主人公なんかに、なってほしくはなかった

onyx

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さぁ、起きて、声を聞かせて

めをさまして

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「その為にはトール、今すぐ«浄化»を使えるようにして。」

「…は?」

突然のヴィーの言葉にトールが目を見開く。

「ヴィオ!?この状況下で何を…!」

「ヴィオの作戦っていつもながら突飛だよねぇ。」

「ふむ。鳥なれば可能か。」

皆が驚く中、ジャヴィさんは分かったようで、納得した様子で肯定する。

「ヴィー?」

「主、説明を。」

ヒトガタの攻撃を避けたヴィーへと視線を向ければ、ヴィーは頷き話し始める。

「魔王は本来浄化装置だってことは理解してるよね?浄化作用が落ちて魔に染まりきった魔王は浄化を続けることが出来ず眠りから覚めて勇者によって倒される。つまり今こうして目覚めているあのヒトガタは魔に染まりきった状態と言えるのよ。だから、浄化の魔力でなんとか出来るはず。」

「なるほど。」

「ただ、ここで問題になってくるのが怨嗟の声とルーク様。怨嗟の声が黒なのだとすると、いくら浄化したところでルーク様が存在している今、無限に湧き続けることになるわ。実際その通りだしね。だからまずルーク様をどうにかしなくちゃいけないんだけど、ルーク様の意識がどこまで残っているか分からないからどうしようもないの。」

「それと俺が«浄化»を使えるようにならなきゃいけねぇのとなんの関わりがあるんだ?」

トールがそう尋ねると、ヴィーはにっこりと笑みを浮かべた。

「あら、簡単なことよ。私が囮になるからその間にトールが棺を浄化するの。」

「確かに今1番警戒されているのはヴィオですが…。」

「こいつが囮じゃだめなのか?」

ヒトガタを切りつけながら問うジルに、ヴィーは首を振る。

「言ったでしょ。警戒されてるって。あのヒトガタ、こちらの攻撃を判別出来る知能があるんだよ。」

「つっても«浄化»なんてどうやって覚えりゃいいんだよ。」

「それに関しては頑張ってとしか言えないんだよね。私は物心ついた時にはもう使えてたし…。」

「確かに。私と会った時にはもう使えてたもんね。」

小さい頃を思い出しながらそう告げれば、トールの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。

「そもそも普通の魔法さえ使えねーってのにハードル高すぎだろ。ヴィオの魔法奪っていいか?」

「もう、私は囮役だってば。」

「«暴風» 鳥は歩くことを覚えたのだろうて。その調子で飛び方も思い出せば良い。」

「てめーを基準にすんなクソジジイ。」

「そうか。」

「うーん、でもトールが«浄化»を使えるようにならないことにはこの作戦は出来ないってことだよね?」

ヒトガタを牽制しながら困ったように眉を下げたレーシアの言葉にジルが頷く。

「他に案も無いしな。」

「トール…。」

「あーもうやりゃいいんだろやりゃあ!」

よほど変な顔をしていたのだろうか。トールが私の頭をぐしゃぐしゃにして溜息を吐く。それに気付いたヴィーが私の髪を直してくれた。
こんな時なのに嬉しくて頬が緩んでしまう。

「彼のものの傷を癒せ。«ヒール» とはいえ気合いでどうにかなるものでもなさそうですわ。ジャヴィさん、何か助言をいただけないでしょうか?」

レーシアに回復魔法をかけたエミリーがジャヴィさんへと助力を願えば、ジャヴィさんは微かに首を傾ける。

「ふむ。«浄化»は浄化の魔力の持ち主にしか使えぬ。故に我にも使えぬ魔法だが、たしか使えぬまま旅に出た勇者の本には『守るべきものを守りたいと心から願った時、私は初めて«浄化»が使えるようになった』と記載されていたな。」

「…はっ、それなら余裕じゃねーか。せっかく取り戻したお宝を曇らせることはしたくねぇんだ。その為なら、こんくらい朝メシ前ってな!」

トールが不敵に笑う。
それを見て、ヴィーが浄化の魔法を棺へと向ける。黒は当然それを退け、攻撃を仕掛けてきた。レーシアとヴィーが駆け出す。エミリーが保護の魔法を、私は素早さアップの魔法を掛け、ジルが目眩しの魔法を展開した。ジャヴィさんが派手に魔法を発動していく。駄目押しのように、ヴィーがまた浄化の魔法を放つ。ヒトガタの意識が、完全にヴィーへと向かった瞬間。

「トール!」

「星は学びし位置へ。時は望むるままに。全てを正し、穢れは消ゆ。«浄化»」

トールの魔法が、真っ直ぐに棺へと届いた。

「っああああああああぁぁぁ!!!!!」

悲痛な叫びが響き渡る。
駆け出すヒトガタから徐々に徐々に黒が剥がれ落ちていく。
黒が追い縋るも、触れる前に霧散し消える。
ヒトガタが棺へと辿り着いた頃には、完全ではないけれど、その姿を変えていた。
ルークさんだ。

「ミヨ………!」

ルークさんが何度もミヨさんの名前を呼ぶ。
そこにはもう、居ないのに。

私はゆっくりとルークさんへと近づいた。

「マリー!?」

「大丈夫。」

心配してくれる声を背に、私はルークさんの肩を叩く。

「っ、ミヨの棺に、手を出すな!」

振り返ったルークさんの顔は苦痛を湛え、涙に濡れていた。

「ルークさん。」

「…マリー?」

声をかければ、ルークさんがハッとしたように私の名前を呼ぶ。
彼は私を覚えていてくれた。
嬉しかった。
でも、私はもう、やるべき事を決めてしまったから。

「うん。ごめん、ルークさん。」

私はそう言って、棺に杖を向ける。

「!! やめてくれ、マリー!!!」

「天の怒りよ、遍く全ての光を裂き、大気を世界を焼き尽くせ。最後に残るは世界の始まり«インフィニティサンダーボルト»」

雷の光に視界が白に染まる。
ルークさんが保護の魔法を掛けようとするも、間に合わないのは確実だった。

「ミヨさんはそこにはいない。目を覚まして。」

ガラスの割れる音が響く。
最後に見たルークさんの顔が、憑き物が落ちたかのように見えたのは、きっと私の見間違いじゃないと、そう思った。
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