いつかの白のお姫様

由井

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一章

溢れた雫

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お姫様が王様の愛の真実を知ったその日から、王様は日に日にお姫様の元を訪れるようになりました。

王様はお姫様へ時には宝石を、また別の日には色とりどりの異国のドレスを送りました。

しかしお姫様はそんな物達よりも、美しく色とりどりの花や愛らしく優しい動物たちが大好きでした。

そんなお姫様の言葉にも王様は笑い飛ばしてしまい、決して気づくことはありませんでした。

お姫様の心を分かってくれない王様に、お姫様は次第にお妃様の塔へと籠るようかななりました。

「お母様、私は宝石やドレスよりもお花や動物たちに会うための時間が欲しいのです。お父様は私を塔から出るのを嫌がるのです。」

「可愛い子、それはお父様は貴女を愛しているからなのです。お父様は貴女を失いたくはないが為に、手元で愛で安心したいのです。」

「私はどこにもいきませんわ、ずっとお母様と一緒にいますの。」

「それはなりませんよ、可愛い子。貴女もいつか愛する人が出来て、この城から旅立たなくてはいけないのです。それが貴女の役目なのだから。」

いつもは優しく包み込んでくれたお妃様の思わぬ厳しい言葉にお姫様は少し寂しくなりました。

そしてそんなお妃様に対して、お姫様は寂しさと苦しさから少しだけ意地の悪い答えを返してしまいました。

「嫌よ、お母様。だってお母様は本当にお父様を愛していたの? お父様はお母様の過去の美しさを愛していただけよ!お母様はきっと、お父様に捕まって、それが愛だと勘違いしてしまったのよ。」

お姫様の叫びにお妃様はまるで胸元にナイフを突き立てられたかの様に傷つき、それでもなんとかお姫様を抱きしめ悲しげな表情を浮かべました。

「ごめんなさい、可愛い子。貴女が私を愛してくれているのに、私はなんとひどい事を言ってしまったのかしら。でもね、私は王様が王子様であった頃からあの人を確かに愛していたのよ。それだけは分かって頂戴。あの人は王様になり、見目の美しさだけを求める様になってしまった。それでも私はあの人を愛しているの。」

お妃様の震える声にお姫様は青ざめる程に後悔をしました。
けれどもお妃様と言い争うことなど初めてのお姫様はなんと言えばいいのか言葉が出てこず、ただただ抱き締められるだけでした。

そしてそんなお姫様をお妃様はそっと離し、真っ直ぐに見つめると言いました。

「私の可愛い子、私の宝物よ。悲しい顔をさせてしまってごめんなさい、さぁ貴女はもうここへ来るのはおよしなさい。きっと私の塔は貴女へ悲しみしか与えない、どうか暖かな日のある場所へお戻りなさい。」

それは優しく穏やかな声音で言われたものの、確かなお妃様の初めての拒絶だった。

「いやよ、お母様・・・。お願いよ、そんなこと言わないで? ごめんなさい、本当はあんなこと思ってないの。愛してるわ、どうか許して。」

お姫様は白い肌を青ざめさせ、お妃様に縋り付きました。
しかし、その手をお妃様はそっと外しました。
そしてお姫様の背にそっと手を添え、導きました。

「大丈夫、私は怒ってなどいないの。許すも何もないのよ?貴女は何も悪くなどないの、あぁ可愛い子。弱い私を許してとは言わないわ、どうか貴女は強くおなりなさい。」

お姫様の目の前で、お妃様の塔への扉は静かに閉じました。


お姫様の16の誕生日まで、3日前の事でした。
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