92 / 122
君が、私を、目覚めさせた
隠し部屋
しおりを挟む
「…本当にここで合ってんのか?」
「日記の記載通りであれば、恐らく。」
ランタンを手に、トールとエミリーは暗い階段を下っていく。どれほどの深さであるのか、先は見えずただただ階段が続いている。
風の音は無い。
2人の声と靴音だけが、石造りのそこに響いていた。
「隠し宝物庫ねぇ…。城の財宝は粗方頂いたが、まさか隠し部屋があったとは。」
「盗賊の名が泣いておりますよ。」
「思ってもねぇくせによく言うぜ。」
溜息を吐いたトールにくすりと笑って、エミリーはここに来る前の事を思い出す。
『それは、魔王城の隠し部屋。私の欲しいものが、多分そこにあるの。』
ヴィオレットはそう言って困ったように目を伏せた。そして続けて告げる。
『どこにあるかも分からないし、どういうものかも分からない。加えて手がかりは日記の中だけ。それでも、マリーを助けるためには絶対に必要なものなんだ。』
ヴィオレットが日記を捲り、該当箇所を指でなぞりながら、そっと息を吐く。
『そしてそれはトールにとってとても危険な物で、でもトールにしか触れられない。…正確には私かトールに、だけど。』
その言葉に、トールは頷いた。それから宝探しは得意だとヴィオレットの髪をくしゃくしゃに撫でて自信ありげに笑ってみせた。
「浄化の魔力保持者にのみ獲得出来るお宝、と聞くとまるでトールさんのためのお宝みたいですね。私も自ら立候補した身としましては、精一杯サポート役を努めさせていただこうと思っているのですけれど。」
魔族との取引もこちらも、危険度でいったら同じくらいだ。むしろ魔族との方が場合によっては命を落とす可能性があるため危険性は高い。だからヴィオレットはそちらを選んだ。
どちらも自分で行いたいと思っていたようだったが、そんな時間は残されていない。
ヴィオレットは回収をトールに任せ、魔族の元へと向かっていった。
「頼りにしてるぜ、回復役さん。」
「魔力回復の魔法も薬もバッチリですわ。」
「その調子で道案内もよろしくな。」
「お任せください、と言いたいのはやまやまですけれど、この先何があるのかは分かりませんわ。」
「発見者にも分からねぇんじゃあ、俺に分かるわけねぇよな。」
「製作者のみ知る、というやつですわね。」
「ゾッとしねぇなぁ。」
「あら、盗賊ならばワクワクしてくださいませ。」
「無茶言うな。」
軽口を叩きながらもひたすら下る。
この隠し通路を見つけたのはエミリーだった。日記の内容と魔王城の間取りを照らし合わせて気付いたのだ。
「どのくらい下ったでしょうか。こうも暗いと時間感覚が曖昧になってしまいますね。」
「15分ちょいか?長い階段だな。」
「そろそろ階段以外の景色が見たくなりますね…あら。」
エミリーがそう言ったすぐ後に、階段が唐突に終わる。現れたのは木製の扉だ。鍵が掛けられているようだったが、この程度のものならばトールは開けることが出来る。
扉の向こうに敵の気配は無い。
「開けるぞ。」
カチリ、と音がして鍵が解ける。そのままトールはゆっくりと扉を開けていった。
「…普通のお部屋、のように見えますが。」
「そうだな。」
扉の向こうは、机と本棚、ベッドが置かれた部屋だった。机の上には書きかけの紙とペンがあり、何か用事が出来て一旦中断したまま部屋を出たきり帰って来なかった、というような印象を受ける。宛名に見覚えは無い。文体からしてかなり昔のものであることが分かる。手紙の内容は友人への雑談のようだった。
手紙を机の上に戻し、トールは眉を寄せる。
「本当にここにあるのか?」
「日記の記載通りであれば、恐らく。」
15分前と同じような会話を交わした2人は、目当てのものを探すために各々気になるところへと向かった。
「日記の記載通りであれば、恐らく。」
ランタンを手に、トールとエミリーは暗い階段を下っていく。どれほどの深さであるのか、先は見えずただただ階段が続いている。
風の音は無い。
2人の声と靴音だけが、石造りのそこに響いていた。
「隠し宝物庫ねぇ…。城の財宝は粗方頂いたが、まさか隠し部屋があったとは。」
「盗賊の名が泣いておりますよ。」
「思ってもねぇくせによく言うぜ。」
溜息を吐いたトールにくすりと笑って、エミリーはここに来る前の事を思い出す。
『それは、魔王城の隠し部屋。私の欲しいものが、多分そこにあるの。』
ヴィオレットはそう言って困ったように目を伏せた。そして続けて告げる。
『どこにあるかも分からないし、どういうものかも分からない。加えて手がかりは日記の中だけ。それでも、マリーを助けるためには絶対に必要なものなんだ。』
ヴィオレットが日記を捲り、該当箇所を指でなぞりながら、そっと息を吐く。
『そしてそれはトールにとってとても危険な物で、でもトールにしか触れられない。…正確には私かトールに、だけど。』
その言葉に、トールは頷いた。それから宝探しは得意だとヴィオレットの髪をくしゃくしゃに撫でて自信ありげに笑ってみせた。
「浄化の魔力保持者にのみ獲得出来るお宝、と聞くとまるでトールさんのためのお宝みたいですね。私も自ら立候補した身としましては、精一杯サポート役を努めさせていただこうと思っているのですけれど。」
魔族との取引もこちらも、危険度でいったら同じくらいだ。むしろ魔族との方が場合によっては命を落とす可能性があるため危険性は高い。だからヴィオレットはそちらを選んだ。
どちらも自分で行いたいと思っていたようだったが、そんな時間は残されていない。
ヴィオレットは回収をトールに任せ、魔族の元へと向かっていった。
「頼りにしてるぜ、回復役さん。」
「魔力回復の魔法も薬もバッチリですわ。」
「その調子で道案内もよろしくな。」
「お任せください、と言いたいのはやまやまですけれど、この先何があるのかは分かりませんわ。」
「発見者にも分からねぇんじゃあ、俺に分かるわけねぇよな。」
「製作者のみ知る、というやつですわね。」
「ゾッとしねぇなぁ。」
「あら、盗賊ならばワクワクしてくださいませ。」
「無茶言うな。」
軽口を叩きながらもひたすら下る。
この隠し通路を見つけたのはエミリーだった。日記の内容と魔王城の間取りを照らし合わせて気付いたのだ。
「どのくらい下ったでしょうか。こうも暗いと時間感覚が曖昧になってしまいますね。」
「15分ちょいか?長い階段だな。」
「そろそろ階段以外の景色が見たくなりますね…あら。」
エミリーがそう言ったすぐ後に、階段が唐突に終わる。現れたのは木製の扉だ。鍵が掛けられているようだったが、この程度のものならばトールは開けることが出来る。
扉の向こうに敵の気配は無い。
「開けるぞ。」
カチリ、と音がして鍵が解ける。そのままトールはゆっくりと扉を開けていった。
「…普通のお部屋、のように見えますが。」
「そうだな。」
扉の向こうは、机と本棚、ベッドが置かれた部屋だった。机の上には書きかけの紙とペンがあり、何か用事が出来て一旦中断したまま部屋を出たきり帰って来なかった、というような印象を受ける。宛名に見覚えは無い。文体からしてかなり昔のものであることが分かる。手紙の内容は友人への雑談のようだった。
手紙を机の上に戻し、トールは眉を寄せる。
「本当にここにあるのか?」
「日記の記載通りであれば、恐らく。」
15分前と同じような会話を交わした2人は、目当てのものを探すために各々気になるところへと向かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる