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第1章
二度目の恋の終わり
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「……ヨリ、」
月曜日、立花は快復したようでうちの会社にまた来ていた。しかも商談でなく仕事が終わってから。ビルを出たところで待っていたから隠れようとしたけれど見つかってしまった。立花はすぐに追いかけてきて、私の手を掴んだ。
「ヨリ、この前はごめん。俺……」
「立花、もう聞いたと思うけど寧々ちゃんと吉岡別れたらしいよ」
「……え……」
「笑ってたけど辛そうだったからそばにいてあげたほうがいいと思う」
寧々ちゃんは言ってた。寧々ちゃんが泣いた時、立花がそばにいてくれたって。報われない気持ちを抱えたまま一緒にいるのは辛かっただろう。でも、もう報われるかもしれない。もう立花が我慢する必要もない。
「ヨリ」
手を引かれて、急に距離が近くなった。
「どうして泣くの」
「っ、泣いてない……っ」
「ヨリ、俺はヨリと一緒にいたいよ」
立花が分からない。どうしてそんなことばかり言うの?好きでもないのに、どうしてそんなことばかり……
ふとそこで思った。もし、もし立花が寧々ちゃんを好きだっていうのが私の勘違いだったら。立花が、私を好きだと本当に思ってくれているのなら。立花の真意が知りたくて探るように目を見つめる。立花はん?と微笑んで私を見つめ返す。……ああ、とても幸せかもしれない。本当に、本当に……
その時だった。二人の世界を切り裂くように電話が鳴った。
「……鳴ってる」
「別にいい」
「よくない」
「……はぁ。すぐ終わらせるから」
立花は画面を見て驚いたように目を丸くして、電話に出た。
『日向……っ』
電話の向こうから微かに聞こえた声。それは寧々ちゃんの声だった。泣いていた。立花の顔が切なげに歪む。……ああ、やっぱりか。
「寧々、今ごめん」
「立花、行ってあげなよ」
立花が私を見る。本当は行かないでほしい。お願いだから、そばにいてほしい。素直になるから。立花に触れられるの、嫌だなんて思ったことないよ、本当は。だから……
「……ごめん、すぐヨリに会いに行くから」
心の中は絶望でいっぱいだったけど、私は笑った。
「せめて送らせて。寧々すぐ自殺未遂とかするからすぐ行かないとだけど……」
「平気。寧々ちゃんのところ行ってあげて」
今まで通り。寧々ちゃんが泣いている時、そばにいてあげて。私は大丈夫だから。立花は泣きそうな顔で私の手を離した。
「……ごめん」
走って行く背中を見ながら、私は唇を噛んだ。……これでいいんだ。これでいい。
***
「依子ー、あんたお客さんじゃないんだからねー」
「はいはい分かってますよ」
週末、私は実家に帰ってきていた。あれから立花から何回も連絡が来たけれど返していない。もう会うのやめるって決めたから。番号変えようかな。さすがに着信拒否はやりすぎな気がするし。
家事の手伝いをした後、天気が良かったから散歩でもしようと実家を出た。ぼんやりと色々考えながら歩いていると、いつの間にか高校に着いていた。懐かしいなぁ……
「あっ!早坂!」
「……げ!」
「オイコラ待て逃げんな!!」
そして後悔する。たまたま来ていたらしい一条に捕まったから。
「何してんの?!」
「お前は」
「私は散歩!」
「文也の失恋旅行だよ」
あ……ほんとに別れたんだ……。て、ていうことはまさか立花もいる?!私の手を掴んでズンズン歩く一条の手を離そうと試みるけれど全く無意味だった。実家に帰ってきた意味ない!リフレッシュしに来たのに!
「い、一条私……」
「何かコイツもいたから連れて来た」
運動場を見下ろせる階段。そこにいた三人は同時に振り向いた。一番最初に反応したのは、もちろん立花で。
「ヨリ……」
私は一条の手を振り切って逃げ出した。
「ヨリ!ヨリ、ヨリ待って」
後ろから追いかけてきた立花に捕まったのは体育館裏だった。忘れもしない。前に立花に振られた場所だ。あの時も確か、私じゃなく寧々ちゃんを立花が選んで、しかも私が「行って」って言った。
「ヨリは俺のこと好きじゃないの?」
高校生の立花が今の立花と重なる。
「ヨリの考えてることが分からない」
そう言ったのは、あの頃の立花?それとも、今の立花?
「私が考えてるのはね、ずっと……」
「え?」
「立花に幸せになってほしい、それだけだよ」
本当に好きな人のそばで笑っていてほしい。立花の辛い恋が報われてほしい。本当は、そばにいてほしいけど。無理してそばにいてくれるんじゃ意味がない。
「俺は……、俺は、俺なりに、ヨリのこと好きだったよ、すごく」
全部、全部過去になる。火傷もいつかは治る。時間が解決してくれる。
「……立花、私言ったことなかったね」
付き合ってる時も、再会してからも。私は逃げてばかりだった。でも、今日で終わりだから。最後に見せる顔が泣いてる顔なんて、嫌だから。
「……好き。誰よりも。本当は、一番近くにいたかった」
だから、さよなら。
緩くなった立花の手を振りほどいた。ヒリヒリとして痛い胸を押さえて、私は無理やり前を向いた。立花が幸せになれますように。それだけが私の願いだ。
月曜日、立花は快復したようでうちの会社にまた来ていた。しかも商談でなく仕事が終わってから。ビルを出たところで待っていたから隠れようとしたけれど見つかってしまった。立花はすぐに追いかけてきて、私の手を掴んだ。
「ヨリ、この前はごめん。俺……」
「立花、もう聞いたと思うけど寧々ちゃんと吉岡別れたらしいよ」
「……え……」
「笑ってたけど辛そうだったからそばにいてあげたほうがいいと思う」
寧々ちゃんは言ってた。寧々ちゃんが泣いた時、立花がそばにいてくれたって。報われない気持ちを抱えたまま一緒にいるのは辛かっただろう。でも、もう報われるかもしれない。もう立花が我慢する必要もない。
「ヨリ」
手を引かれて、急に距離が近くなった。
「どうして泣くの」
「っ、泣いてない……っ」
「ヨリ、俺はヨリと一緒にいたいよ」
立花が分からない。どうしてそんなことばかり言うの?好きでもないのに、どうしてそんなことばかり……
ふとそこで思った。もし、もし立花が寧々ちゃんを好きだっていうのが私の勘違いだったら。立花が、私を好きだと本当に思ってくれているのなら。立花の真意が知りたくて探るように目を見つめる。立花はん?と微笑んで私を見つめ返す。……ああ、とても幸せかもしれない。本当に、本当に……
その時だった。二人の世界を切り裂くように電話が鳴った。
「……鳴ってる」
「別にいい」
「よくない」
「……はぁ。すぐ終わらせるから」
立花は画面を見て驚いたように目を丸くして、電話に出た。
『日向……っ』
電話の向こうから微かに聞こえた声。それは寧々ちゃんの声だった。泣いていた。立花の顔が切なげに歪む。……ああ、やっぱりか。
「寧々、今ごめん」
「立花、行ってあげなよ」
立花が私を見る。本当は行かないでほしい。お願いだから、そばにいてほしい。素直になるから。立花に触れられるの、嫌だなんて思ったことないよ、本当は。だから……
「……ごめん、すぐヨリに会いに行くから」
心の中は絶望でいっぱいだったけど、私は笑った。
「せめて送らせて。寧々すぐ自殺未遂とかするからすぐ行かないとだけど……」
「平気。寧々ちゃんのところ行ってあげて」
今まで通り。寧々ちゃんが泣いている時、そばにいてあげて。私は大丈夫だから。立花は泣きそうな顔で私の手を離した。
「……ごめん」
走って行く背中を見ながら、私は唇を噛んだ。……これでいいんだ。これでいい。
***
「依子ー、あんたお客さんじゃないんだからねー」
「はいはい分かってますよ」
週末、私は実家に帰ってきていた。あれから立花から何回も連絡が来たけれど返していない。もう会うのやめるって決めたから。番号変えようかな。さすがに着信拒否はやりすぎな気がするし。
家事の手伝いをした後、天気が良かったから散歩でもしようと実家を出た。ぼんやりと色々考えながら歩いていると、いつの間にか高校に着いていた。懐かしいなぁ……
「あっ!早坂!」
「……げ!」
「オイコラ待て逃げんな!!」
そして後悔する。たまたま来ていたらしい一条に捕まったから。
「何してんの?!」
「お前は」
「私は散歩!」
「文也の失恋旅行だよ」
あ……ほんとに別れたんだ……。て、ていうことはまさか立花もいる?!私の手を掴んでズンズン歩く一条の手を離そうと試みるけれど全く無意味だった。実家に帰ってきた意味ない!リフレッシュしに来たのに!
「い、一条私……」
「何かコイツもいたから連れて来た」
運動場を見下ろせる階段。そこにいた三人は同時に振り向いた。一番最初に反応したのは、もちろん立花で。
「ヨリ……」
私は一条の手を振り切って逃げ出した。
「ヨリ!ヨリ、ヨリ待って」
後ろから追いかけてきた立花に捕まったのは体育館裏だった。忘れもしない。前に立花に振られた場所だ。あの時も確か、私じゃなく寧々ちゃんを立花が選んで、しかも私が「行って」って言った。
「ヨリは俺のこと好きじゃないの?」
高校生の立花が今の立花と重なる。
「ヨリの考えてることが分からない」
そう言ったのは、あの頃の立花?それとも、今の立花?
「私が考えてるのはね、ずっと……」
「え?」
「立花に幸せになってほしい、それだけだよ」
本当に好きな人のそばで笑っていてほしい。立花の辛い恋が報われてほしい。本当は、そばにいてほしいけど。無理してそばにいてくれるんじゃ意味がない。
「俺は……、俺は、俺なりに、ヨリのこと好きだったよ、すごく」
全部、全部過去になる。火傷もいつかは治る。時間が解決してくれる。
「……立花、私言ったことなかったね」
付き合ってる時も、再会してからも。私は逃げてばかりだった。でも、今日で終わりだから。最後に見せる顔が泣いてる顔なんて、嫌だから。
「……好き。誰よりも。本当は、一番近くにいたかった」
だから、さよなら。
緩くなった立花の手を振りほどいた。ヒリヒリとして痛い胸を押さえて、私は無理やり前を向いた。立花が幸せになれますように。それだけが私の願いだ。
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