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連載 / 第四部 世界の終末と結婚式 編
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しおりを挟む※残酷描写、注意。
三週間後、アスラ国王はアクアレイト国に攻め入り、聖火の洞窟へと押し入った。
聖火を守る番竜が止めに入るのを、黒ドラゴンと部下をぶつけて阻止させ、番竜がその巨体のせいで身動きがとれないのをいいことに、神殿に入りこむ。
イシュドーラから聞いていた情報があるので、まっすぐに聖火が燃える封印の間へと進んだ。止めようとする神殿兵は剣と魔法の露と消え、聖なる場所に血と死体が増えていく。
「これが聖火か」
赤々と燃える炎は、太陽の女神シャリアを思わせる優美で力強いものだ。
しばし見入ったアスラ国王だが、時間が勝負だと思い出して、懐から革製の袋を取り出した。中には、丁寧に折りたたまれた布が入っている。布を広げると、現れたのは銀の板だった。
聖竜の卵の殻だ。
聖竜ソラが生まれてから時間がたっているのに、まるで昨日できたかのような鮮度をたもっている。表面は鏡のようで、アスラ国王の喜色に満ちた顔が映りこんでいた。
「夜闇の神ナトク様、現世にお戻りください!」
アスラ国王は卵の殻を、聖火へと放り込む。
「待て、魔族!」
そこへ、長剣を手にした若者が、騎士をともなって現れた。頭には兜をかぶっているものの、華美な装飾がある軍服なので、おそらくアクアレイト国の王族だろう。防備を一手に任されている王太子だろうと予想がついたが、アスラ国王にはもうどうでもよかった。
聖火がかき消え、神殿内が薄暗くなる。壁際の明かりでは心もとない。そんな中、ぐらぐらと地震が起き始めた。
ピシ……ッ
何かがきしむ音がした瞬間、封印の間の床に大きな亀裂が走る。
「何っ」
「殿下、お下がりください!」
よろける王太子を後ろに隠し、騎士達は武器を構えて周囲を見回す。
「ははは、もう遅い! 聖なるものの欠片により、封印は解かれた! 魔族よ、我が同胞達よ。夜闇の神ナトク様の帰還を喜び、たたえるがよい!」
アスラ国王の哄笑とともに、廊下から魔族達の歓喜に満ちた声があふれる。
彼の背後では、亀裂から薄闇よりも濃い黒い霧が噴き出した。鉄さびた臭気とともに、黒い霧が湧き、神殿内に膨れあがっていく。
おぞましい闇の気配に耐え切れず、アクアレイトの兵達は入り口から大廊下へとにじり下がる。
亀裂が広がるのを見て、アスラ国王もまた入り口のほうへ移動した。
太陽の女神シャリアは、夜闇ナトクを地底深くに封じたのだ。あの裂け目から落ちたら、アスラ国王とてひとたまりもなく、あっけなく命を失うだろう。
床が崩落し、聖火の台が漆黒の闇へと吸い込まれるように落ちていく。
黒い霧は黒く凝縮し、人型を作ってへりに立った。それはたちまち人の様相へと姿を変える。腰まであるカラスのような漆黒の髪、黒曜石のようなするどい目、青白い肌をした陰鬱な空気を持つ麗しい男となった。さまざまな色合いの黒い布で作られた衣服に身を包み、金銀宝石で飾っている。
「あれから幾夜がすぎたのか……。我が下僕よ、大儀である」
現世に顕現した夜闇の神ナトクは、アスラ国王に声をかけた。
「はっ。ありがたき幸せ!」
一番に声をかけてねぎらわれ、アスラ国王の褐色の肌に赤みがさす。魔族はこの栄誉こそを、長年に渡り求めてきたのだ。アスラ国王は臣下として頭を下げ、再び顔を上げた時、ナトクの姿に砂塵のようなノイズが走るのを見た。
「……長年の封じで、力が足りぬ。そなた、なかなかの器だな。力が満ちるまで、その器を借り受けるとしよう」
いったいなんのことだと、アスラ国王はナトクを眺める。
次の瞬間、黒い霧と変わったナトクがアスラ国王に襲いかかった。黒い霧は鼻や口、耳の穴からアスラ国王の中に入りこむ。
「あ……がぁっ」
まるで蟻にたかられたかのようなすさまじい違和感にアスラ国王は苦鳴をこぼすが、それも一瞬のことだった。意識は黒に塗りつぶされ、深層へ追いやられる。
次に目を開けた時、赤い瞳は漆黒へと変わっていた。
「多少歳をとりすぎているが、まあ、よかろう」
手を握ったり開いたりして、アスラ国王は――いや、その身を乗っ取ったナトクは冷めた声でつぶやく。
「さて……と。永久とも思える封じのせいで、余は空腹だ」
ナトクがちらりと見ると、王太子をかばっていた騎士の一人はビクリと身を震わせる。神の目の前に、人間の抵抗など意味をなさない。目が眠たげになり、魅了されたかのように、ふらふらとナトクのほうへ歩いていく。
「まずは一匹目」
ナトクの周囲にたなびく黒い霧が形を持ち、騎士の首に巻き付いた。
騎士が目を丸くしたと思ったら、その肉体が徐々に枯れていき、しなびたミイラのようになった。霧が騎士を離すと、鎧をまとった死体が床に落ちる。
「ひっ」
「うわああああ!」
鍛えている騎士達でも、目の前で起きた異変は耐えかねた。悲鳴を上げ、我先にと逃げ出す。
「殿下、お逃げを!」
かろうじて意識をたもった騎士に背を押され、硬直していた王太子は蹴られた馬のように走り出した。
ナトクを止めるために残った騎士から、順に食われていく。
「ははは! いいなあ、ウサギ狩りか。久しぶりだ」
楽しげに笑い、ナトクはゆっくりと歩みを進めていく。そして目にとまったものから順に捕まえて、その生命力をしぼりとった。
聖火の洞窟まで来ると、一匹ずつ相手をするのが面倒になり、霧の触手を四方八方に広げていく。
敵も味方も関係ない。
番竜も黒ドラゴンも、人間も魔族も。平等に捕まえ、食らっていく。
そのうちほんのひと握りだけが洞窟を脱出したものの、この恐ろしい光景に、しばらく呆然となっていた。
その一人であるアクアレイト国の王太子は、とっさに崖から飛び降りることで難を逃れた。
湖へと落下しながら見たのは、黒い霧が洞窟から飛び出して、空を飛ぶ鳥を捕まえて戻っていく光景だった。
「あれが神? いいや、ただの化け物だ!」
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