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第7章 リアリスティック・ドリームワールド
17 条件
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どうあったって、ワルプルギスの方針に賛同することはできない。
だから私は、本来彼女たちが求めていることに力を貸すことはできない。
けれどだからといって、このままホワイトの無謀を見逃すこともまたできない。
私は緩やかに差し出される手と、レイくんの柔らかな笑みに交互に視線を向ける。
今レイくんが語ってくれたことに、嘘は感じ取れなかった。
まだ隠していることはあるのかもしれないけれど、それでもレイくんなりに真面目に話してくれていることはわかる。
だから、こうして私に助けを求めて来ていることそのものにも、きっと他意はないはず。
本来の目的の助力以前に、まずはホワイトの暴走を止めないといけない。
その為に付いて来てほしいという言葉に、きっと嘘はない。
だとすれば、私はワルプルギスの方針には力を貸せないけれど、ホワイトを止めたいという気持ちは同じだ。
魔女に不要な犠牲を出させてはほしくないし、そもそも魔法使いと争ってほしくないんだから。
それに、善子さんの気持ちを考えれば、一刻も早くその間違った行いをやめさせないといけない。
今のホワイトが、自分の意思で今の在り方を貫いているんだとしても。
真奈実さんの正義を信じ、そして親友として大切に想ってきた善子さんにとっては、とても理解しがたいもの。
自分の親友が、そんな危険な真似をしようとしているなんて、善子さんからしてみたら気が気じゃないはずだから。
私がワルプルギスの元に行くことで、ホワイトの無謀を止めることができるのなら。
今度こそ私は、レイくんの手を取るべきかもしれない。
そこでもしかしたら、ワルプルギスそのもののやり方も変えることができるかもしれない。
「レイくん、私……」
迷いの後、私はゆっくりと口を開いた。
レイくんの黒い瞳が私を包み込むように捉えて、静かに次の言葉を待っている。
私はその瞳に向かい合いながらも、視線をずらして善子さんの顔を窺った。
複雑そうな顔をしながらも、心配そうな表情でこちらを見ている善子さん。
真奈実さんに対する不安でいっぱいのはずなのに、それでも私を気遣ってくれている。
そんな善子さんだからこそ、私も力になりたい。
「わかったよ。私、レイくんと一緒に行く。それで真奈実さんを止めるよ」
「本当かい!? それは嬉しいなぁ!」
差し出された手に自分の手を重ねてそう答えると、レイくんはパァっと顔を綻ばせた。
いつもの余裕ある落ち着いた笑みではなく、無邪気で花のような笑みだった。
カッコつけた笑顔もビジュアル的には高得点なレイくんだけれど、こっちの自然の方が何倍も魅力的に見えた。
「よかった! やっとアリスちゃんが、僕の元に帰ってきてくれる! やっと、やっとだ!」
「アリスちゃん、だ、大丈夫なの? こんな奴についてっちゃって」
私の手をぎゅっと握って浮かれるレイくんを渋い目で見ながら、善子さんが心配そうに声を上げた。
珍しく舞い上がっているレイくんに若干の戸惑いを覚えていた私は、投げかけられた言葉に即座に頷いた。
「はい。真奈実さんのことは止めないといけませんし、それにどちらにしても、近いうちにはこうしなきゃと思ってましたから。私は、私に連なる問題を一刻も早く解決させたいんです。みんなの、友達のために」
「そっか。アリスちゃんがいいのなら……。私としてはこんな奴に可愛い後輩を任せるのは、かなり抵抗があるけれど。でも、アリスちゃんがそうしたいのなら仕方ない」
善子さんは重い溜息をつきながら、それでもなんとか私に朗らかな笑みを向けてくれる。
自分の不満や不安を抱えつつも、私がしようとしていることを後押ししてくれようとして。
ようやく昔のことを話してくれたレイくんだけれど。
善子さんにとってレイくんは、やっぱり親友を奪った人に他ならない。
真奈実さんを殺されたというのは誤解だったし、今の真奈実さんのやり方は彼女自身の意志だというけれど。
それでも、真奈実さんがああなってしまったきっかけはレイくんにあるし、その為に善子さんを巻き込んだ事実も変わらない。
そんなレイくんを、善子さんが許すのは決して簡単なことじゃないと思う。
その思いが和らぐ術があるとすれば、それはきっと真奈実さんとの関係が回復すること。
真奈実さんとわかり合えて、そして彼女が善子さんの元に帰ってきてくれれば、きっと善子さんも楽になるはずだ。
だから私はその為に、できることをして力になりたい。
「ねぇレイくん。代わりと言っちゃなんだけど。一緒に行くのには、条件────というかお願いがあるの」
善子さんの笑みを受けて、私はレイくんに向き直った。
嬉しそうに表情を綻ばせているレイくんは、上機嫌で首を傾げてくる。
上機嫌故か、何でも言ってごらんという寛大な笑顔で。
「私、今度こそレイくんと一緒に行く。でもね、一人じゃなくて、みんなと行きたいの」
「みんな……?」
「うん。私に寄り添ってくれて、力を貸してくれる友達と一緒に。氷室さんや、善子さんと一緒に」
キラキラと純粋な笑みを浮かべていたレイくんの表情が、ほんの少しだけ陰ったように見えた。
けれどそれは見間違えかと思うほどの些細な変化で、明るい雰囲気に変わりはない。
その笑みを肯定と受け取って、私は善子さんに顔を向けた。
「いいですよね、善子さん。私と一緒にワルプルギスのところに行って、真奈実さんを止めましょう」
「うん、もちろんだよ。あのバカを止めるのは勿論、レイがアリスちゃんに変なことしないか、きっちり監視して守らせてもらうよ」
不安が隠れていた善子さんの笑みに、純粋な色が戻った。
ニカッと頼もしい豊かな笑みを浮かべて、力強く頷いてくれる。
その瞳には、希望の光が宿っていた。
グッとガッツポーズをする善子さんの姿は、普段の頼もしい先輩のもの。
善子さんには、いつもこうして明るく格好良くいてもらいたい。
私がお礼を言うと、ニパッとした笑みが返ってきた。
「まぁ、それは仕方ないね。アリスちゃんを独り占めできなくて残念だけれど、今はそんなことも言ってられないし」
意気を取り戻した善子さんにまるで邪魔者を見るような目を向けながら、レイくんはそうこぼした。
不服であるようだけれど、それを拒否しているだけの余裕はないみたいで、渋々感を出しながらも素直に頷いてくれる。
「それでも、君が僕の手をとってくれたことが嬉しいよ。ありがとう、アリスちゃん」
「ううん。散々待たせちゃってて、本当にごめんね。それに、今はレイくんの目的そのものには力を貸せないし……」
「好きな女の子を待つことに苦はないさ。まぁ、先のことはとりあえずまた考えよう」
ぽろっと出たワードに思わず顔が熱くなるのを感じた。
そんな私を見て楽しそうに笑うレイくんに、ますますドギマギする。
でもレイくんを睨みながらブルっと背筋を震わす善子さんの姿が視界の端に映って、私はハッと我に帰った。
「ま、まずは真奈実さんだね。とりあえずはそこまで、よろしく」
握られた手を放して、私は誤魔化すようにそう言い切った。
レイくんは少しだけ寂しそうな顔をしたけれど、よろしくとにこやかに返してくれた。
それは、ワルプルギスとして暗躍する魔女のものではなく、五年前出会った友達としての純粋な笑みだった。
だから私は、本来彼女たちが求めていることに力を貸すことはできない。
けれどだからといって、このままホワイトの無謀を見逃すこともまたできない。
私は緩やかに差し出される手と、レイくんの柔らかな笑みに交互に視線を向ける。
今レイくんが語ってくれたことに、嘘は感じ取れなかった。
まだ隠していることはあるのかもしれないけれど、それでもレイくんなりに真面目に話してくれていることはわかる。
だから、こうして私に助けを求めて来ていることそのものにも、きっと他意はないはず。
本来の目的の助力以前に、まずはホワイトの暴走を止めないといけない。
その為に付いて来てほしいという言葉に、きっと嘘はない。
だとすれば、私はワルプルギスの方針には力を貸せないけれど、ホワイトを止めたいという気持ちは同じだ。
魔女に不要な犠牲を出させてはほしくないし、そもそも魔法使いと争ってほしくないんだから。
それに、善子さんの気持ちを考えれば、一刻も早くその間違った行いをやめさせないといけない。
今のホワイトが、自分の意思で今の在り方を貫いているんだとしても。
真奈実さんの正義を信じ、そして親友として大切に想ってきた善子さんにとっては、とても理解しがたいもの。
自分の親友が、そんな危険な真似をしようとしているなんて、善子さんからしてみたら気が気じゃないはずだから。
私がワルプルギスの元に行くことで、ホワイトの無謀を止めることができるのなら。
今度こそ私は、レイくんの手を取るべきかもしれない。
そこでもしかしたら、ワルプルギスそのもののやり方も変えることができるかもしれない。
「レイくん、私……」
迷いの後、私はゆっくりと口を開いた。
レイくんの黒い瞳が私を包み込むように捉えて、静かに次の言葉を待っている。
私はその瞳に向かい合いながらも、視線をずらして善子さんの顔を窺った。
複雑そうな顔をしながらも、心配そうな表情でこちらを見ている善子さん。
真奈実さんに対する不安でいっぱいのはずなのに、それでも私を気遣ってくれている。
そんな善子さんだからこそ、私も力になりたい。
「わかったよ。私、レイくんと一緒に行く。それで真奈実さんを止めるよ」
「本当かい!? それは嬉しいなぁ!」
差し出された手に自分の手を重ねてそう答えると、レイくんはパァっと顔を綻ばせた。
いつもの余裕ある落ち着いた笑みではなく、無邪気で花のような笑みだった。
カッコつけた笑顔もビジュアル的には高得点なレイくんだけれど、こっちの自然の方が何倍も魅力的に見えた。
「よかった! やっとアリスちゃんが、僕の元に帰ってきてくれる! やっと、やっとだ!」
「アリスちゃん、だ、大丈夫なの? こんな奴についてっちゃって」
私の手をぎゅっと握って浮かれるレイくんを渋い目で見ながら、善子さんが心配そうに声を上げた。
珍しく舞い上がっているレイくんに若干の戸惑いを覚えていた私は、投げかけられた言葉に即座に頷いた。
「はい。真奈実さんのことは止めないといけませんし、それにどちらにしても、近いうちにはこうしなきゃと思ってましたから。私は、私に連なる問題を一刻も早く解決させたいんです。みんなの、友達のために」
「そっか。アリスちゃんがいいのなら……。私としてはこんな奴に可愛い後輩を任せるのは、かなり抵抗があるけれど。でも、アリスちゃんがそうしたいのなら仕方ない」
善子さんは重い溜息をつきながら、それでもなんとか私に朗らかな笑みを向けてくれる。
自分の不満や不安を抱えつつも、私がしようとしていることを後押ししてくれようとして。
ようやく昔のことを話してくれたレイくんだけれど。
善子さんにとってレイくんは、やっぱり親友を奪った人に他ならない。
真奈実さんを殺されたというのは誤解だったし、今の真奈実さんのやり方は彼女自身の意志だというけれど。
それでも、真奈実さんがああなってしまったきっかけはレイくんにあるし、その為に善子さんを巻き込んだ事実も変わらない。
そんなレイくんを、善子さんが許すのは決して簡単なことじゃないと思う。
その思いが和らぐ術があるとすれば、それはきっと真奈実さんとの関係が回復すること。
真奈実さんとわかり合えて、そして彼女が善子さんの元に帰ってきてくれれば、きっと善子さんも楽になるはずだ。
だから私はその為に、できることをして力になりたい。
「ねぇレイくん。代わりと言っちゃなんだけど。一緒に行くのには、条件────というかお願いがあるの」
善子さんの笑みを受けて、私はレイくんに向き直った。
嬉しそうに表情を綻ばせているレイくんは、上機嫌で首を傾げてくる。
上機嫌故か、何でも言ってごらんという寛大な笑顔で。
「私、今度こそレイくんと一緒に行く。でもね、一人じゃなくて、みんなと行きたいの」
「みんな……?」
「うん。私に寄り添ってくれて、力を貸してくれる友達と一緒に。氷室さんや、善子さんと一緒に」
キラキラと純粋な笑みを浮かべていたレイくんの表情が、ほんの少しだけ陰ったように見えた。
けれどそれは見間違えかと思うほどの些細な変化で、明るい雰囲気に変わりはない。
その笑みを肯定と受け取って、私は善子さんに顔を向けた。
「いいですよね、善子さん。私と一緒にワルプルギスのところに行って、真奈実さんを止めましょう」
「うん、もちろんだよ。あのバカを止めるのは勿論、レイがアリスちゃんに変なことしないか、きっちり監視して守らせてもらうよ」
不安が隠れていた善子さんの笑みに、純粋な色が戻った。
ニカッと頼もしい豊かな笑みを浮かべて、力強く頷いてくれる。
その瞳には、希望の光が宿っていた。
グッとガッツポーズをする善子さんの姿は、普段の頼もしい先輩のもの。
善子さんには、いつもこうして明るく格好良くいてもらいたい。
私がお礼を言うと、ニパッとした笑みが返ってきた。
「まぁ、それは仕方ないね。アリスちゃんを独り占めできなくて残念だけれど、今はそんなことも言ってられないし」
意気を取り戻した善子さんにまるで邪魔者を見るような目を向けながら、レイくんはそうこぼした。
不服であるようだけれど、それを拒否しているだけの余裕はないみたいで、渋々感を出しながらも素直に頷いてくれる。
「それでも、君が僕の手をとってくれたことが嬉しいよ。ありがとう、アリスちゃん」
「ううん。散々待たせちゃってて、本当にごめんね。それに、今はレイくんの目的そのものには力を貸せないし……」
「好きな女の子を待つことに苦はないさ。まぁ、先のことはとりあえずまた考えよう」
ぽろっと出たワードに思わず顔が熱くなるのを感じた。
そんな私を見て楽しそうに笑うレイくんに、ますますドギマギする。
でもレイくんを睨みながらブルっと背筋を震わす善子さんの姿が視界の端に映って、私はハッと我に帰った。
「ま、まずは真奈実さんだね。とりあえずはそこまで、よろしく」
握られた手を放して、私は誤魔化すようにそう言い切った。
レイくんは少しだけ寂しそうな顔をしたけれど、よろしくとにこやかに返してくれた。
それは、ワルプルギスとして暗躍する魔女のものではなく、五年前出会った友達としての純粋な笑みだった。
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