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アンダルシュ企画
お月見
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「なぁ、佐倉。今晩さ、お月見しない?」
「お月見? あぁ、中秋の名月って今日か。いいよ、どこでする?」
「佐倉のマンションの屋上がいいな。綺麗に見えそうだし」
「わかった。適当に料理作っておくよ」
「うん、お酒とお団子は任せて」
じゃあ後で、と手を上げて授業に戻る佐倉に返事をして僕も授業に戻った。実は今日のお月見には密かな企みがある。先日、佐倉の友達でもある壮太君と話をしていた時のことだった。
「高橋くんはさー、佐倉が酔っぱらったとこ見たことある?」
「いや、ないかな。一緒に飲むことはあるけど、僕の方が先に酔っちゃうから」
「ぷぷっ、高橋君はお酒弱そうだもんね。その点、佐倉は酒強くて、俺たちと飲んでてもいっつも介抱する側だもんなー。でもさ俺、一回だけ佐倉が酔っぱらったところ見たことあるんだ。確か、去年の芸術祭の後だったと思う。あれはヤバイよ。あんなの見たら、そりゃあ女の子が放っておかないわ。俺だって危うくキュンとくるとこだった」
「へぇ、どうなるの?」
「ん~、それは……」
颯太君は僕をチラッと見てから、内緒にしとく、と言った。僕と佐倉が付き合っているという事を知っている人は早瀬しかいない。皆の中で僕は佐倉とわりと仲の良い友達という認識だと思う。わりと仲の良い友達だから内緒なのだろうか。壮太君が僕に内緒にする佐倉の酔っ払い姿、というのが気になった。
夕方まで制作室で絵を描いて空が薄暗くなってきた頃、僕はいつもよりはだいぶ多い量のお酒とスーパーで買った月見団子を持って佐倉のマンションを訪ねた。
「おぉー、酒、たくさん買ってきたなぁ。渉、すぐ酔っぱらうくせに」
「これは佐倉用。いつも僕が先に酔っぱらって介抱してもらうからさ。たまには佐倉もゆっくり飲みたいんじゃないかと思って」
「へぇ、ありがと」
佐倉はふふっと微笑むと僕のほっぺにキスをした。
その日、佐倉が作ったのは木の大きなお更に盛り付けたワンプレートだ。3口で食べられそうな小さなおにぎりが3個、豚しゃぶサラダに軟骨のから揚げとポテトフライと枝豆。
「凄い、こんなに?」
「全然凄くないよ。ポテトフライと枝豆は冷凍食品だし、豚しゃぶは豚肉を茹でて野菜の上に置いただけだし」
「それでも凄いよ。ありがとな、いつも」
「卒業したら一緒に暮らす気になった?」
「……考えとく」
「まだ渉の胃袋を掴み切れてないか」
「ぷっ、何それ」
「胃袋掴んだら帰ってくるっていうからさ。渉が俺のところに帰ってきたくなるようにしてんの」
「……なるほど」
佐倉は付き合うようになってからというものの、好意を真っ直ぐに伝えてくるようになった。好きだと言葉にするのは勿論のこと、一緒に暮らしたいもそうだし、二人になると何かを確かめるように僕に触れてくる。その度に僕は自分が佐倉に好かれているのだということを認識するのだ。
「はい、渉はこっちのプレートを持って。お酒は俺が持つから団子は渉ね」
手が足りなくて、グラスは団子の袋にそっと入れて屋上へと運んだ。
「うわー、月が鮮やかっ」
屋上はぐるっとフェンスで囲まれており、僕らは真ん中に直に座った。横に並んで座り、食べ物の真ん中には団子を置く。
「お酒、色々買ってきてくれたけど、お月見と言えば日本酒かな」
小さめのグラスに日本酒を入れて二人で乾杯した。
「えー、ご飯、ありがとうございます!」
佐倉が月を見上げて頭を下げる。
「え? そこなの?」
「本当は作物の収穫に感謝、とかなんだけど農家でもないし、なんか遠いかなって。だから、育てててくれている人と、実りの大地に感謝って思うと」
「なるほど、ご飯、ありがとうになるわけだ」
「そ」
「佐倉らしいな」
日本酒を口に含むと、酒に触れた部分から熱くなる。ピリピリとした舌先を慰めるようにおにぎりを頬張るとしその香りが口の中に広がった。
「美味しい」
「よかった」
佐倉が笑う。風が佐倉の髪の毛を撫でて髪の毛が乱れる。
「月ってなんか、あんまり綺麗だと恐くなるよな」
「どうして? 僕はただ綺麗だなって思うけど」
「だってほら、狼男は満月で変身するし、月は人を狂わすなんて言われたりもするじゃん」
「ぷっ、佐倉って意外とそういうの信じるタイプなの?」
「信じるって程でもないけど、否定は出来ないような気がする」
佐倉が僕との距離を少し詰めて肩が触れる。
「もっと飲む?」
「あ、うん。もしさ、もし俺が狼男に変身して噛みついたらどうする?」
「あー、どうしようかな。佐倉にだったら食べられてもいいかも。食べられてから呪い殺す」
「ええっ」
「だって、月が隠れて正気に戻ったら佐倉は自分を責めるだろ。自分を責め続けて生きるより、僕が呪い殺した方が佐倉は喜びそう」
「はっ、ははははは。確かに」
佐倉はお腹を抱えて笑いながら納得したようだ。
佐倉のグラスにお酒を注ぐ。
「俺、やっぱり渉、好きだな」
「やっぱりって何だよ、やっぱりって」
「んー、再確認したとこ」
いつの間にか日本酒が一本空いて酔いが回ってきたのか佐倉は随分とご機嫌だ。目もとろんとして据わってきている。
「酔った?」
「ん~、どうかな。でも気持ちいい。渉から誘ってくれるのって珍しいから浮かれてるのかも」
佐倉が僕の肩に頭を乗せた。首を傾けて佐倉を見ると、無防備に少し開いた唇が目に付く。ふと唇に触れると佐倉は蕩けた目のまま僕をぼんやりと見つめた。体を少し佐倉の方へ向けて親指で唇を押すと佐倉の舌が僕の指に触れる。
「あ……ゆ、む」
佐倉の息が熱い。
あいつ、酔っぱらうとやばいよ。
壮太君の言葉が蘇る。
何これ。こんなにふにゃふにゃになるの?
親指を少しだけ口の中に挿入すると、佐倉の目が濡れる。僕の中の赤がゴクリと喉を鳴らした。
絵を制作している期間はセックスをしない。そう決めているのに流されてしまいそうだ。佐倉の口から指を引っこ抜くと、名残惜しそうに佐倉が唇を舐めた。
「団子、食べたい」
「あ、あぁ、団子ね」
ピンポン玉くらいの大きさの団子。こんなに酔っぱらっている佐倉にこのまま渡していいものかと悩む。うっかり喉に詰まらせるなんてことになったら……。
「酔っぱらってるみたいだから、半分な。今、切るからちょっと待って」
そう言いながら僕が箸で団子と格闘していると佐倉が手で団子をつまんでヒョイと唇で咥えた。
「あっ、だから危ないって」
佐倉は唇で咥えた団子をあむぅとさせながら僕を見ている。キスでもするように顔を少し突き出しておねだりでもしているみたいだ。
「……ったく、佐倉って酔っぱらうと甘えるんだな」
僕は佐倉の唇に唇をくっつけて、団子を半分だけ噛みちぎった。中のあんこがはみ出して唇が甘くなる。佐倉は僕の唇を舐めると「これ旨いな」と言った。
「あゆむ、もっと」
力なく蕩けた目、体温が上がって赤みを増した唇。もっと、とねだる声が少しの掠れを帯びる。
確かにこれはヤバイ。
団子を咥えた佐倉が僕を押し倒す。バッグには綺麗な月。
「食うの?」
「……ふぉれを?」
体を起こして佐倉の後頭部に手を置いた。そのまま唇をくっつけて団子を半分かじる。
「僕を」
佐倉がそのまま僕に体を預けて「うー」と鳴いた。
「お月見? あぁ、中秋の名月って今日か。いいよ、どこでする?」
「佐倉のマンションの屋上がいいな。綺麗に見えそうだし」
「わかった。適当に料理作っておくよ」
「うん、お酒とお団子は任せて」
じゃあ後で、と手を上げて授業に戻る佐倉に返事をして僕も授業に戻った。実は今日のお月見には密かな企みがある。先日、佐倉の友達でもある壮太君と話をしていた時のことだった。
「高橋くんはさー、佐倉が酔っぱらったとこ見たことある?」
「いや、ないかな。一緒に飲むことはあるけど、僕の方が先に酔っちゃうから」
「ぷぷっ、高橋君はお酒弱そうだもんね。その点、佐倉は酒強くて、俺たちと飲んでてもいっつも介抱する側だもんなー。でもさ俺、一回だけ佐倉が酔っぱらったところ見たことあるんだ。確か、去年の芸術祭の後だったと思う。あれはヤバイよ。あんなの見たら、そりゃあ女の子が放っておかないわ。俺だって危うくキュンとくるとこだった」
「へぇ、どうなるの?」
「ん~、それは……」
颯太君は僕をチラッと見てから、内緒にしとく、と言った。僕と佐倉が付き合っているという事を知っている人は早瀬しかいない。皆の中で僕は佐倉とわりと仲の良い友達という認識だと思う。わりと仲の良い友達だから内緒なのだろうか。壮太君が僕に内緒にする佐倉の酔っ払い姿、というのが気になった。
夕方まで制作室で絵を描いて空が薄暗くなってきた頃、僕はいつもよりはだいぶ多い量のお酒とスーパーで買った月見団子を持って佐倉のマンションを訪ねた。
「おぉー、酒、たくさん買ってきたなぁ。渉、すぐ酔っぱらうくせに」
「これは佐倉用。いつも僕が先に酔っぱらって介抱してもらうからさ。たまには佐倉もゆっくり飲みたいんじゃないかと思って」
「へぇ、ありがと」
佐倉はふふっと微笑むと僕のほっぺにキスをした。
その日、佐倉が作ったのは木の大きなお更に盛り付けたワンプレートだ。3口で食べられそうな小さなおにぎりが3個、豚しゃぶサラダに軟骨のから揚げとポテトフライと枝豆。
「凄い、こんなに?」
「全然凄くないよ。ポテトフライと枝豆は冷凍食品だし、豚しゃぶは豚肉を茹でて野菜の上に置いただけだし」
「それでも凄いよ。ありがとな、いつも」
「卒業したら一緒に暮らす気になった?」
「……考えとく」
「まだ渉の胃袋を掴み切れてないか」
「ぷっ、何それ」
「胃袋掴んだら帰ってくるっていうからさ。渉が俺のところに帰ってきたくなるようにしてんの」
「……なるほど」
佐倉は付き合うようになってからというものの、好意を真っ直ぐに伝えてくるようになった。好きだと言葉にするのは勿論のこと、一緒に暮らしたいもそうだし、二人になると何かを確かめるように僕に触れてくる。その度に僕は自分が佐倉に好かれているのだということを認識するのだ。
「はい、渉はこっちのプレートを持って。お酒は俺が持つから団子は渉ね」
手が足りなくて、グラスは団子の袋にそっと入れて屋上へと運んだ。
「うわー、月が鮮やかっ」
屋上はぐるっとフェンスで囲まれており、僕らは真ん中に直に座った。横に並んで座り、食べ物の真ん中には団子を置く。
「お酒、色々買ってきてくれたけど、お月見と言えば日本酒かな」
小さめのグラスに日本酒を入れて二人で乾杯した。
「えー、ご飯、ありがとうございます!」
佐倉が月を見上げて頭を下げる。
「え? そこなの?」
「本当は作物の収穫に感謝、とかなんだけど農家でもないし、なんか遠いかなって。だから、育てててくれている人と、実りの大地に感謝って思うと」
「なるほど、ご飯、ありがとうになるわけだ」
「そ」
「佐倉らしいな」
日本酒を口に含むと、酒に触れた部分から熱くなる。ピリピリとした舌先を慰めるようにおにぎりを頬張るとしその香りが口の中に広がった。
「美味しい」
「よかった」
佐倉が笑う。風が佐倉の髪の毛を撫でて髪の毛が乱れる。
「月ってなんか、あんまり綺麗だと恐くなるよな」
「どうして? 僕はただ綺麗だなって思うけど」
「だってほら、狼男は満月で変身するし、月は人を狂わすなんて言われたりもするじゃん」
「ぷっ、佐倉って意外とそういうの信じるタイプなの?」
「信じるって程でもないけど、否定は出来ないような気がする」
佐倉が僕との距離を少し詰めて肩が触れる。
「もっと飲む?」
「あ、うん。もしさ、もし俺が狼男に変身して噛みついたらどうする?」
「あー、どうしようかな。佐倉にだったら食べられてもいいかも。食べられてから呪い殺す」
「ええっ」
「だって、月が隠れて正気に戻ったら佐倉は自分を責めるだろ。自分を責め続けて生きるより、僕が呪い殺した方が佐倉は喜びそう」
「はっ、ははははは。確かに」
佐倉はお腹を抱えて笑いながら納得したようだ。
佐倉のグラスにお酒を注ぐ。
「俺、やっぱり渉、好きだな」
「やっぱりって何だよ、やっぱりって」
「んー、再確認したとこ」
いつの間にか日本酒が一本空いて酔いが回ってきたのか佐倉は随分とご機嫌だ。目もとろんとして据わってきている。
「酔った?」
「ん~、どうかな。でも気持ちいい。渉から誘ってくれるのって珍しいから浮かれてるのかも」
佐倉が僕の肩に頭を乗せた。首を傾けて佐倉を見ると、無防備に少し開いた唇が目に付く。ふと唇に触れると佐倉は蕩けた目のまま僕をぼんやりと見つめた。体を少し佐倉の方へ向けて親指で唇を押すと佐倉の舌が僕の指に触れる。
「あ……ゆ、む」
佐倉の息が熱い。
あいつ、酔っぱらうとやばいよ。
壮太君の言葉が蘇る。
何これ。こんなにふにゃふにゃになるの?
親指を少しだけ口の中に挿入すると、佐倉の目が濡れる。僕の中の赤がゴクリと喉を鳴らした。
絵を制作している期間はセックスをしない。そう決めているのに流されてしまいそうだ。佐倉の口から指を引っこ抜くと、名残惜しそうに佐倉が唇を舐めた。
「団子、食べたい」
「あ、あぁ、団子ね」
ピンポン玉くらいの大きさの団子。こんなに酔っぱらっている佐倉にこのまま渡していいものかと悩む。うっかり喉に詰まらせるなんてことになったら……。
「酔っぱらってるみたいだから、半分な。今、切るからちょっと待って」
そう言いながら僕が箸で団子と格闘していると佐倉が手で団子をつまんでヒョイと唇で咥えた。
「あっ、だから危ないって」
佐倉は唇で咥えた団子をあむぅとさせながら僕を見ている。キスでもするように顔を少し突き出しておねだりでもしているみたいだ。
「……ったく、佐倉って酔っぱらうと甘えるんだな」
僕は佐倉の唇に唇をくっつけて、団子を半分だけ噛みちぎった。中のあんこがはみ出して唇が甘くなる。佐倉は僕の唇を舐めると「これ旨いな」と言った。
「あゆむ、もっと」
力なく蕩けた目、体温が上がって赤みを増した唇。もっと、とねだる声が少しの掠れを帯びる。
確かにこれはヤバイ。
団子を咥えた佐倉が僕を押し倒す。バッグには綺麗な月。
「食うの?」
「……ふぉれを?」
体を起こして佐倉の後頭部に手を置いた。そのまま唇をくっつけて団子を半分かじる。
「僕を」
佐倉がそのまま僕に体を預けて「うー」と鳴いた。
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