【SF×BL】碧の世界線 

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第三章

31. 合流

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「早くみんな入って!」
「僕も行く」
「民間人はダメだ」
「でも僕は強いよ。仲間を助けたいなら僕の力はあった方が良い」

冷静に考えて、いや冷静に考えなくてもユーリの力があれば心強い。だが山さんはDの力を見たことがある。連れていったことでユーリがDだとバレてしまったら……。答えに迷っている場合じゃないと分かりながらも樹は答えに窮していた。

「僕のことは気にしなくていい」

樹を見つめるユーリの目が頑なな意志を覗かせる。先ほど見た樹の危うい場面がユーリの血を滾らせていた。

 霧島が消えた方角と先ほど聞こえてきた山口が戦う音からおおよその位置を割り出して追いかける。たどり着いた場所で見たのは十数人の受刑者に囲まれる山口たちだった。

「山さ」

ユーリが樹の口を手で塞ぎ、壁の裏に隠れる。

「気付かれない方が有利でしょ」


 
 その男は山口たちを囲む敵の中から悠々と前に出てきた。アッシュブラウンの髪の毛、薄く色のついたサングラス、立ち昇る気配が只者ではないと言っている。

「あいつ、来てないんだ? 加賀美」

まるで知り合いのような言葉。その言葉に呟いたのは如月だ。

「相川……相川悟か」
「よくご存じで。そんなことより加賀美も小暮も来てないの?」

「君がここにいるってことは、この騒ぎはリステアの仕業か」
「どうだろうね」

相川は首を傾けると「加賀美も小暮もいなそうだな」と言った。

「奴らがいないなら俺はいいや。後はお好きにどうぞ」

「どうぞってこのまま逃がすわけがないだろ!」

「逃がさないってどうやって? この状況がよく分かってねぇんじゃねーの?」

 悟の言葉を合図にしたかのように山口たちを囲む敵の輪がじりっと小さくなる。一触即発とはまさにこのことだった。皆が何かしらのきっかけを探している。

「タツキ、その吹くやつでここから命中させられるか?」

「ユーリが手伝ってくれるならいけると思う」

「人が急に倒れれば皆の注意が反れる。彼らならきっとその隙を活かせるだろう」

会話が聞こえた霧島が少し頭を下げた。了解した、の意味だろう。低い位置から狙えというユーリのジェスチャーに樹は頷いた。

 麻酔を仕込んだ矢をセットする。吹き矢を伸ばして最長モードにし、しゃがんだユーリの肩に吹き矢の先端を乗せた。狙うは敵の腹だ。吸い込んだ空気は若干冷たく、気道を通っていく様がリアルに感じられた。片目を閉じて狙いを定め、一気に噴き出す。僅かな音をたてたと思った次の瞬間、樹たちから一番近い所にいた受刑者の1人が崩れた。皆の視線が崩れた受刑者に注がれた瞬間、霧島は倒れた男の隣にいた女性に麻酔薬を突き刺した。戦いの幕開けだった。

「上出来だ。タツキ、君は離れた所から援護して」

ユーリが躊躇いもなく突っ込んでいく。少し離れた所で振り返った相川がへぇ、と口を歪めた。

 樹は立てた膝の中央に先端を置いて皆の動きを見ていた。先ほどまで最長(90㎝)の長さになっていた吹き矢は今、3分の1程度の長さにしている。威力は落ちるが吹き矢を持つ手の安定が取れるからだ。

くそっ、人が入り乱れて狙いを定めにくい。

口の中が渇いていく気がして樹は唇を舐めた。サメのような口をした女が霧島に襲い掛かる。霧島は器用にも、守棒を口の中に立てて咬ませ相手の腹を蹴っ飛ばした。霧島は守棒を離さないように指に力を込めたが、歯に引っかかり体が流れた。体勢を崩した霧島を敵が見逃す訳はなく3人の敵が攻撃の初動をとる。

茜さん!!

狙いの定まらない吹き矢を手に樹が祈りを抱いた瞬間、敵の1人がもう一人を突き飛ばしながら吹っ飛んだ。ユーリだ。ユーリは霧島の背中を守る様に立ち、ほんのりと笑みさえ零していた。

ユーリが笑ってる……

驚きに顔を上げそうになり、樹ははっと気を引き締めた。
いけない、俺もしっかりしないと。

 仲間を打つリスクは最小限にしなくてはならない。となれば、矢の軌道に仲間が入らないようにすればよい。仲間から離れていて動きが緩慢な者。先ほど霧島に蹴られて壁に背中を打ち付けた女性に向かって樹は矢を吹いた。

ユーリのように直接仲間を助けなくても、ダメージを受けた敵を確実に戦闘不能にすることで仲間の負担は減るはずだ。

山口は体術と小さな火を駆使し、ユーリの発、如月と霧島の共同戦線に樹の止め、敵の数は確実に減っていった。

「あれだけいたのにもう4人。ここらで降伏した方が身の為だと思うけどなぁっ」

体内にあったアルコールを放出したせいですっかり男らしくなった山口が叫ぶ。強気だった敵は今や余裕のない表情をしていた。

「それはどうかなぁ。せいぜい今のうちに余裕かましとくんだな」

眉毛にピアス、頬から首にかけて蛇とも龍ともつかない生き物の入れ墨を彫った男が山口を睨んだ。口の端から流れた血を袖で拭う。

「そうか。じゃあ力づくでいくしかないな」
「ちょっと待って」

体勢を低くした山口をユーリが手で制した。二人とも視線は敵を見据えたままだ。

「彼にもN+があるはずなのに彼はまだ一度もその能力を使ってはいない。安易に突っ込むのはよした方が良い」


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