黄昏一番星

更科二八

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1章 呪いの女

230話 もしもの時の

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中断してしまった氣の鍛錬を再開しようと思ったら、エドガーがベッドから離れて荷物を漁りに行った。

「本当は昨日準備しとくつもりだったんだけど寝ちまったからさ。タイガに渡しておきたいものがあるんだ」

そう言って荷物の中からエドガーは木の筒とナイフを取り出した。

「嫌だ」

エドガーの準備に察しがついてしまった。
その気持ちもさっきの会話で充分に理解できる。
嬉しいと思うのだが嫌だ。

「もしも、タイガにもしもの事があればこれしかないだろ。俺がついていけないから貰ってくれ」
「エドガー、止めてくれ」

エドガーは俺の制止の言葉を聞かず筒の蓋を開けて、ナイフの鞘を外した。
俺はエドガーを威圧する。

「ダメだ、もしもそれを飲んでしまったら俺はエドガーを食ってしまうかもしれない。確実に長い間会えなくなる。そんな事はしたくない」
「何もなかったら使わなければいいんだし、でも本当にもしもの時に俺が助けるためにはこれしかないんだ。それに前は克服できたんだろ!」

俺の威圧を受けながらもエドガーの意志は揺るがず、自身の手をナイフで大きく切り裂いた。
すかさず傷に治癒魔法を飛ばして癒す。

「タイガ!止めろ!」

エドガーは再び手を切り裂く。
「何度もこれするの勇気いるんだ、やめてくれ!」

今度はエドガーが俺を威圧する。
かなりの気迫に俺の心が揺れる。
初めて見せたエドガーの本気の抵抗に心が痛む。
エドガーに俺の事を語った事を後悔した。
俺が純粋な鬼の魔物と言ったがためにエドガーが血を流す事になってしまった。
俺がエドガーには知ってもらいたいと思ったせいで傷つけてしまった事が心にのしかかる。
でも力ずくで止めるのもしたくなかった。
完全にエドガーの想いを拒絶したと思われるのが嫌だった。

エドガーに痛みを軽減する魔法を飛ばす。
「ごめんな、俺が鬼だからこんな痛い思いをさせてしまった」
「俺はできる事があって嬉しいんだぜ。
タイガは鬼族じゃないとタイガじゃない。
それにタイガが強いのはよく知ってる。
もしもこれを飲んだとしても、きっと魔物なんかにはならない。そう思えるから渡すんだ」

俺の心がエドガーの想いを受けてまた氣が轟々と音を立てるが如く溢れる
胸が苦しくなる。
それでも嬉しさがとどまらない。
エドガーに励まされる日が来るなんて。

「これ、中々たまらないな。もうちょい切った方がいいか」

痛みの軽減をしている事をいい事にエドガーは更に手を切り刻み出した。

「お、おい!自分を大事にしてくれ!俺だってエドガーが大事なんだ!」
「へへへ、タイガは人の事言えないだろ。
後でちゃんと治してくれよ」
「言われなくても」

エドガーに治癒魔法を最大出力でかけて傷を跡形も無く癒す。

「まだそんなに溜まってないぞ!」
「もうそれだけで勘弁してくれ。それで充分だ」

木の筒の中にはどれだけの血が溜まっているのかわからないが、少しでも血を飲めば俺の鬼の魔物としての力は目覚めて致命傷だろうがすぐに癒えると思う。
自分の体の事だから感覚でわかる。

「じゃあ、これ持ってってくれよ」

筒の蓋を閉めるとエドガーは俺のバッグを開き血の入った筒を突っ込んだ。

「すまないエドガー、本当にありがとう」

心の機微がダイレクトに意識に伝わってしまい、まるで感情の制御ができやしない。
エドガーへのさまざまな想いや嬉しさや不甲斐なさでもうめちゃくちゃだ。
こんな状況でこれからやっていけるのか。
仕組みが変わってしまった心と意識に慣れるのにはしばらくかかりそうだ。
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