主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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君が、私を、目覚めさせた

もう少し、もう少しで

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「っ、くそ、思ったよりキツいな、これ。」

トールの額に冷や汗が垂れる。エミリーは絶えず魔力回復の魔法を掛けながら、手伝おうと手を伸ばしては触れられずに悔しげに唇を噛み締めた。

「やはり触れられませんね。私も運べたら良かったんですが…。」

「回復かけてもらえるだけありがたいだろ。自然回復よりも吸収が早い。お前がいなけりゃ途中で昏倒する可能性もあったしな。」

トールの全身が映るほど大きなそれは、見た目に反して軽い。だが、常に魔力を奪われ続けている現状は不愉快以外のなにものでもない。じわじわと嬲るような感覚に、トールは眉を顰めた。

「階段を登りきれれば、ヴィオが迎えに来てくださるそうなので、そこまで運んでいただければ…。」

「あぁ。触れなけりゃいいだけだ。心配すんな。」

「少しでも危ないと思いましたらすぐにお知らせくださいね。魔力回復の薬も沢山持ってきましたので。」

「おう。」

エミリーが照らす階段を駆け上がっていく。ゆるやかではあるが、吸収の速さが上がっているようにも思う。トールは内心で溜息を吐くと、駆ける速度を早めた。

しばらくの間無言で足を動かす。エミリーも回復魔法では回復が追い付いていないことに気付くと、魔力回復薬を取り出して振りかける。

「ありがとよ。」

「いいえ。すぐにお知らせくださいと申しましたのに。どうして我慢するのですか。」

「…上まで保つと思ってたんだよ。魔力量少ないなりにコントローラーは得意だしな。」

「トールさんが昏倒してしまったら私じゃ運べませんよ。」

困ったようにエミリーが息を吐く。それに微かに笑って、トールは口を開いた。

「それは期待してない。…っ、あー、すぐ出来る魔力量の鍛え方とかねぇのかよ。」

「そんな方法があるのであれば世界の廃退も加速しますし、勇者の負担が大変なことになりますよ。」

「たしかに。」

軽口で気を紛らわせつつ、2人は足を動かす。ふと視線を上げると、光が見えた。

「あともう少しです。頑張ってください。」

「あぁ。」

トールは『暗闇写し』を抱え直し、光に向かって歩を進めていった。

「トール!エミリー!」

突然、光よりも眩しい声が2人を呼ぶ。

「ヴィオ!」

「そこで待ってろ。すぐ持ってく。」

その声に無意識に気力が湧いてくる。やはり彼女こそが自分達の勇者なのだと、そう思った。
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