優しい攻防戦

白川ゆい

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本編

納得

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 学生生活最後の学園祭、受験勉強があるとは言え気合が入っているようで。放課後残って作業する皆を眺めていた。私は元々クラスに溶け込めていなかった上不器用なのでたまに作業に呼ばれる程度。それでも皆が作業しているのに帰る訳にもいかず教室でぼんやりしていた。
 山下は不器用でも、元々人気者だから楽しそうに皆の輪の真ん中にいる。すごいなぁと思う。私ももっとコミュニケーション能力が高ければ友達がいたのだろうか。でも友達がいないことで特に寂しいと思ったことはないから別にいいんだけど。
 不意に校庭に目を向ければ、男子に混じってサッカーする先生がいた。シャツの袖とスラックスを捲り、ネクタイが落ちないようにシャツのポケットに入れて走り回っている。……本当に、悔しいくらいカッコいい。どうしてあんなにカッコいいの。
 彼女と会っているのを見てから、私は先生のところへ行っていなかった。もちろん、学園祭の準備があるからなんだけど。でも今先生に会うと泣いてしまいそうだからちょうどよかった。山下とは変わらず一緒に勉強している。山下の気持ちに応えられないのに一緒にいるのもどうかと思うけれど、友達だからと言われると何も言えなかった。
 不意に、先生が校舎を見上げる。あ、目が合った、ような。まさかね。こんなに教室がある中で私を見つける訳ないよね。

「大橋ー、ジュース買いに行こ」

 その時ちょうど山下が呼びに来て立ち上がった。奢りね、ふざけんな、そっちがふざけんな、お前の奢りだよ、無理30円しか持ってない、はぁ?なんて会話をしていると、全員の視線が私たちに集まっているのに気付いた。

「ねぇ、二人って付き合ってるの?」
「確かに最近ずっと一緒だよね」

 好奇心の中に、明らかに敵意の視線。ああ、山下のこと好きなんだな。すぐにわかった。

「っ、そんなんじゃ」
「違うよー、俺の片想い」

 あっけらかんと答えた山下は先に教室を出る。……やりやがったあの野郎。はぁ、とため息を吐いて好奇心と敵意の視線から逃れるように慌てて教室を出たのだった。

「……ねぇ、いいの」
「んー?」
「だって可愛い子が……」

 あんたのこと、好きみたいなのに。私を睨みつけていた女子の中に学年の中でも相当人気のある女子がいたのを思い出す。どれだけ私を好きでいてくれても、私は先生以外を好きにならない、のに。

「諦められないんだから仕方ないじゃん」
「……」
「納得いくまで好きでいさせてよ」

 ああ、もう。どうしてうまく行かないんだろう。山下を好きになれれば幸せなのに。

「納得いくまで、か」

 私もいつか、そう遠くない未来。先生を諦めないといけない日が来る。それは卒業式かもしれないし、もっと早いかもしれない。それまでに、納得なんてできるのだろうか。

「……馬鹿だよね、山下って」
「お前もな」

 カラッと笑った山下は、驚くほど魅力的なのに。
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