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君が、私を、目覚めさせた
隠された、
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「ここが、『終焉の塔』…。」
ヴィオレットはてっぺんの見えない塔を見上げる。ここにきっとあるはずだと信じて。
「ちゃちゃっと攻略して、マリーんとこ行くぞ。」
「魔王を倒したあたし達なら、きっと大丈夫だよ!」
「うん…!」
仲間達からの励ましの言葉に、ヴィオレットは大きく頷く。目指すは『光のキャンパス』のレシピ入手だ。
「レーシア!」
「っ平気!まだ行けるよ!」
中の魔物は予想とは違い、弱体化は見られなかった。恐らくダンジョンは完全に独立したものになっているのだろう。画面越しに苦戦し続けた魔物を切っては避け、魔法を放っていく。残念ながら魔物避けのアイテムはあまり意味の無いものになっていた。
途切れることなくエミリーの回復魔法が掛けられる。合間合間に魔力回復アイテムを渡し、隠し部屋を探す。
「この階もハズレ。ここには無いみてぇだな。」
「わかった。上に行こう。」
ギルドの報告では全99階。今は50は登っただろうか。やや苦戦を強いられることが多くなってきたように思う。アイテムにはまだ余裕があるが、さて。
「ヴィオレット、如何する。」
ジャヴィがヴィオレットに判断を仰ぐ。
隠し部屋の有無を確認するために、全部のフロアを回っていたが、そろそろ厳しくなってきたのだ。ヴィオレット達がとれる選択肢は2つ。今まで通り隠し部屋を探し続けるか、踏破を目標にひたすら登るか。
ヴィオレットは考える。もしもこのまま隠し部屋を探し続けたとして、ダンジョンボスを倒すための余力を残せるかは未知数。しかし踏破報酬とボス撃破の宝箱の中身がレシピでは無かった場合、全てが水の泡になるのだ。加えて本当にダンジョンボスを倒せるかも分からない。
ならば。
「このまま続けていくわ。レシピは隠し部屋にある確率が高いの。皆の負担は大きいものになるけれど、諦めたくない。」
「承知した。」
「目的はレシピ探しだもん。頑張ろうね!」
「次の階にこそ、隠し部屋とレシピがあるかもしれませんもの。」
「ありがとう。」
不安がない訳ではない。けれど、ヴィオレットは進むしかないのだ。マリーゴールドを救う為に。
96階。いくつか隠し部屋はあったものの、『光のキャンパス』のレシピは見つけられ無かった。回復アイテムもゼロに近い。奇跡的に進めたとして、頂上までギリギリといったところか。
「あー!硬いなぁもう!」
レーシアの攻撃がカキン、という音を立てて弾かれる。防御値の高い敵に、なかなか物理攻撃が通らない。魔法攻撃でも中級以下ではかすり傷さえ付けられない始末だ。
「階段は見つけたが、どうする主!」
階段を登れば、敵は追いかけて来ない。ゲームと同じように現実でもそういう仕様になっているようだった。恐らくその階層がナワバリなのだろう。
このままではジリ貧になる可能性が高い。ジルの問いに、しかしヴィオレットは首を振る。
「隠し部屋優先!」
「へいへい。人使いの荒い勇者様だぜ。」
何かに気付いたらしいトールが敵を避けて壁に触れる。カチリ、と音がしたかと思えば狭い通路が現れた。
「あったようですわね!」
「«業火»」
敵の意識が壁の音とトールに向いた瞬間、ジャヴィの広範囲魔法が発動する。急激に焼け爛れた皮膚にレーシアとジルとヴィオレットの獲物が襲いかかる。エミリーのバフ付きの攻撃だ。
「よーし、いっちょうあがり!」
断末魔をあげて崩れ落ちた敵からドロップしたアイテムを拾い上げ、通路へと向かう。時々敵が落としてくれる回復アイテムに感謝しながら慎重に進んでいくと、広い場所へと出た。真ん中にポツンと一つだけ置かれた宝箱がある。
これは…。
「はは、マジか。隠しボスかよ…。」
痛いほどの緊張感がその場を支配する。
ヴィオレットは震える手でアイテムを取り出し皆へと渡していった。
「これに賭ける。」
「ほう。」
ジャヴィが興味深そうにヴィオレットを見る。
「回復アイテムはもうほとんど残ってない。頂上までの敵は未知数。ならここで戦って、あの宝箱を獲得する方が有益。秘匿レシピよ?このくらいの壁があって当然じゃない?」
ヴィオレットはそう言って引き攣りそうになる口角を上げる。
「分かりましたわ。」
「エミリー?」
「全ては神の思し召し。今ここでこの場所に辿り着いた意味が必ずあるはずです。」
エミリーは手を組み祈る。それを見て、トールは大きく溜息を吐いた。
「しゃーねーなぁ。やってやるよ。あのお宝の価値は俺が1番分かってるしな。」
「主の決めたことに異論はない。」
各々戦闘態勢へと移行する。ヴィオレットもまた、剣を握りこんだ。
「私の魔王は、あの子。私が救うと決めたんだから、負けるわけが無いのよ!」
咆哮が部屋に響き渡る。
さぁ、戦闘開始だ。
ヴィオレットはてっぺんの見えない塔を見上げる。ここにきっとあるはずだと信じて。
「ちゃちゃっと攻略して、マリーんとこ行くぞ。」
「魔王を倒したあたし達なら、きっと大丈夫だよ!」
「うん…!」
仲間達からの励ましの言葉に、ヴィオレットは大きく頷く。目指すは『光のキャンパス』のレシピ入手だ。
「レーシア!」
「っ平気!まだ行けるよ!」
中の魔物は予想とは違い、弱体化は見られなかった。恐らくダンジョンは完全に独立したものになっているのだろう。画面越しに苦戦し続けた魔物を切っては避け、魔法を放っていく。残念ながら魔物避けのアイテムはあまり意味の無いものになっていた。
途切れることなくエミリーの回復魔法が掛けられる。合間合間に魔力回復アイテムを渡し、隠し部屋を探す。
「この階もハズレ。ここには無いみてぇだな。」
「わかった。上に行こう。」
ギルドの報告では全99階。今は50は登っただろうか。やや苦戦を強いられることが多くなってきたように思う。アイテムにはまだ余裕があるが、さて。
「ヴィオレット、如何する。」
ジャヴィがヴィオレットに判断を仰ぐ。
隠し部屋の有無を確認するために、全部のフロアを回っていたが、そろそろ厳しくなってきたのだ。ヴィオレット達がとれる選択肢は2つ。今まで通り隠し部屋を探し続けるか、踏破を目標にひたすら登るか。
ヴィオレットは考える。もしもこのまま隠し部屋を探し続けたとして、ダンジョンボスを倒すための余力を残せるかは未知数。しかし踏破報酬とボス撃破の宝箱の中身がレシピでは無かった場合、全てが水の泡になるのだ。加えて本当にダンジョンボスを倒せるかも分からない。
ならば。
「このまま続けていくわ。レシピは隠し部屋にある確率が高いの。皆の負担は大きいものになるけれど、諦めたくない。」
「承知した。」
「目的はレシピ探しだもん。頑張ろうね!」
「次の階にこそ、隠し部屋とレシピがあるかもしれませんもの。」
「ありがとう。」
不安がない訳ではない。けれど、ヴィオレットは進むしかないのだ。マリーゴールドを救う為に。
96階。いくつか隠し部屋はあったものの、『光のキャンパス』のレシピは見つけられ無かった。回復アイテムもゼロに近い。奇跡的に進めたとして、頂上までギリギリといったところか。
「あー!硬いなぁもう!」
レーシアの攻撃がカキン、という音を立てて弾かれる。防御値の高い敵に、なかなか物理攻撃が通らない。魔法攻撃でも中級以下ではかすり傷さえ付けられない始末だ。
「階段は見つけたが、どうする主!」
階段を登れば、敵は追いかけて来ない。ゲームと同じように現実でもそういう仕様になっているようだった。恐らくその階層がナワバリなのだろう。
このままではジリ貧になる可能性が高い。ジルの問いに、しかしヴィオレットは首を振る。
「隠し部屋優先!」
「へいへい。人使いの荒い勇者様だぜ。」
何かに気付いたらしいトールが敵を避けて壁に触れる。カチリ、と音がしたかと思えば狭い通路が現れた。
「あったようですわね!」
「«業火»」
敵の意識が壁の音とトールに向いた瞬間、ジャヴィの広範囲魔法が発動する。急激に焼け爛れた皮膚にレーシアとジルとヴィオレットの獲物が襲いかかる。エミリーのバフ付きの攻撃だ。
「よーし、いっちょうあがり!」
断末魔をあげて崩れ落ちた敵からドロップしたアイテムを拾い上げ、通路へと向かう。時々敵が落としてくれる回復アイテムに感謝しながら慎重に進んでいくと、広い場所へと出た。真ん中にポツンと一つだけ置かれた宝箱がある。
これは…。
「はは、マジか。隠しボスかよ…。」
痛いほどの緊張感がその場を支配する。
ヴィオレットは震える手でアイテムを取り出し皆へと渡していった。
「これに賭ける。」
「ほう。」
ジャヴィが興味深そうにヴィオレットを見る。
「回復アイテムはもうほとんど残ってない。頂上までの敵は未知数。ならここで戦って、あの宝箱を獲得する方が有益。秘匿レシピよ?このくらいの壁があって当然じゃない?」
ヴィオレットはそう言って引き攣りそうになる口角を上げる。
「分かりましたわ。」
「エミリー?」
「全ては神の思し召し。今ここでこの場所に辿り着いた意味が必ずあるはずです。」
エミリーは手を組み祈る。それを見て、トールは大きく溜息を吐いた。
「しゃーねーなぁ。やってやるよ。あのお宝の価値は俺が1番分かってるしな。」
「主の決めたことに異論はない。」
各々戦闘態勢へと移行する。ヴィオレットもまた、剣を握りこんだ。
「私の魔王は、あの子。私が救うと決めたんだから、負けるわけが無いのよ!」
咆哮が部屋に響き渡る。
さぁ、戦闘開始だ。
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