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第十話【差し入れレアチーズムース】報告と告白はきっちりと!?

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(来年、か……)

怜は声に出さず独り言ちる。

(来年の今頃―――ミネはまだここに居るのだろうか……)

何も聞いていない、聞かない。けれど、知りたくないわけではない。
一応恋人という肩書は得ているものの、一歩踏み込むにはまだ決定的な何かが足りない。

(せめてミネの気持ちがもっと俺に向いてくれたら……)

好かれているのは分かっている。けれどそれが、【ラプワール】のマスターへの好意と違うかと問われれば、違うと言い切れる自信はない。比べる相手として間違っているかもしれないが、今のところ血の繋がらない異性と言えば彼しか思い当たらないのだ。

少なくとも彼よりは好かれていると思いたい。妙に対抗意識を持ってしまうのは、事あるごとに大人の余裕を見せつけられるせいかもしれない。

だからだろうか。キッチンで『大好き』と言われた時、これまで感じたことのない喜びが沸き上がった。
と同時に、そんな自分にも驚く。

誰かに嫉妬したり対抗意識を持ったりすることも、『大好き』という一言がこんなにも嬉しいことも。こんなふうに余裕のない自分は初めてで、自分でも戸惑ってしまうこともあるが、そんな自分も嫌いではない。

自分を変えることも厭わないほど、愛おしいと思える相手に出会えた。ただそれだけ。

熱いシャワーを頭から浴びると、汗と一緒に頭の中にまとわりついている何かが流れていくような気がした。


***


「これを美寧が作ったのか?」

保冷バッグを開いて中を見せると、マスターは目を丸くして驚いた。

「はい。れいちゃんと一緒に、ですけど」

頷きながらはにかむと、マスターは受け取った袋の中から一つを取り出して目の高さでクルリとそれを回した。

「うまそうだな」

マスターが掴んでいるのは、昨夜美寧が怜と作った塩レモンレアチーズムース。
怜が風呂から上がり、夜のお茶タイムが終わった後、仕上げに取り掛かった。

最初に作ったムースの上から、ゼリーの部分をざっくりと砕いて乗せる。そしてその上に塩レモンピールと、庭の隅に植えてあるミントを摘んで飾った。
差し入れ分は蓋のある小ぶりな瓶に詰めたから、少しくらい揺られても漏れたり崩れたりする心配はない。

「良かったらお嬢さんのところへ一緒に持って行ってもらえますか?」

「娘の?」

「はい」

手に持った瓶と美寧の間を視線で往復したマスターは、軽く目を見張ってからその目を柔らかく細めた。目じりに出来る皺がどこかチャーミングだ。

「ありがとな。杏奈あんなも絶対喜ぶ」

礼を言われた美寧は、「はい」と満面の笑みを浮かべた。




【第十話 了】
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