主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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さぁ、起きて、声を聞かせて

せんとうかいし

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ヒトガタは慟哭する。不明瞭なそれは幾重の声であり、他でもないルークさんの叫びであった。
構えた杖をギュッと握りしめる。
やることはひとつ。けれどその為には、ルークさんからあの暗闇を引き剥がさなければならない。

「天の怒りよ、我が望むは完全なる静寂なり。全てを焦がせ。«ライトニングサンダー»」

先制攻撃とばかりに私が魔法を放てば、それに合わせて皆が動きはじめた。
フォーメーションはいつも通り。
前衛にレーシア、中衛にヴィー、ジル、トール、後衛にジャヴィさんとエミリー、そして私。フォーレンは準備があるからと言って姿を消していた。

ここまで皆が頑張ってくれた。だから私はチャンスを逃さないように、精神を集中させる。

「ここが正念場だよ!!!全力を尽くして!!でも絶対死なないで!!!!」

ヴィーが叫ぶ。
その声に皆が鼓舞されたのがわかった。当然、私も。


あぁ、やっぱり、ヴィーは勇者主人公だ。


ヒトガタへと駆けていく背に、私はそう思った。























戦闘は苛烈を極めていた。攻撃が当たっても直ぐに黒が補充され回復されてしまうのだ。ならばと思い周囲に漂う黒に攻撃をしても煙を相手にしているかのような手応えのなさが返ってくるだけ。
今はまだ問題無いが、魔力回復薬にも限りがあるし、何より疲労は蓄積されていく。どう考えてもジリ貧だった。

だから、どうにかしようと一旦攻撃の手を緩めて様子を見ることにした。

「どーしよこれ!エンドレス!?あたしだってマリーの無事を全力で喜びたいのにー!!」

ヒトガタの攻撃を受け流したレーシアが叫ぶ。それに叫び返すのはトールだ。

「そりゃ皆思ってることだろうよ!くっそ本当にキリがねぇ。」

「そもそもこの黒いのはなんなんだ。」

ナイフを振りかざしつつ眉間にシワを寄せたジルの疑問に、私は口を開いた。

「始まりは無。光は陰り、全ては無に帰す。«ブラインド» えっと多分怨嗟の声。初代勇者さんがそう言ってた。これに触ると呑まれちゃうって。実際触れたら沢山の言葉が頭の中に流れ込んできて、ぐちゃぐちゃになりそうだった。」

「マリー?」

私の話にエミリーが心配そうな顔をこちらに向ける。大丈夫だとへらりと笑えば、小さく溜息を吐かれてしまった。

「…マリーに言いたいことは沢山ありますが、ひとまず怨嗟の声についてですわね。攻撃されても今は特に何も無いようだけれど。」

「«獄炎» 怨嗟か。ふむ。感情の具現化とは興味深い。声は何と?」

「ジャヴィ。」

ジャヴィさんの言葉をヴィーが咎める。

「大丈夫だよ、ヴィー。声は、いっぱいだったから正確には分かんなかったけど、お前のせいだって言葉はずっと聞こえてた。…ヴィーもそうだったでしょう?」

「そうね。」

そっとヴィーを伺えば、ヴィーはヒトガタを切りつけながら頷いた。なんでもない顔で。本当に意地っ張りだ。

「あれはルークさんに向けられた言葉だって、初代勇者さんは言ってた。」

「初代魔王に?そりゃまたなんでだ?」

「始まりだから。」

私がそう告げると、トールは眉を顰める。

「言わんとしてることは分からなくもねぇが…。」

トールの視線の先にはヒトガタが居る。ヴィーの切りつけた部分が黒によって修復されているところだった。

「っと!うーん、どうにか突破口を見つけたいけど、どうしたらいいんだろっ!」

レーシアがヒトガタの攻撃を避け、拳を突き出し吹き飛ばす。ヒトガタは直ぐに形勢を立て直し、駆ける。

「汝は祈り。希望。光明。冀望。その輝きで彼のものを守りたまえ。«オールプロテクション» そうは言っても手立てが…。」

全員に保護魔法をかけながら、エミリーが問う。

「なれば、ヴィオレット。棺に浄化を。」

「棺?」

「アレがそうしていた故。」

「だがあの時はマリーゴールドを奪還するための魔法行使だっただろう。」

「今呑まれているのならばまずは引き摺りださねばなるまいて。」

「分かったわ。」

ヴィーは頷いた。ジルが心配そうにヴィーを見る。

「そうなると主が狙われる。」

「大丈夫よ。棺が大切だということは分かってる。さっきから棺を守る位置から動いていないもの。さっきレーシアに吹っ飛ばされた時も直ぐに戻ってた。」

ヴィーの言葉に釣られるようにしてヒトガタを見れば確かにずっと同じ位置にいるように感じた。

「でも普通に攻撃しようとすると阻止されちまうな。」

トールが棺へとナイフを投げるも、黒が遮りたたき落とす。

「作戦を立てよう。」

ヴィーはそう言って皆を見渡し、また口を開いた。
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