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【ざまぁ回】第43話 勇者、聖剣を失ったことを父親に隠し通す&冒険者ギルドから借金を取り立てられる
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――時は少し戻り、勇者ハロンとナットが決闘した翌日、ハロンの家。
ハロンは小さいながら豪勢な屋敷に、使用人達と住んでいる。
今日はそこへ2人、客人が訪ねてきた
ゲッキーとメルツ。冒険者ギルド本部の、借金取り立て姉妹だ。
ハロンは上機嫌でゲッキーとメルツを応接間に案内する。
「さて、冒険者ギルド本部が私に何の用かな? いやいい、言わなくても分かるとも。勇者の称号剥奪の件を撤回したい、という申し出だろう? 私ほどの冒険者が居た座に、ふさわしいものなどそう現れは……」
「ちっがいまーす☆ 今日来たのは、冒険者ギルドへの借金を返済してもらうためでーす」
「お金……返してください……」
「何を言っている。キキとカカとは違い、私はナットとの勝負で聖剣しか賭けていないし、それはもう渡した。もう払うものなど……」
「いや荷物持ち兼戦闘用ゴーレム壊しちゃったじゃないですか☆」
「あっ」
ハロンは、ゴーレムを壊した件をすっかり忘れていた。
「金貨1000枚……弁償してください……」
呪術師メルツが囁くように催促する。
――そのとき、玄関のドアを叩く音がする。
「そうだ、今日は父上が会いに来ると言っていた! 金なら父上に掛け合ってみる、少し待っていてくれ!」
「分かりました~。いこう、メルツ」
ゲッキーとメルツは隣の部屋に移動する。
そしてハロンは、父親を応接間に通す。
ハロンの父は、体格のいい中年男性だ。
「ハロンちゃん、元気だったか? 勇者としての仕事は順調かい?」
「は、はい父上。とても順調です」
ハロンは、『勇者の称号を剥奪されました』、とはとても言えなかった。
「そうか、それは良かった。ハロンちゃん、聖剣バーレスクを見せてくれ」
「せせせせ、聖剣バーレスクをですか?」
ハロンの背中を、汗が滝のように流れる。
「ああ。せっかく来たんだ。我が家に伝わる剣の、あの美しい刀身を見ないともったいないからな」
「ええと、聖剣バーレスクは今鍛冶屋にメンテナンスに出していて……」
「メンテナンスだと!?」
父親が大声を出すと、ハロンが ビクゥ! と背筋を伸ばす。
「素晴らしい心がけだ! 聖剣バーレスクは頑丈だが、メンテナンスしなくていいわけではない。ちゃんと聖剣バーレスクを丁寧に扱っているようで、安心した。うん、感心感心」
ハロンは、思い出していた。
小さいころ、聖剣バーレスクを持たせてもらったが落としてしまい、丸1日中怒られたことを。
「父上。もしも、もしも仮にですよ、私が聖剣バーレスクをなくしたとしたら、父上はいかがなさいますか?」
ハロンは震える声で聞いてみた。
「はっはっは。面白い冗談だな、ハロンちゃん。……その時はお前を殺して私も死ぬ」
ハロンの父は笑っているが、目は少しも笑っていなかった。
そこには、本気で娘と心中する覚悟があった。
「ははは、そうですか……そうですよね、聖剣バーレスクは我が家に伝わる大事な大事な剣ですからね……」
ハロンの足が震えていた。
「あの、ところで父上。申し訳ないのですが……」
『お金を貸して欲しいです』、と言いかけてハロンは気付く。
モルナック家は貴族ではないが、代々冒険者として大稼ぎしており貯金はたっぷりある。
金貨1000枚くらいは頼めば貸してくれるかもしれない。
だが、お金を持ってきてくれた時、また父親に『聖剣を見せてくれ』と言われるだろう。
その時、また聖剣を持っていなかったら、今度は『メンテナンスに出している』という言い訳は通じないだろう。メンテナンスに出している期間が長すぎる。
その時、聖剣バーレスクをなくしたことがバレるかもしれない。
一瞬の間、ハロンは悩みに悩んだ。ここでお金を借りることができなければ、冒険者ギルドにどんな方法で借金返済させられるかわからない。
だが、
「父上、申し訳ないのですが、たまにまた会いに来て下さい。この街では知り合いが中々増えず、たまに寂しいと感じるのです」
ハロンは、『お金を貸してください』が言えなかった。
「もちろんだとも! 今度、母さんとお兄ちゃんも連れて遊びにこよう! その時は、この街を案内してくれ」
気分を良くして、ハロンの父は帰っていった。
「お父さんにお金借りるんじゃなかったの~?」
隣の部屋からゲッキーとメルツが戻ってくる。
「フン、父上に金を借りなくとも、他にやりようはあるさ。例えば……逃げるとかな!」
ハロンが猛ダッシュで家から出ていこうとする。
だが、
”ビタンッ!!”
「痛ーーーー!?」
ハロンが転んで、顔面を思いきり床に打ち付ける。
ハロンの脚には、メルツが発動した呪術【カースバインド】による黒い鎖がまきついていた。
更に鎖が伸び、ハロンの体をがんじがらめにする。
「モガモガモガー!?」
ハロンは口も塞がれ、喋ることさえできなくなった。
そんなハロンを、ゲッキーが軽々と担ぐ。
「踏み倒しは駄目だって~。ほいじゃ行こっか。【裏冒険者ギルド】へ、1名様ご案内~☆」
「ハロンさん、しっかり働いてくださいね……」
こうして元勇者ハロンも、裏冒険者ギルドへ連行されていくのだった。
ハロンは小さいながら豪勢な屋敷に、使用人達と住んでいる。
今日はそこへ2人、客人が訪ねてきた
ゲッキーとメルツ。冒険者ギルド本部の、借金取り立て姉妹だ。
ハロンは上機嫌でゲッキーとメルツを応接間に案内する。
「さて、冒険者ギルド本部が私に何の用かな? いやいい、言わなくても分かるとも。勇者の称号剥奪の件を撤回したい、という申し出だろう? 私ほどの冒険者が居た座に、ふさわしいものなどそう現れは……」
「ちっがいまーす☆ 今日来たのは、冒険者ギルドへの借金を返済してもらうためでーす」
「お金……返してください……」
「何を言っている。キキとカカとは違い、私はナットとの勝負で聖剣しか賭けていないし、それはもう渡した。もう払うものなど……」
「いや荷物持ち兼戦闘用ゴーレム壊しちゃったじゃないですか☆」
「あっ」
ハロンは、ゴーレムを壊した件をすっかり忘れていた。
「金貨1000枚……弁償してください……」
呪術師メルツが囁くように催促する。
――そのとき、玄関のドアを叩く音がする。
「そうだ、今日は父上が会いに来ると言っていた! 金なら父上に掛け合ってみる、少し待っていてくれ!」
「分かりました~。いこう、メルツ」
ゲッキーとメルツは隣の部屋に移動する。
そしてハロンは、父親を応接間に通す。
ハロンの父は、体格のいい中年男性だ。
「ハロンちゃん、元気だったか? 勇者としての仕事は順調かい?」
「は、はい父上。とても順調です」
ハロンは、『勇者の称号を剥奪されました』、とはとても言えなかった。
「そうか、それは良かった。ハロンちゃん、聖剣バーレスクを見せてくれ」
「せせせせ、聖剣バーレスクをですか?」
ハロンの背中を、汗が滝のように流れる。
「ああ。せっかく来たんだ。我が家に伝わる剣の、あの美しい刀身を見ないともったいないからな」
「ええと、聖剣バーレスクは今鍛冶屋にメンテナンスに出していて……」
「メンテナンスだと!?」
父親が大声を出すと、ハロンが ビクゥ! と背筋を伸ばす。
「素晴らしい心がけだ! 聖剣バーレスクは頑丈だが、メンテナンスしなくていいわけではない。ちゃんと聖剣バーレスクを丁寧に扱っているようで、安心した。うん、感心感心」
ハロンは、思い出していた。
小さいころ、聖剣バーレスクを持たせてもらったが落としてしまい、丸1日中怒られたことを。
「父上。もしも、もしも仮にですよ、私が聖剣バーレスクをなくしたとしたら、父上はいかがなさいますか?」
ハロンは震える声で聞いてみた。
「はっはっは。面白い冗談だな、ハロンちゃん。……その時はお前を殺して私も死ぬ」
ハロンの父は笑っているが、目は少しも笑っていなかった。
そこには、本気で娘と心中する覚悟があった。
「ははは、そうですか……そうですよね、聖剣バーレスクは我が家に伝わる大事な大事な剣ですからね……」
ハロンの足が震えていた。
「あの、ところで父上。申し訳ないのですが……」
『お金を貸して欲しいです』、と言いかけてハロンは気付く。
モルナック家は貴族ではないが、代々冒険者として大稼ぎしており貯金はたっぷりある。
金貨1000枚くらいは頼めば貸してくれるかもしれない。
だが、お金を持ってきてくれた時、また父親に『聖剣を見せてくれ』と言われるだろう。
その時、また聖剣を持っていなかったら、今度は『メンテナンスに出している』という言い訳は通じないだろう。メンテナンスに出している期間が長すぎる。
その時、聖剣バーレスクをなくしたことがバレるかもしれない。
一瞬の間、ハロンは悩みに悩んだ。ここでお金を借りることができなければ、冒険者ギルドにどんな方法で借金返済させられるかわからない。
だが、
「父上、申し訳ないのですが、たまにまた会いに来て下さい。この街では知り合いが中々増えず、たまに寂しいと感じるのです」
ハロンは、『お金を貸してください』が言えなかった。
「もちろんだとも! 今度、母さんとお兄ちゃんも連れて遊びにこよう! その時は、この街を案内してくれ」
気分を良くして、ハロンの父は帰っていった。
「お父さんにお金借りるんじゃなかったの~?」
隣の部屋からゲッキーとメルツが戻ってくる。
「フン、父上に金を借りなくとも、他にやりようはあるさ。例えば……逃げるとかな!」
ハロンが猛ダッシュで家から出ていこうとする。
だが、
”ビタンッ!!”
「痛ーーーー!?」
ハロンが転んで、顔面を思いきり床に打ち付ける。
ハロンの脚には、メルツが発動した呪術【カースバインド】による黒い鎖がまきついていた。
更に鎖が伸び、ハロンの体をがんじがらめにする。
「モガモガモガー!?」
ハロンは口も塞がれ、喋ることさえできなくなった。
そんなハロンを、ゲッキーが軽々と担ぐ。
「踏み倒しは駄目だって~。ほいじゃ行こっか。【裏冒険者ギルド】へ、1名様ご案内~☆」
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こうして元勇者ハロンも、裏冒険者ギルドへ連行されていくのだった。
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