異世界少女が無茶振りされる話 ~異世界は漆黒だった~

ガゼル

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3.昇格試験

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 もともと口が達者なシーマのこと、そんなこんなでこのひと月は仕事ぶりもなかなか好評でチーム「ウルマ」はそこそこうまくいっているとリンは思っていた。
 チームに悪評が立つと仕事はなくなり、お金に窮するとやはり女は花街、男は奴隷となるのは世の常である。
 いろいろと小間使いのような雑多なD級をこなしていると、1組と言われるクラスに昇格する。チームウルマはシーマの選択がしっかりしており、失敗したことがないため成績としての累積効率が良く、昇格するのが同時期に発足したオロや天空といった職業チームたちの中でも最も早かった。
 チームオロは噂では女性ならではのきめ細かなサポートができるという売り文句であったし、天空は力自慢という住み分けができていた。
 チームウルマは何でも屋というのが売りらしいが、リンはどちらかというとオラレと共に体力仕事、シーマはヤライと組んで知的な仕事という分業が行われていた。
 特にシーマの方は元々ヤライがそれほど頭がないため、シーマの言うことを無条件で聞いて実行することがうまくはまっていた。
 わかっていてもそれはできない、或いは力があるがやり方がわからないといった仕事をシーマはヤライを使ってうまくこなしている。
 シーマの的確な指示と彼女の言うことを全く躊躇しないで実行する行動力によってチームウルマは支えられていた。
 D級の1組と言われるランクになった時、C級になるにはここで試験があるのだ。
 リンはどこかの盤競技のような構造と思ったが、逆に同じような思想で発達したにすぎないのかもしれない。
 試験といっても、特別なことをするわけではない。単にD級ではなくC級の仕事をするだけである。
 ただ、試験に挑戦する場合、報酬は半額しかでない。その代わり、実行できなかった場合の違約金も半分ですむのだ。
 チーム「ウルマ」はD級1組に昇格したことにより、この試験に挑戦する資格を得ていた。
 「リン、いつかは挑戦しなければならないことなら、早く挑戦しておいた方がこういうのは良いんだからね」
 シーマはそう言うが、リンとしてはそんなのは挫折したことがないエリートならではのせりふだと思う。シーマはおそらく伯爵の娘として様々な経験を積んできているのだろうし、実際能力も高い。
 だが普通の感覚なら、万全を期して挑戦するものだ。
 少なくとも失敗したら無一文になるというような状態で、失敗することを夢にも思わない人が挫折したことしかない人にやれと言うのは本当に漆黒の職場だと思う。
 そんなこんなでリンにとってはD級の依頼も遂行が難しいのに、C級挑戦とか勘弁してほしい。
 確かにC級はD級より給金が約十倍にも跳ね上がる。しかし当然ながら未実行の違約金も十倍になるのだ。
 ただし、もう一つC級挑戦には特徴があり、経験のあるC級のチームをバックアップに入れることができる制度が設けられている。
 初めての挑戦ではいろいろわからないことや、行き詰ることもあるだろうということでギルドが設けた救済である。
 もちろん仕事をそのままC級チームが行うのではなく、あくまでサポートを行うだけだとされている。実際には元請けチームが手に負えなくなった時点でほぼすべての作業をバックアップチームが行ってしまう方が多い。
 それは手に負えなくなった時点で手遅れとなっており、一刻を争うことになってしまっていることが多々あるからである。。
 そしてC級に昇格すると、B級やA級の仕事を受けることもできるようになる。逆にA級の人がC級の仕事を受けることもできる。
 壁があるのはD級とC級の間であり、いわばD級はアルバイト、C級以上が社会人という位置づけとも言える。
 「シーマ、今回失敗すると損金が試験価格だから五倍になるとして、払えるだけの余剰資金はあるの?」
 一応聞いてみる。
 「リン、いいこと?そんな逃げ道を用意していたら完遂は遠いわ」
 いや、背水の陣とか嫌なんですけど。
 「ではわかったら選んできて。私に報告することは不要だから、そのまま受けてきてちょうだい。あと、バックアップは断って来てね」
 バックアップを断れとかどんな漆黒職場だよとかつぶやきながらシーマに追い出され、リンは弦楽セレナーデを口ずさみながらギルドの方に向かった。リンは黒高蜘蛛の絨毯以来まだ二度目の来訪である。
 ギルドは石造りの立派な建物で、中のロビーは数人の同輩らしき人たちがいる。壁に貼られているのが仕事の概要で、東西南北にそれぞれA,B,C,Dの振り分けがされている。
 級を間違って受けてしまったらお互い不幸になるが、現在D級のリンたちではD級とC級以外の選択肢はない。
 シーマに言われてC級の仕事を見に来たのだが、何となく興味があるのでB級の仕事もみてみる。
 「アルマ領調査。受注後九十日。詳細は別途資料。面接あり 10」
 「アンバス砦への救援。至急百二十日。詳細は別途。面接あり 15」
 「サベンテ疾患原因調査。受注後百二十日。詳細は別途 1」
 「都市連続消息不明人原因調査。受注後八十日。詳細は別途 5」
 なるほど、調査関係が多いし、日数も長いのが多い。
 ついでに移動してA級の仕事もみる。
 「サベンテ疾患の解決。1」
 「王都連続消息不明事件の解決。9」
 「王都防衛魔族撃退。22」
 こちらは期限もなければ詳細もない。
 内容から察するにB級の仕事人と分業しているものが多いようだ。
 そしてA級は詳細すらないのか。なんかAとBは数字がついているけど。
 「数字は募集チーム数だよお嬢さん」
 若い男が声をかけてきた。こちらが警戒するのを察知したのか、必要以上に近づいてはこない。赤い革製の服を着ている二十歳ぐらいの長身の男だ。
 髪の毛も赤く染めているらしく、毛先と根元で色が少し違う。
 「ここの受付のレンザってもんだよ。見ない顔なんで声をかけさせてもらった」
 くりくりとした青い目でリンを見ながらそう言う。
 なるほど。確かに前回来た時には会っておらず初見なら怪しんでもしょうがない。
 「チームウルマです。今回はC級の仕事を見に来ました」
 ほかの級の仕事をみるのは自由なので、C級が見ていても不思議はないのだが、まだ十四~五歳女子がA級やB級を見るのは珍しいらしい。
 「ほう、ウルマ。良い人材がそろっていると聞いているが」
 自分含めて六人のチームウルマだから、その良い人材とやらの中に自分が入っているというのはくすぐったい。
 「いえ、そんなことはありません。私もまだまだですし」
 受付のレンザとその奥の何人かの女性たちが顔を見合わせている。何かまずいことを言ったのか?リンが怪しんでいるとレンザが小声で伝えてくる。
 「いや、新興のチームにもかかわらず、仕事の成功率が百パーセントのチームメンバーがそういうことを言うと反感を覚える人もいますんでね」
 まだまだだと自分で思っているのは事実だが、確かに失敗していないのは事実なので謙遜することでもない。
 話を聞くと結成後わずかひと月でC級挑戦はあまりないそうであるから、シーマの手腕はよほどの物と思われる。チームのメンバーの力量を把握して達成可能かどうかを見極めているのだ。
 レンザが言うには失敗の違約金でそれなりに儲けている輩もいるとの情報もあるので気を付けるようにとのことだ。
 違約金は仕事の斡旋をしているギルドと受けたチームの折半であることから、職員としてもレンザは注意を促す理由はあるのだ。
 「ありがとうございます」
 リンはそう告げてC級の壁に戻ろうとしたが、思い直してレンザからお勧めの依頼を聞いてみた。いくつか、チームウルマの都合や希望も伝える。
 「こちらの古い方は手を付けない方が良いな。古いということは誰も引き受けない、つまり困難か割に合わないかのどちらかと見ていい。最新の方では、西のクロコ鉱山の採取はC級でも上位だから止めたほうがいい」
 先日、新鋭チームがC級挑戦で初黒星を負ったそうだから、と付け加えた。リンとしてもそのような難しいものでわざわざC級に挑戦したくはない。
 レンザが比較的丁寧に教えてくれるのはありがたい。初めてのC級をリン一人に預けてきた当たり、シーマはかなりの無茶ぶりだ。情報が少しでも多い方が良いのだ。
 「あと気を付けてほしいのはC級から野丁場と呼ばれるものが出てくる。町場しかなかったD級と大きな違いがこれだ。ちなみにA級とB級は野丁場しかないので単独請負はC級が最高位になる」
 野丁場とはチームを編成して第一班、第二班といったように分業して作業をする大規模な仕事とのこと。町場は単独チームで行う依頼だ。
 「今回、チームウルマは町場希望だよね。できれば野丁場が良いと思うんだけど」
 リンは少し考えてみる。仕事の選択は一任されているのでお勧めならば野丁場も検討すべきだと思う。シーマもリンがいろいろ考えることを望んでいるはず。
 「メリットとデメリットを教えてください」
 「メリットは面倒なことは野丁場長チームが全部引き受けてくれること。例えばいろいろな行政手続きとか日程調整とか安全面の調整や、人間関係のトラブル解決までお任せしていい」
 確かにそれは楽だ。
 「デメリットはやはり拘束日数に対して給金が少ないことや、野丁場長チームから抜け出せなくなるってことだ。要するに野丁場長チームもライバルがいて、どちらの仕事も受けるようなことをすると義理に欠けるとみなされるわけだ。それができるのは町場で実績を上げたチームだな」
 なるほどわかりやすい構造だ。シーマがまず町場を選択した理由がわかる気がする。
 町場チームが野丁場チームに行けるが、野丁場チームが町場の仕事を受けに行くのはどうなんだろうか?
 「野丁場長チームからの依頼を別に請け負っている町場の仕事を理由に断ると、冷遇されるから小さいチームではあまりそういうのは聞かない。野丁場長チームから抜け出せなくなる第一要因だね。一般的には大きなチームで分業できるところが町場を受けることになる」
 大きなチームではないのにチームウルマは二手に分かれて分業しているが、それが仕事がハードな理由の一つに違いない。
 野丁場長チームは五つほどあるらしい。たいてい本拠地は王都ベルクラントにあって、支店が各領主の領都にあるようだ。
 「少し考えさせてください」
 レンザにことわり、中央の長椅子のところに移動して考えることにする。
 壁に貼ってある仕事は運搬、建築、狩猟、採取、いろいろある。
 難易度は様々だと思うが、建築や製作、治療などは道具やノウハウがないので除外。狩猟や退治、警備や鉱石採取などは体力仕事なので除外。
 道具を使っての運搬や薬草など軽いものの採取などならオラレと二人で請け負っても行けるだろうと思う。
 シーマやリッカに意見を聞きたいところだが、どうせ二人とも「リンはどうしたいの?」としか答えないだろう。
 期待していてくれるのはわかるが、元の世界ではようやく高校生になったぐらいの自分に全部まかせてもらっても本当に困る。シーマは「早く自分の副官になってほしいから無茶ぶりするけどがんばってね」などと笑顔で言うが、本当に大丈夫なのだろうか。
 「リッカ、聞いている?」
 『もちろんだ』
 シーマの意図は奈辺にあるのか尋ねてみた。
 『本人が言う通りだろう』
 「いやその背景を考えたんだけど、どうしても私が初めてのC級選択を任される理由がわからない」
 右手にこそこそ話しかけるのはもしかして怪しいかと周りを見回しながらリッカの意見を聞いてみる。
 『リン、シーマは元々伯爵の娘だ。つまりそういうこと』
 そういうことと言われても。シーマは現場を知らない無能なトップとかいうわけじゃないから・・・その逆か。
 『そうだ。伯爵側からの視点でA級までの仕事を知っているとみていいだろう。少なくともB級までは自分が出る幕がないと思っている節がある。だからC級程度ならリン、お前が仕切ってできなければならないんだろう』
 なるほど。リッカに言われるまで気が付かなかったが、シーマの無茶ぶりは伯爵令嬢ならではだったとは。珍しく長く話したリッカはまた沈黙した。
 「わかった。町場の採取か運搬で考えてみる」
 レンザの元に行き、ちょうど入ってきたばかりのC級の採取の一覧を見せてもらう。今は朝だが昼になると困難品以外はどれもなくなってしまうそうだ。
 採取の依頼数は四つでそれほど多くないが、出来そうかどうか内容をレンザに聞く。
 「今ここにある依頼はちょうど四方に分かれているので兼務はお勧めできない。まず最も近いのは東の氷魔山脈の山中にある怪鳥ラプタの卵だ。怪鳥ラプタは鷹の仲間で、卵から育てるとなつくから狩猟チームに人気だ。怪鳥ラプタと戦おうなんてしない限り難易度はD級とそれほど変わらないが、卵が壊れやすいから道具が必要なためC級で登録されている。怪鳥の由来は鳥にしては珍しく年中卵を産むからだ。第一人気の依頼だから即決しないとなくなる。次に近いのは西のクロコ鉱山の採取で、良質の鉱石が取れる。これは王都に献上するものであるから、着服などしたら死刑を求刑されるから留意しておいてな。行きと帰りで所持品確認があるからすぐわかるようになっている。あと先ほども言ったようにこれは上級者向けだからな。次は北の烈雪山の昇運月見草で即決品だ。こいつはおそらく一番楽だが、きっかり七日後の昇運祭に間に合うよう持ってこなければならない。昇運月見草は二日で枯れるから早馬が必須だ。最も遠いのは南の海にあるハル島の真珠だがこれは船が必須となる。これも即決品だ」
 即決品とは、今自分が決めないと他の人が持っていく可能性が高い依頼だが、どれも波乱が予想されるような内容である。念のため運搬も聞いてみたが、やはり簡単に済みそうにない。
 「怪鳥ラプタの卵か昇運月見草にしようかと思います」
 拘束日数はどちらも指定がなく、金貨三十枚と金貨三十五枚で昇運月見草が少し多い。
 「ここでは早馬のレンタルをしている。一日金貨一枚だが、飼葉を一日銀二枚消費するから気をつけてな。ところで乗馬は大丈夫か?」
 忘れていたが、リンは馬に乗ったことはない。
 「怪鳥ラプタなら、運搬用器具の設計事務所の予約と器具製作工房の予約が必須だ。運搬用の器具はレンタルが禁止されているからそこは悪く思うな。どうせ持ってないだろ?」
 確かにそうだ。そしてやはり一から手探りでやる何もかも仕事って面倒だ。
 結局怪鳥ラプタの仕事を引き受けることにし、前金として金貨十五枚を受け取ることになった。
 シーマに言われた通りバックアップを断る旨レンザに話すと、ため息をついて「無謀なチームは長生きしないのだが」などとつぶやいて手配をし始めた。
 あとはリンもシーマに報告して仕事を進めるだけである。
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