出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

157 夕食会

　夕食会のためにイザーク様が衣装一式等を新調してくれた。護衛の衣装ではあるが何故か私と揃えている。衣装とか装飾の一部ではあるけれど。

「ミカエラは可愛いですね。」
「なんですか、ここ最近…」

　成人男性がむすっとしながら人の髪を整えている。それでも気にしないけれど、撫でろと頭を押し付けてくるし撫でてもむすっとしている。ヘラルド様のお城でお食事なんていつものことではないけれど慣れているだろうに。そう思いながら見上げると触れるだけの口付けを容赦なくしてくる。油断していたら欲望優先で仕事は時間を気にしているから後回しにしがちである。

「ただのお食事ですよ。護衛として来られるのですよね？？」
「もちろんです。」
「じゃあ、いいじゃないですか。エスコートお願いいたしますね。」

　用意された馬車に乗り込み、ヘラルド様のお屋敷に向かうといつものメイドたちが出迎えてくれる。すでにロズウェル侯爵家が既に到着していたようだ。

「やぁ、ミカエラ。イザークはちゃんと護衛をしているかい？？？」
「護衛の仕事もあまりないのですが、よくゴミ捨てをされてますね。」
「それは良かったよ。惚気報告しかしてこないから。」

　は？？？？見上げるとにこりと笑顔を向けてきた。

「ちゃんと仕事もしている。惚気を聞くのが楽しいから聞いているだけだ。」
「変な趣味ですね。」
「まぁね。荒んだ学生時代を見ているからね。飽きないと思うが満足するまでつきあってあげてくれ。」

　アルフィアス辺境伯親娘がやってきた。私が一番序列が一番下なんだけれども…案内されたのはお客様用の食堂だ。私が下座になると思っていたのにアルフィアス辺境伯親娘が下座で私がヘラルド様に一番近い席だ。

「ミカエラ、相変わらず可愛らしいね。」
「ヘラルド様も相変わらず外見が詐欺まがいにお若いですね。」
「若い娘といたら維持できるらしいからね。今回は君が原因なんだろう？？？」
「人聞きの悪い…」

　ということで説明をすることになった。私が悪いというよりも私が仕事と趣味を我慢して勉強していたからその発散対象としてローズを選んだだけだ。それがエリザベス様から王妃にまで話が上がって、容姿や出立ちを気に入られれてみんな幸せになっただけだ。そして王妃様の警備体制上ローズを側に置くことができないので自分がしているやり方を提案したら採用された。
　アルフィアス辺境伯は娘が王妃付になったことは事実でその命令も裏からあったと話をして詳細を詰める。王命の詳細を聞いて口裏を合わせておく。それと縁談がどうしても纏まらなかったローズ嬢のことが大出世の話が転がり込んできたので私へ謝礼をどうしたらいいか。という話もしなければならないらしい。私は別に必要じゃないんだけれど。

「ミカエラ、貴族は恩義を返さないと満足出来ない性分だと何度説明したら理解できるのかな？？？」

　ヘラルドに頬を突かれながら尋ねられた。やめてほしい。私が悪いみたいじゃないか。

「私がそういうことに興味ないと説明しても理解されないのが残念です。」
「お金も稼いでいるし、肩書きも不要なんですけれど…じゃあ、私は特に要望しないのでお偉方で決めてくださいな。学のない平民ですから。」

　で、逃げる。もうお任せだ。だってユーリ様とヘラルド様、辺境伯様で私の知らない政治的なお話をしているのだから私のどこに関与するところがあるのだろうそれを教えてほしい。ミカエラはそう思いながら食事を食べる。ローズ様はまだ話がわかるのだろう。私は全くだ。辺境伯は笑顔を貼り付けているようだけれども。

「ミカエラ、それはお酒ですよ。」

　グラスを取られた。注がれたものを見ていなかった。イザーク様がジュースに変えてくれた。こういう席だと基本お酒なんだろうけれど。私は禁酒だ。最近飲んでいないし、酔うわけには行かない。普段の食事の時はジュースか水なんだけれど、いつものメイドではないのでお客様扱いで酒をついだのだろう。

「捨てるのは忍びないので飲んでしまってください。」
「ありがとうございます。」
「気に入ったのであれば今度買っておきます。」

　いいお酒だけれども買えないわけでもないはずだ。禁酒しているわけでもないけれど飲んでないし。

「ミカエラ、そんなことをしなくても箱で届けさせておくよ。お酒とジュースを半々で。」
「ありがとうございます。」
「おねだりをしてくれないからプレゼントがいつもありきたりになる。」
「いつも感謝しております。」

　よしよしと頭を撫でられる。これが愛人のものに見えるなら一度病院に行って欲しい。どう見ても自分の都合のいい情報などを運び込む小動物だろう。もちもちと頬を撫でられる。そしてアルフィアスの家のご褒美もある。だからアルフィアスからのお礼はいらない。多すぎる。

「ミカエラ、仔細を本当にこちらで決めていいのかな？」
「…そうですね。私には詳しいことがわからないので。」
「それでローズ嬢を騎士として引き受けてくれるのかい？？」
「それが必要なら。ただ我が家で追加でメイドを雇う余裕もあまりありませんが。」
「うち経由で手配するよ。」
「その辺をしていただけるならお任せします。」

　ご飯はおいしかった。話の内容はよくわからなかった。