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Main story ¦ リシェル
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一陣の風がぶわりと吹き抜け、綿毛のような花びらのような白いものが一斉に吹き上がる。その間を、きゃっきゃと楽しそうな声をあげながら駆け抜ける小さな子どもの影が視界の端を通り抜けていったような気がした。もちろん声は聞こえないし、ここには私とルシウスしかいないのだから、子どもなんているはずがないのだけれど。でも不思議とその小さな影は、嘗て草原を思う様走り回っていた頃の私たちであるような気がした。たくさん遊んで、たくさんおしゃべりをして、たくさん転んで、それでもお腹を抱えて、時には息を切らしながらたくさん笑い合っていたあの頃の私たち。
もちろんそれは幻覚だ。或いはルシウスの見せてくれた魔法。けれどどちらにしろ、それは現実のものではない。形のない、疾うに過ぎ去ってしまった記憶の一片。それでも胸の中は、懐かしさでいっぱいだった。やさしく胸を締め付ける、とてもあたたかなノスタルジー。
「ルシウスって、本当に変わり者なのね」
瓜二つの顔をしていたけれど、姉の方がもっと清楚で美しかったと、私は思っている。薄いブロンドの長い髪の毛も、薄桃色の瞳も、陶器のように滑らかな白い肌も。何より姉は、とてもやさしい人だった。純粋無垢をそのまま具現化したような、常に明るく、前向きで、慈愛に充ち満ちた人。淑女としての嗜みも完璧で、所作のひとつひとつさえ、何もかもが整って麗しかった。
もしかしたらルシウスも、いずれ姉のことを愛すようになるかもしれない、と思ったことはもちろんある。一度や二度だけでなく、何度も何度も。私には、姉に優れるところなんて、何ひとつとしてなかったから。
それなのに――。風に靡いて乱れた横髪をそっと耳にかけながら、私は静かに目を伏せる。それなのにルシウスは、今も昔も変わらず、ずっと私の傍にいてくれている。姉が病に臥せった時、アルベルトは常に彼女の傍につきっきりだったけれど。でも、ルシウスはそうではなかった。彼は姉のもとへは滅多に顔を出さず、不治の病で落ち込む私のもとへ足繁く通い、そして気が落ち着くまでずっと傍にいてくれたのだ。アルベルトは常に姉を優先していたけれど、一方で、ルシウスは常に私を優先してくれた。試験を控えた大事な時期でさえ。「試験はいつでも受けられるけど、君はこの世にたった一人しかいないから」と言って。
「私なんかよりも、姉の方が魅力的だったはずなのに」
ゆっくりと瞼をあげ、ぎこちなく自嘲をこぼしながら、ルシウスの双眸を見上げる。彼は一瞬驚いたように、ほんの僅か目を瞠らせたけれど、しかしすぐに、ははっと笑って風で乱れた前髪を掻き上げた。
「誰を魅力的に思うかは、人それぞれだろ。アルベルトはオリヴィアだったかもしれないが、俺は――」
もちろんそれは幻覚だ。或いはルシウスの見せてくれた魔法。けれどどちらにしろ、それは現実のものではない。形のない、疾うに過ぎ去ってしまった記憶の一片。それでも胸の中は、懐かしさでいっぱいだった。やさしく胸を締め付ける、とてもあたたかなノスタルジー。
「ルシウスって、本当に変わり者なのね」
瓜二つの顔をしていたけれど、姉の方がもっと清楚で美しかったと、私は思っている。薄いブロンドの長い髪の毛も、薄桃色の瞳も、陶器のように滑らかな白い肌も。何より姉は、とてもやさしい人だった。純粋無垢をそのまま具現化したような、常に明るく、前向きで、慈愛に充ち満ちた人。淑女としての嗜みも完璧で、所作のひとつひとつさえ、何もかもが整って麗しかった。
もしかしたらルシウスも、いずれ姉のことを愛すようになるかもしれない、と思ったことはもちろんある。一度や二度だけでなく、何度も何度も。私には、姉に優れるところなんて、何ひとつとしてなかったから。
それなのに――。風に靡いて乱れた横髪をそっと耳にかけながら、私は静かに目を伏せる。それなのにルシウスは、今も昔も変わらず、ずっと私の傍にいてくれている。姉が病に臥せった時、アルベルトは常に彼女の傍につきっきりだったけれど。でも、ルシウスはそうではなかった。彼は姉のもとへは滅多に顔を出さず、不治の病で落ち込む私のもとへ足繁く通い、そして気が落ち着くまでずっと傍にいてくれたのだ。アルベルトは常に姉を優先していたけれど、一方で、ルシウスは常に私を優先してくれた。試験を控えた大事な時期でさえ。「試験はいつでも受けられるけど、君はこの世にたった一人しかいないから」と言って。
「私なんかよりも、姉の方が魅力的だったはずなのに」
ゆっくりと瞼をあげ、ぎこちなく自嘲をこぼしながら、ルシウスの双眸を見上げる。彼は一瞬驚いたように、ほんの僅か目を瞠らせたけれど、しかしすぐに、ははっと笑って風で乱れた前髪を掻き上げた。
「誰を魅力的に思うかは、人それぞれだろ。アルベルトはオリヴィアだったかもしれないが、俺は――」
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