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『特別な人』48

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 一番驚いたのが匠吾が自分を殺そうと思うほど憎んでいたことだった。


『じゃぁ、私との結婚は何だったの?』
と訊いてみたいのを必死でこらえた。


「ごめんなさい。皆を苦しめてほんとにごめんなさい」

 目に涙をためながらそう何度も謝り玲子は足早に店を出た。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 歩きながらセミロングのヘアーを手で斜め後ろに何度か流しながら
心に溜まっている文句を吐き出した。


「何言ってんのよ。知らないわよ。
 そんな大仰なお家事情なんて。

 私を親子して追い出しておいてまだ足りないっていうの?
 私はね、花さんに一言もあなたと浮気したなんて言ってないってンの。

 花さんだってあなたとちゃんと話し合っていれば誤解だって
わかったんじゃない? 

 そもそもあなたの言うことを信じなかった花さんってどうなのよ。

 10年余りも付き合ってたのにあなたたちの信頼関係は
そんなものだったってことなんでしょ。

 もう花さんがメンタル弱すぎなのよ。

 周りが甘やかしてくれるからってこれ見よがしにメソメソしちゃって
いい迷惑だよ」
 
 なんという玲子のメンタルの強さ。



 しかし結局は向阪のアドバイスを実行しなければ命の危険も
有り得るかもしれないとも思う玲子は弁護士を雇い作成した書類を持ち、
まずは花の両親の元、掛居家を訪れ謝罪をした。


 彼らから『許します』とは言われなかったものの
『祖父のところへは自分たちからちゃんと報告するので出向かなくてよい』
と言われほっと胸を撫でおろす玲子だった。 


 誰も彼も……元夫の匠吾にも掛居家からも自分の発言を
聞いてもらえただけで『許す』の言葉はもらえなかった。



 勿論、大物らしい祖父という人も許してはくれないのだろう。

 しかし、やるだけのことはやったのだ。

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