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君が、私を、目覚めさせた
最後の課題
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『光のキャンパス』を作るにはレシピと精製者が必要だ。アイテム精製にレシピは必要不可欠である。そして、精製者も。
フォーレンに頼めればいいが、あの様子ではきっと精製してはくれないだろう。しかしヴィオレット達のパーティにはアイテム精製者は居ない。ギルドに頼むにも、レシピがなければ難しいだろう。
歴代勇者の日記に記載は無かった。重箱の隅をつつくように探したのだから、あそこにもう手がかりはないだろう。そもそも『光のキャンパス』の存在はヴィオレットが転生者だったから知っていただけで、もしヴィオレットが転生者でなければきっと知りえなかったもののように思う。フォーレンはその存在を知っていたようだが、レシピを持っていないようだったし、反応からして御伽噺のような、あるかないか分からないアイテムだという風に見受けられた。
「…レシピを探して、ギルドを頼る。それが最善だと思う。」
時間はもうあまりない。こんな時課金が出来ればとヴィオレットは思うが、出来ない事で自分がこの世界の住民なのだと実感している事実もあるのだから、どうこう言える話ではないのだ。
「主、『光のキャンパス』は、『白のキャンパス』の上位互換ということでいいのか?」
「うん。恐らくは。」
「恐らく?」
エミリーが首を傾げる。
疑問に思うのは最もだろう。けれど断言出来ないのは仕方ない。何故ならヴィオレットの知る『光のキャンパス』も『白のキャンパス』もキャラクリエイトの初期化アイテムだったのだから。
「実物を見てみないことには分からないの。でも私は、それが鍵になると思ってる。」
「そりゃ勇者の勘か?」
揶揄するように尋ねてきたトールに、ヴィオレットはにこりと微笑む。
「えぇ。主人公の勘よ。」
「よーし!じゃあとにかくレシピ探しだね!でもレシピってどういうところにあるんだろ?あたし達の仲間にはアイテム精製者は居ないから積極的に集めて無かったし、全然分かんないや。」
「そうですわね。基本的にはダンジョンやギルドの依頼達成報酬などで入手出来るようですが、情報を集めるにも時間が足りませんわ。」
「我の知る限りではエルフの森には無いと断言しよう。」
「引きこもりエルフが言うんじゃ確定だな。俺も色んなダンジョンを潜ってきたが、『光のキャンパス』について聞いた事無かったしなぁ。」
トールがいくつかのダンジョン名を告げる。やはり初心者向けから中級ダンジョンには無いのだろう。このパーティで攻略した隠し部屋まで見つけているダンジョンも除くと、残るは高難易度のいくつかのダンジョンが残った。
時間的にも挑戦できるのはひとつのダンジョンのみだろう。
ヴィオレットはもう遠い過去のようにぼやけている記憶を引っ張り出す。踏破報酬とボス撃破の宝箱の中身。それらを照らし合わせて、ヴィオレットは言う。
「目指すは『終焉の塔』だよ。」
それはヴィオレットの前世でも攻略出来なかった最高難易度のダンジョンだった。
「『終焉の塔』か。」
そう呟いたジルの声は暗い。当然だ。『終焉の塔』は未だだれも踏破した事の無いダンジョンなのだから。
「でも、行くしかない。何も踏破しようって訳じゃないし、目標は隠し部屋を見つけることだよ。…もし隠し部屋になかったら、踏破することになると思うけど。」
ヴィオレットは仲間のレベルを確認する。『終焉の塔』は1周目だと重課金勢がやっとの事でクリアしていた印象があった。しかし、ここは現実。レベルキャップは存在しないし、ヴィオレット達は沢山の苦難を乗り越えて魔王を倒した実力もある。装備もファルの資金提供のおかげでとてもいいものを購入出来ていた。
「皆と一緒なら、大丈夫だと思う。なるべく敵との戦闘は避けて、隠し部屋の探索を最優先にする。前衛はレーシアに任せることになっちゃうけど…。」
「おっけー!今までだってそうしてきたでしょ?大丈夫大丈夫。拳闘家の腕の見せどころってね!」
「でも、」
「私がサポート致します。回復とバフはレーシアを最優先に、陣形が崩れないよう心掛けますわ。」
「敵を暗闇状態にするのは得意だ。敵の攻撃が当たらなければ問題ないだろう。」
「『終焉の塔』は防御の堅い魔物が多い。故に魔法は有利であろう。出し惜しみはせぬ。」
「隠し部屋探しは俺の出番だな。すぐに見つけてやるよ。」
「皆…ありがとう。アイテムは持てるだけ持っていくよ。陣形はいつも通り、前衛にレーシア、中衛に私、ジル、トール、後衛にジャヴィとエミリーだね。マリーが居ない分、ジャヴィとエミリーに負担がかかるかもしれないけど、任せるよ。」
ヴィオレットがそれぞれの目を見てひとつ頷く。
まだヴィオレットの物語は終わっていない。ならば、きっと。
「マリーを助けるための最後のピースを、取りに行こう。」
本当はマリーゴールドも一緒に行きたかった、なんて。いつからこんなにわがままになったのか。
ヴィオレットは目を閉じる。
ヴィオレットを甘やかすのが上手な幼馴染を目蓋の裏に思い描いて、早く会いたいなと、思った。
フォーレンに頼めればいいが、あの様子ではきっと精製してはくれないだろう。しかしヴィオレット達のパーティにはアイテム精製者は居ない。ギルドに頼むにも、レシピがなければ難しいだろう。
歴代勇者の日記に記載は無かった。重箱の隅をつつくように探したのだから、あそこにもう手がかりはないだろう。そもそも『光のキャンパス』の存在はヴィオレットが転生者だったから知っていただけで、もしヴィオレットが転生者でなければきっと知りえなかったもののように思う。フォーレンはその存在を知っていたようだが、レシピを持っていないようだったし、反応からして御伽噺のような、あるかないか分からないアイテムだという風に見受けられた。
「…レシピを探して、ギルドを頼る。それが最善だと思う。」
時間はもうあまりない。こんな時課金が出来ればとヴィオレットは思うが、出来ない事で自分がこの世界の住民なのだと実感している事実もあるのだから、どうこう言える話ではないのだ。
「主、『光のキャンパス』は、『白のキャンパス』の上位互換ということでいいのか?」
「うん。恐らくは。」
「恐らく?」
エミリーが首を傾げる。
疑問に思うのは最もだろう。けれど断言出来ないのは仕方ない。何故ならヴィオレットの知る『光のキャンパス』も『白のキャンパス』もキャラクリエイトの初期化アイテムだったのだから。
「実物を見てみないことには分からないの。でも私は、それが鍵になると思ってる。」
「そりゃ勇者の勘か?」
揶揄するように尋ねてきたトールに、ヴィオレットはにこりと微笑む。
「えぇ。主人公の勘よ。」
「よーし!じゃあとにかくレシピ探しだね!でもレシピってどういうところにあるんだろ?あたし達の仲間にはアイテム精製者は居ないから積極的に集めて無かったし、全然分かんないや。」
「そうですわね。基本的にはダンジョンやギルドの依頼達成報酬などで入手出来るようですが、情報を集めるにも時間が足りませんわ。」
「我の知る限りではエルフの森には無いと断言しよう。」
「引きこもりエルフが言うんじゃ確定だな。俺も色んなダンジョンを潜ってきたが、『光のキャンパス』について聞いた事無かったしなぁ。」
トールがいくつかのダンジョン名を告げる。やはり初心者向けから中級ダンジョンには無いのだろう。このパーティで攻略した隠し部屋まで見つけているダンジョンも除くと、残るは高難易度のいくつかのダンジョンが残った。
時間的にも挑戦できるのはひとつのダンジョンのみだろう。
ヴィオレットはもう遠い過去のようにぼやけている記憶を引っ張り出す。踏破報酬とボス撃破の宝箱の中身。それらを照らし合わせて、ヴィオレットは言う。
「目指すは『終焉の塔』だよ。」
それはヴィオレットの前世でも攻略出来なかった最高難易度のダンジョンだった。
「『終焉の塔』か。」
そう呟いたジルの声は暗い。当然だ。『終焉の塔』は未だだれも踏破した事の無いダンジョンなのだから。
「でも、行くしかない。何も踏破しようって訳じゃないし、目標は隠し部屋を見つけることだよ。…もし隠し部屋になかったら、踏破することになると思うけど。」
ヴィオレットは仲間のレベルを確認する。『終焉の塔』は1周目だと重課金勢がやっとの事でクリアしていた印象があった。しかし、ここは現実。レベルキャップは存在しないし、ヴィオレット達は沢山の苦難を乗り越えて魔王を倒した実力もある。装備もファルの資金提供のおかげでとてもいいものを購入出来ていた。
「皆と一緒なら、大丈夫だと思う。なるべく敵との戦闘は避けて、隠し部屋の探索を最優先にする。前衛はレーシアに任せることになっちゃうけど…。」
「おっけー!今までだってそうしてきたでしょ?大丈夫大丈夫。拳闘家の腕の見せどころってね!」
「でも、」
「私がサポート致します。回復とバフはレーシアを最優先に、陣形が崩れないよう心掛けますわ。」
「敵を暗闇状態にするのは得意だ。敵の攻撃が当たらなければ問題ないだろう。」
「『終焉の塔』は防御の堅い魔物が多い。故に魔法は有利であろう。出し惜しみはせぬ。」
「隠し部屋探しは俺の出番だな。すぐに見つけてやるよ。」
「皆…ありがとう。アイテムは持てるだけ持っていくよ。陣形はいつも通り、前衛にレーシア、中衛に私、ジル、トール、後衛にジャヴィとエミリーだね。マリーが居ない分、ジャヴィとエミリーに負担がかかるかもしれないけど、任せるよ。」
ヴィオレットがそれぞれの目を見てひとつ頷く。
まだヴィオレットの物語は終わっていない。ならば、きっと。
「マリーを助けるための最後のピースを、取りに行こう。」
本当はマリーゴールドも一緒に行きたかった、なんて。いつからこんなにわがままになったのか。
ヴィオレットは目を閉じる。
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