赤ちゃん竜のお世話係に任命されました

草野瀬津璃

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連載 / 第四部 世界の終末と結婚式 編

 一章 結婚式の準備 01

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 リヴィドール国の王城の一画に、聖竜教会の神殿がある。ここには聖竜の寝床があり、裏には聖なる泉があった。結衣はこの泉から、地球と異世界を行き来している。例にもれず、今回もそうだ。足元の地面が消えたと思えば、水へと落っこちた。慣れていてもびっくりするが、身構えていたのでパニックにならずに済んだ。泉の中から階段を上って、荷物を石床に置くと、結衣はふうと息を吐いた。

『ユイ、随分早かったな』

 月を背にした巨大なドラゴンが、上から結衣に話しかける。銀色のうろこに、翼の皮膜ひまくは青い色。親しみを込めた双眸そうぼうも、宝石みたいな青い目だ。聖竜ソラといい、結衣が大人まで育てた聖竜で、大きくなった今でも結衣にとっては可愛い存在だ。

「うん……クシュッ」
『これはいけない。誰かおらぬか、ユイが風邪を引く』

 ソラが中に呼びかけると、すぐに女性神官が現われた。白い帽子とローブを着た彼女達は、明かりとタオルを手にして駆け寄ってくる。

「まあ、ドラゴンの導き手様。こんなにお早いお戻りと思わず……、このお荷物はお部屋にお運びしてよろしいですか?」
「お願いします」

 バスタオルを被ると、寒さがやわらいだ。リヴィドールは春まっただ中だが、夜は冷える。泉はもっと冷たい。

「さ、あなた様はどうぞこちらへ。お風呂に入って、お召し替えください」
「ありがとうございます」

 それから聖竜教会でお風呂に入り、若草色のワンピースに着替えると、客間に通された。暖炉に火が灯り、魔法の明かりが灯った燭台が煌々と輝いている。長椅子にいた金髪の青年がさっと立ち上がる。アレクシス・ウィル・リヴィドール三世。この国の若き王だ。
 豪奢ごうしゃな金の髪は短く、結衣があげたダークレッドの飾り紐が結ばれている。白い肌は大理石みたいで、優しそうな緑色の目と通った鼻筋や、やんわりとした口元が、まるで天使の彫像みたいだ。部屋着なのか、ラフな雰囲気の深緑色のシャツとズボン姿をしている。

「ユイ、もうお戻りだと聞いて、急ぎ駆けつけました。こんなに早いなんて、大丈夫なんですか?」

 アレクは心配そうに、結衣の顔を覗き込む。
 結衣がアレクと結婚すると決めて、最後に一度と家族のもとに戻ったことを言っているのだ。リヴィドール国を出た時はまだ夕方だった。アレクにしてみれば、半日も経たずに、結衣が家族と別れてきたことになる。

「うん。どっちにしろ、明日には職場の寮に戻らないといけなかったから。そうなると、次の休みまで時間がかかるでしょ。最後に皆で食事をしてきたわ。あいさつはしてないの、異世界に嫁ぐって言ったら心配されるから」
「しかし」
「いいの。約束を破る気はなかったけど、長くいたら迷いそうだから。寂しくても、アレクが一緒にいてくれるでしょ?」
「ユイ……」

 アレクは言葉を詰まらせて、結衣の手を取る。そっと引き寄せられて、温かく抱きしめられた。

「大事にします。絶対に」
「う、うん」
「こんな言葉でしか誓えないなんて。きっとユイは不安でしょうに」
「ここには何度か来たし、大丈夫よ。皆、良い人ばかりだって知ってるから」

 結衣はそう言ったものの、お客様扱いと王妃ではまったく違うだろうことは分かっている。

「私、あんまり頭は良くないのよね。いじめられないかな」
「そんな真似を許すわけがないでしょう? 私は公務があるので、ずっと共にいることはできませんから、アメリアとディランに充分に言っておきます。それにオスカーがいるので、心強いですよ」
「確かにオスカーさんを敵に回すと、すっごく怖そうね」

 宰相オスカーを思い浮かべて、結衣は苦笑した。アレクは自信たっぷりに返す。

「ええ。兄達にも恐れられていましたから、怖さは保証します」
「あの噂のお兄さん達よりも上なの? 本物だわ」

 アレクには二人の兄王子がいたが、どちらも流行り病で亡くなったと聞いている。聖竜の盟友に選ばれた末弟を恨んで、アレクに様々な嫌がらせをしていたようだ。アレクが王子にもかかわらず、婚約者がいなかったのも、兄王子達の仕業らしい。おかげで結衣は特に問題もなく婚約できたが、彼の苦労を思うと、兄王子達にはあんまり良い気持ちはしない。

「ユイ、なんでも相談してくださいね」
「アレクもよ。弱音でも愚痴でも、私は聞くから」
「ありがとうございます。ユイも話してください」
「ねえ、結婚後のルールを決めません? 例えば、喧嘩しても食事はできるだけ一緒にとる、とか、同じベッドで眠る、とか」
「いいですね。うーん、では、お互いに三つずつ出しあって、後でまとめるのはどうでしょうか」
「いいわね」

 結衣は頬をほころばせて、アレクに一層強く抱き着く。

「アレク、大好き。アレクを守れるように、私もがんばるね」
「傍にいてくれるだけで充分ですよ」

 アレクは結衣の額に軽くキスを落とすと、名残惜しげに離れる。

「二ヶ月後には結婚式を挙げましょう」
「そんなに急ぐの?」
「私には、これでも遅いくらいですよ。早くあなたを私だけのものにしたい……」

 熱のこもった言葉に、結衣の顔が赤くなる。しかもじっと見つめてくるので、目元を手で覆った。

「う……。照れるからやめて」
「私の部屋の隣が、王妃の部屋なんですよ。ユイの好みで整えましょう。することがたくさんで楽しみですね」

 にこにこと話しかけてくるアレクに、結衣はこくこくと頷いた。
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