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『特別な人』25

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◇計略

 祖父から『詫びを入れろ』と言われて帰った日から匠吾は両親と三人で
数日間家族会議を開き、今後のことを打ち合わせし計画を立てた。


 花が退職、島本玲子には社内の人間に自分とのツーショットをばら撒かれ、
そんな中自暴自棄にならないほうがおかしいくらいの立ち位置に
されてしまったのだ。


 誰の目にも花から島本に乗り換えたと映ったことだろう。

 これから島本玲子を焼くか煮るか考えていた向坂家にとっては
もっけの幸いだ。


 解決に向けては一日でも早い方がいい。

 早く終わらせてスッキリしたかったから。

 ……ということで向阪家では玲子と匠吾との結婚を急いだ。


 匠吾は愛想笑いを表情に貼り付け玲子をデートに何度か誘い
プロポーズ。


 入籍を急ぎ翌月には籍を入れ、式は一年後ということで匠吾は玲子を
妻に迎え入れた。

 もちろん、そんなの嘘っぱちで式を挙げるつもりもなく、
籍は入れた振り……で実際のところは事実婚。

 知らぬは玲子のみ。


 玲子は玲子でそれとなくリサーチしていて、匠吾の父親が別のグループ会社の
取締役などに就いていることも知っており、結婚後はさぞかし豪華でハイスペックな
一戸建てに住めるだろうと考えていたのに蓋を開けてみればその辺の中古マンションクラス
の2LDKだったため、内心憤慨していた。



 それでも流石に実家は豪邸だろうと思っていたのにこれまた予想外で、
 自分たちと同じマンションに住んでいるのだ。

『どういうことなのだ』と、豊かな生活を期待していた玲子は
しばらくの間何もかもが信じがたく戸惑うばかりだった。


 祖父との面談の後すぐに沙代たち一家は茂から住居を他所に構えるようにとの
申し渡しを受けていた。


 玲子のことを考えるとちょうどよかった。

 しばらくは玲子に一泡吹かせる意味でも、またこんな事でもない限り
普通の狭いマンション暮らしなど経験することも今後生涯自分たちには
無縁なのでここはひとまず楽しんで暮らしてみようということになった。


 ……ということで沙代夫婦、匠吾夫婦は同じマンションの階違いで
入居した。


 息子とのこれからの相談や、嫁の玲子の行動を監視するのにも
ちょうどよかったのだ。


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