宇宙でひとつの、ラブ・ソング

indi子/金色魚々子

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第六章 見せたい景色

第六章 見せたい景色 ②

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「え?!」

「はぁあ!?」


 今度は、三原と佐竹が驚く番だ。


「え、ま、まじで! 彼方そんなに頭いいの?!」

「あ、ああ。俺も最近予備校で他の高校の奴から聞いたんだ、『常盤台高校にめっちゃ頭いいやついるだろ?』って。名前聞いてびっくりしたよ、野々口がそんなに頭いいなんて知らなかったし」


 僕も、模試の成績については誰にも話してはいない。しかし、そんな風によその場所で僕のことが話題になっていたなんて驚きだ。


「でも、彼方、学校の成績いまいちじゃね? いっつも順位表真ん中の方じゃん……まあ、俺よりは断然いいけど」

「学校の試験だと本気の力を出せないんだよ、きっと! そっか、だからいろんなこと詳しいんだね」

「……まあ、そういうことかな」

「くそ、そんな大事な事隠しやがって。あ、今度の試験の時一緒に勉強しようぜ。そして分からないとこ教えて欲しい!」

「あ、僕も僕も!」


 僕が蚊帳の外になっている間で、いろんなことが立て続けに起こっていく。呆れたように息を吐くと、クラスメイトも小さく手をあげた。


「俺も、その勉強会参加していい?」

「もちろん! いいよな、彼方!」

「いいけど……僕にあんまり期待するなよ」

「分かってるって。まあ、まずはこのペットボトルロケットなんとかしないとな」


 その日の放課後から、手伝ってくれるクラスメイトがじわじわと増え始めた。四人が五人に、五人が六人に……そしてついに、学校祭前日の打ち上げテストのときには、クラスメイトが全員そろっていた。つまらなそうとか面倒くさいとか言っている割に、誰かが楽しそうに作っているのを見るとやりたくてうずうずしてしまうのだ。でも、そのおかげで材料となるペットボトルもたくさん集まったし、試作品も多く作れた。何度も発射と測定を繰り返して、一番遠くまで飛んだロケットを本番で打ち上げることに決まった。


「でも、無事に終わって良かったよな」

「終わってないよ、明日が本番」


 片づけを終えた僕たちは、ゆっくりとした足取りで帰路についている。この楽しかった準備期間が終わってしまったことを名残惜しむように、とぼとぼと。


「勝ちて―な。ここまで頑張ったんだから」

「大丈夫、他のクラスみたら変な飾りとかたくさんついて、重いわ空気抵抗起きそうだわで全然飛びそうにないから! 僕たちのカナタ一号の方が飛ぶよ!」

「え? 待って、何その名前。勝手に僕の名前使うなよ」

「いいじゃん! だって彼方がいなかったら完成しなかったんだし、俺一人は無理だって」

「そうそう。僕がやっても、あんな立派なロケットにはならなかったから。きっと、彼方のおかげでここまでできたんだよ、ありがとう」


 二人のキラキラした瞳が、呆けた表情の僕を映し出す。目の奥がツンと痛くなって、思わず顔を伏せた。泣き出しそうになっていることを、この二人にバレないように。

 こんなことを言われたのは、いつ以来だろう? 研究結果を学会で発表した時? それとも……もしかしたら、初めてかもしれない。心がざわめきだし、溜まったものをすべて吐き出したくて……さらけ出したくて、仕方がない。僕が足を止めると、二人も不思議そうにぴたっと止まった。


「何? どうかした?」

「いや……ちょっと、二人に話があって」

「話って?」


 僕は大きく息を吸い込んで、顔をあげた。恐怖だって、まだ感じる。でもこの機会を逃したら、僕はもう二度と二人には近づけなくなる。そっちの方が、僕には怖くて仕方がなかった。


「……昔、アメリカのロケット開発している研究所にいたんだ、僕」

「え?」

「えぇぇえ?!」


 三原は戸惑ったように、佐竹は大層驚いていて口を大きく開けていた。


「そこでずっとロケットのエンジンシステムの研究を続けていたんだけど……ある日、僕が研究していた内容が兵器開発に転用されていたことを知っだ」

「それは……」

「僕はずっと、好きな物に取り組んでいただけなのに、僕の研究内容がこの世界のどこかで、人殺しをしている。それを考えただけで僕は研究を続けるのが怖くなったし……それに、人と接するのも怖くなった。だって、僕が作ったものが今この瞬間、誰かを傷つけている。それを知られたら、僕の事を好きになんてなってもらえない気がして」


 二人は口を閉ざす、少しだけ表情が暗い。僕は努めて明るい声を出す。


「だから、他の人には一生こんな話するつもりはなかった。でも……二人とは、ちゃんと友達になりたくって。隠し事なんてしたくなかったから。ごめん、急にこんな話して。……もし、こんな僕なんて嫌になったら、友達にならなくってもいいから」


 三原と佐竹は困ったように顔を見合わせた。もしここで、二人が走り去っていっても僕は後悔しない。僕と二人の間に、ふっと温い風が吹き抜けていく。その風は、夏を運んできたようだった。


「あの……!」


 佐竹が僕の手を強く掴んだ。思わず彼の目を覗き込むと……ロケットの話をしているときのように、爛々と輝いている。


「だから、そんなに頭がいいの! アメリカの研究所で働くんだから、そりゃ高校生の模試だって簡単すぎるだろうし、余裕で全国トップだよね! すごい、すごいよ! 彼方すごい!」

「……え?」

「なんだよ、水くせーな。そんなちっぽけな事で、俺らがお前の事嫌いになるわけないじゃん。な、智和」

「そうそう! 彼方は好きなロケットの開発をしてただけなんでしょ!?」

「彼方が悪いわけじゃなーし、悪い奴は彼方の研究を横取りした奴だよ」

「……二人とも、いいの? 本当に……僕が、友達になっても」

「もちろん! てか、僕たちもう友達だろ?」

「そうそう。もしかして、彼方の中じゃ俺たち友達じゃなかったの?」

「あの、いや……そういう訳では」


 口ごもると、二人はにっこりと笑った。そして、僕を挟む様に三原が右、佐竹が左に立つ。


「明日楽しみだね、彼方」

「すげーの打ち上げてやろうぜ、彼方!」

「……うん」


 僕が笑うと、二人もさらに笑みを深くさせる。うじうじと悩んでいた時間がもったいなかったと、この時になって僕はやっとわかった。
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