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窓ガラス
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秋は忙しい。
バグズブリッジは大きな街で色々目まぐるしかったから、なんだかヒルトップ村は何も変わっていないんじゃないかみたいな気分でいたけれど、やはり、3週間いなかった分のあれこれは溜まっているのだ。
庭の果実は色づいているし、色々収穫しなくちゃいけないものもあるし、木の実だってあちらこちらにたわわになり始めている。
人間だって色々変化があった。
チャーリーの勉強はちゃんと進んでいて、特に歴史や宗教知識の伸びがすごかった。
さすが、ブラウン神官。
逆に算数はちょっと足踏み状態。でも、勉強するというのがどういうことなのか、わかってきた感じがある。少し本腰を入れて勉強すれば大丈夫だろう。
私と一緒にバグズブリッジに行ったアリスちゃんも……。
文章を読んだり簡単な計算なんかは生活の中でかなりやったけれど、テスト勉強はしていなかったので、これから力をいれなくちゃね。
ポニーのパールの子供も見に行ったよ。トーマスさんとの契約通り、最初のポニーは私の名義になる。
色々考えて名前を「ルルー」にした。
まだ仔馬なのでトーマスさんが、パールと一緒に面倒を見てくれている。
さらには来週あるというお祭り……「みんなきれいな服を着て踊る」とか言ってたけど、きれいな服なんてない……
それに絶対結構な料理をすることになるよね。お祭りって楽しいけど、大体女性に料理と後片付けの負担がかかるんだよな……。
たくさん料理をするのは嫌いじゃないけど、スタンピードランチで今までに集めていた食材をかなり使ってしまったんだよね。
どうしようかなあ、と頭をひねっていた、そんなある朝、ハンナさんがマルタさんとベンさんとやって来た。
「窓ガラス、つけに……来ました……」
「木枠も作ってきましたけど、お家を見て調整しますね」
「ギルド長からの手紙預かってます」
うをを。情報が一遍に……!
とりあえず中に入ってもらってお茶を出す。ミント茶にオレンジの砂糖漬けを添えたよ。
「ちょ……これ、なんですか、マージョさん」
うふふふふ。美味しいでしょ。気に入った? と尋ねるとハンナさんはコクコクと頷いてくれる。
ハンナさんはこの足でそのまま北の森へ向かうのだそうだ。送迎も兼ねてベンさんがついていくという。
「馬二頭で馬車で来たので、帰りはマルタは一人で馬で帰ります」
うわあ。
馬に乗れるんだ、マルタさん。すごい。
私も試してみたんだけれど、高くて怖くて無理だったんだよ。ポニーのパールが一番いい感じ。
私はちょっと、というかかなりマルタさんに感心した。馬に乗れる女子って田舎の育ちかよほど良いおうちの子なのかどっちかだよね。庶民はロバとかポニーだもんね。
「田舎の育ちなんです。開拓村で育ったの。そこで木工が好きになって、バグズブリッジに出てきたんです」
マルタさんはニコニコしている。
ベンさんには作っておいたラノリンクリームを出す。
カモミールその他で香り付けした自信作だ。
「……いい匂いですね」
でしょでしょ?
これが10瓶ぐらいある。これを私の名前を出さずにギルド経由で夏雪草の名義で売って欲しい。他にも色々あって、端切れを「仮縫いしない針子屋」のマーサさんに卸すのもお願いしたいんだよ。
針子屋は今の所夏雪草には入っていないけれど、事実上下請けみたいな感じで今は働いてくれている。
「このガラス……すばらしい……」
ラノリンクリームの品質を確かめているベンさんとは別にハンナさんはガラス瓶に夢中だ。
あのね、小さめのジャム瓶だからね。全然趣も何にもないからね!!
「ていうか、多分ハンナさんだったらもっと綺麗な瓶作れますよね。色入れたりして」
水を向けると、はっとしたような顔をして「作れる……」と頷いた。
今までは実用品一辺倒で、ガラスペンで始めて装飾的なガラス細工をしたので、ハンナさんはやはり最初に機能性に目が行っちゃうんだね。でも、北の森ガラス工房は装飾的なガラス細工で有名だと聞いた。
てことはいずれ、ハンナさんのガラス瓶とコラボで売りたいな。
お茶を飲み終えるとハンナさんとマルタさんはすぐに窓ガラスの仕事に取り掛かった。
長旅だったのに、「時間があまりないから」と頑張ってくれたのだ。本当にありがたい。
「約束通り窓ガラスを開けられるようにしてみました」
マルタさんが自慢そうに微笑む。
街の窓ガラスはほとんどはめ殺しだ。ガラスが高価で盗まれやすいこともあるし、割れやすいからということもあるんだけれど。
「これで冬の間も明るい光を取り入れることができるはずです」
そうか。
これも冬支度の一環だったんだね。
開けられるようにすると隙間風が入って来るので、最終確認はどうしてもここでしたかったの、とマルタさんははにかんだように笑った。
「今日は泊まっていきますか?」と尋ねると、「泊まらせていただけると助かります」と三人の声がハモった。
私の家に三人はちょっと無理だから、ベンさんはエレンさんのおうちに泊まることになりそう。
商店兼時々宿屋だから、多分部屋も余っているはず。ちょうどやってきたマシューくんに、豚を森へ連れていくついでにエレンさんにお願いしておくよう頼んでおいた。
バグズブリッジは大きな街で色々目まぐるしかったから、なんだかヒルトップ村は何も変わっていないんじゃないかみたいな気分でいたけれど、やはり、3週間いなかった分のあれこれは溜まっているのだ。
庭の果実は色づいているし、色々収穫しなくちゃいけないものもあるし、木の実だってあちらこちらにたわわになり始めている。
人間だって色々変化があった。
チャーリーの勉強はちゃんと進んでいて、特に歴史や宗教知識の伸びがすごかった。
さすが、ブラウン神官。
逆に算数はちょっと足踏み状態。でも、勉強するというのがどういうことなのか、わかってきた感じがある。少し本腰を入れて勉強すれば大丈夫だろう。
私と一緒にバグズブリッジに行ったアリスちゃんも……。
文章を読んだり簡単な計算なんかは生活の中でかなりやったけれど、テスト勉強はしていなかったので、これから力をいれなくちゃね。
ポニーのパールの子供も見に行ったよ。トーマスさんとの契約通り、最初のポニーは私の名義になる。
色々考えて名前を「ルルー」にした。
まだ仔馬なのでトーマスさんが、パールと一緒に面倒を見てくれている。
さらには来週あるというお祭り……「みんなきれいな服を着て踊る」とか言ってたけど、きれいな服なんてない……
それに絶対結構な料理をすることになるよね。お祭りって楽しいけど、大体女性に料理と後片付けの負担がかかるんだよな……。
たくさん料理をするのは嫌いじゃないけど、スタンピードランチで今までに集めていた食材をかなり使ってしまったんだよね。
どうしようかなあ、と頭をひねっていた、そんなある朝、ハンナさんがマルタさんとベンさんとやって来た。
「窓ガラス、つけに……来ました……」
「木枠も作ってきましたけど、お家を見て調整しますね」
「ギルド長からの手紙預かってます」
うをを。情報が一遍に……!
とりあえず中に入ってもらってお茶を出す。ミント茶にオレンジの砂糖漬けを添えたよ。
「ちょ……これ、なんですか、マージョさん」
うふふふふ。美味しいでしょ。気に入った? と尋ねるとハンナさんはコクコクと頷いてくれる。
ハンナさんはこの足でそのまま北の森へ向かうのだそうだ。送迎も兼ねてベンさんがついていくという。
「馬二頭で馬車で来たので、帰りはマルタは一人で馬で帰ります」
うわあ。
馬に乗れるんだ、マルタさん。すごい。
私も試してみたんだけれど、高くて怖くて無理だったんだよ。ポニーのパールが一番いい感じ。
私はちょっと、というかかなりマルタさんに感心した。馬に乗れる女子って田舎の育ちかよほど良いおうちの子なのかどっちかだよね。庶民はロバとかポニーだもんね。
「田舎の育ちなんです。開拓村で育ったの。そこで木工が好きになって、バグズブリッジに出てきたんです」
マルタさんはニコニコしている。
ベンさんには作っておいたラノリンクリームを出す。
カモミールその他で香り付けした自信作だ。
「……いい匂いですね」
でしょでしょ?
これが10瓶ぐらいある。これを私の名前を出さずにギルド経由で夏雪草の名義で売って欲しい。他にも色々あって、端切れを「仮縫いしない針子屋」のマーサさんに卸すのもお願いしたいんだよ。
針子屋は今の所夏雪草には入っていないけれど、事実上下請けみたいな感じで今は働いてくれている。
「このガラス……すばらしい……」
ラノリンクリームの品質を確かめているベンさんとは別にハンナさんはガラス瓶に夢中だ。
あのね、小さめのジャム瓶だからね。全然趣も何にもないからね!!
「ていうか、多分ハンナさんだったらもっと綺麗な瓶作れますよね。色入れたりして」
水を向けると、はっとしたような顔をして「作れる……」と頷いた。
今までは実用品一辺倒で、ガラスペンで始めて装飾的なガラス細工をしたので、ハンナさんはやはり最初に機能性に目が行っちゃうんだね。でも、北の森ガラス工房は装飾的なガラス細工で有名だと聞いた。
てことはいずれ、ハンナさんのガラス瓶とコラボで売りたいな。
お茶を飲み終えるとハンナさんとマルタさんはすぐに窓ガラスの仕事に取り掛かった。
長旅だったのに、「時間があまりないから」と頑張ってくれたのだ。本当にありがたい。
「約束通り窓ガラスを開けられるようにしてみました」
マルタさんが自慢そうに微笑む。
街の窓ガラスはほとんどはめ殺しだ。ガラスが高価で盗まれやすいこともあるし、割れやすいからということもあるんだけれど。
「これで冬の間も明るい光を取り入れることができるはずです」
そうか。
これも冬支度の一環だったんだね。
開けられるようにすると隙間風が入って来るので、最終確認はどうしてもここでしたかったの、とマルタさんははにかんだように笑った。
「今日は泊まっていきますか?」と尋ねると、「泊まらせていただけると助かります」と三人の声がハモった。
私の家に三人はちょっと無理だから、ベンさんはエレンさんのおうちに泊まることになりそう。
商店兼時々宿屋だから、多分部屋も余っているはず。ちょうどやってきたマシューくんに、豚を森へ連れていくついでにエレンさんにお願いしておくよう頼んでおいた。
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