったが、フォーレンの指示通りに奥へと姿を消した。

「もう用事済んだでしょ。早く帰れば?」

余程気に食わなかったのか、フォーレンはヴィオレットとジャヴィの方を見ようとせず、手ずから紅茶を入れて飲み始める。

「協力してほしいのは、これの事じゃないの。」

「知らなーい。望みは望みでしょ。それに勇者ちゃんのリアクション尽くつまんなくて飽きたんだよねぇ。」

爪の先を見ながらそう言うフォーレンに、ヴィオレットは困ったように眉を下げる。ゲームとしての知識をある程度持っているヴィオレットは、この世界の人間より知っていることが多いのは事実だからだ。

今回フォーレンに作ってもらったこの『白のキャンパス』も、材料までは知らなかったが、存在は知っていた。これはキャラクリをまた1から始められるアイテムだったのだ。そしてその上位互換に『光のキャンパス』という課金アイテムがあったことも、知っていた。
白は初期化する形となりレベルも1からになる。しかし光は、レベルはそのままでキャラクリが可能なアイテムだったのだ。

6代目の勇者の日記に載っていたそれは、自分は100年も持たないだろうとなんとか試行錯誤して作り上げた補助アイテムとして描かれていた。このアイテムのおかげで、7代目魔王は200年保ったようだった。

「でも、私はマリーを助けたいの。」

ならば、と思う。『白のキャンパス』が補助アイテムに成り得るのなら、『光のキャンパス』を作り出す事が出来たら、それは代わりとすることが出来るのではないだろうか、と。

「そう。頑張って~。私魔王になるつもりないからぁ。何百年も寝てるだけなんてつまんな過ぎでしょ。私の場合、千年保つか一瞬で壊れるか分かんないし。それはそれでハラハラして楽しそうではあるけどぉ。」

「主が魔族故か。」

「そう。魔力が異質なのよぉ。浄化の魔力を持ちながら、けれど魔のもの、つまり穢れでもあるわけだしぃ。だからスペア足り得たんだけどね。」

歴代魔王の在任期間はまちまちだ。歴史書などでは300年などといわれているが、魔法の普及状態や魔王就任までのレベル、肉体の成長具合によって大きく変動するらしい。
禁書を読み漁った結果、300年保った魔王は、初代と2代目のみだということが分かった。

「フォーレンを身代わりにするつもりは無いよ。」

両手をギュッと握って、ヴィオレットはフォーレンを見つめる。
フォーレンはチラリとヴィオレットを見るも薄く笑みを浮かべるだけで、すぐに視線は爪へと戻る。

「なになに?身代わりじゃなくて肩代わりだから~ってこと?ウケるね。」

「そうじゃなくて、」

「どっちにしろ私はやらないからどうでもいいけどぉ。私今オーグのお母さんだから。あの子を残して眠るつもりはないの。ごめんねぇ?」

そう言ってテーブルから降り、フォーレンは奥へと足を進める。だが、その歩みはヴィオレットの次の言葉によって止まった。

「『光のキャンパス』を作ろうと思ってるの。」

シン、と静まり返る。先程までは無かった緊張感が場を支配しているように感じるほどの、静寂。

「本気?」

フォーレンは振り返らないまま、ヴィオレットに問い掛ける。

「ずっと考えてた。私が勇者としてこの世界に産まれた意味を。」

ヴィオレットはその問いには答えず、ゆっくりと語り出す。

「私は必ずマリーを助けるし、魔王にもならないって決めたの。だって私はもう勇者じゃない。でも世界を壊すつもりは無いし、誰かを犠牲にする気もない。」

長い沈黙。

「…そう。」

フォーレンが振り返る。

「なら、やってごらんなさい。完成した暁には、手を貸してあげるわ。」

その時のフォーレンの顔は笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
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