いつかの白のお姫様

由井

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二章

魔女

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物語は終焉へと向かう

変わらぬ結末を、

変えられぬはずの悲劇を、

その身に宿して



※※

突如として現れた王女の身の丈をも越すほどの、輝く銀の鏡に映し出されていたのは鏡の前に立つ王女であったモノの姿ではなく、ひどく醜く歪んだ顔の王様でした。

「なんと醜悪、なんと愚かしいことか。この鏡に映る最初の悪はやはり、愚王であるお前であったか。」

かつて光り輝くお姫様であったモノは眉を顰め、忌々しげに声をあげました。
そんな彼女に王は、顔を赤く染め動揺を隠せないまま声を荒げました。

「姫よっ、いくら其方とて許せぬ物言い!育てて貰った恩を忘れたか!」

王は言葉を吐き捨てソレへと掴みかかろうとしましたが、ソレの前にはまるで壁一枚隔てられているかのようにバルコニーへと伸ばした手を何かに阻まれました。

「私に触れられると思ったのか、愚かな王よ。己の欲を満たすためだけの日々に恩を求めて、我が身を貴様に晒せというか憐れなケモノよ。其方の娘はもう、ここにはいないと言う言葉すら理解もできぬ愚鈍さに呆れ果てるもの…。」

見えぬ壁に自らだけでなく、兵をも駆り立て破ろうとする王の姿に眉を顰めたソレは言いました。

「分からないでしょう、愚かな貴方がた程度の思考力ではこの意味が。聖女の代までは願いの鏡であったこれは、私の代で魔女のための鏡となった。私は鏡に真実の姿を求めた、嘘と欲望に塗れた過去などもう要らぬと願ったのよ。」

外の世界を知らなかった穢れなきお姫様は、綺麗なだけのお人形姫でした。けれどもそこには確かに心があり、願いがあり祈りを持っておりました。それ故に哀しみ怒りを受け止められるモノを求めてしまい、独りとなってしまったお姫様にお妃様の願いは届く事なく、その魂は変質し、その役は放棄され、祈りは契約となってしまいました。



さぁ、これからが物語の終焉。

かつては姫であった魔女の、物語の始まり。
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