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第一章

ランの思惑

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「さて、馬車を買いに行かないとな。」

 旅をするのには移動手段が必要だ。ホントは車があれば一番なんだが……この世界にはそんなものはない。今日まで街で見かけることができた、歩く以外の移動手段は馬車だけ。

 そして馬車を扱っている店へと赴こうとしたところ、何やらランに考えがあるらしい。

「馬車ね、馬の心配はしなくていいわよ。ちょっと行ってくるわね。」

 そうランが言い残して一人街から出ていった。

「ん~……野生のやつでも捕まえてきてくれるのかな?とりあえずじゃあ馬車だけ買いにいこうか。」

「馬車の店ならあそこだよ。」

 馬車を扱っている店をドーナが指さして教えてくれた。

 その店に入ると、さっそく店員がこちらに駆け寄ってきた。

「いらっしゃいませ。本日は馬車をお探しですか?」

「あぁ、5人乗り位の少し広い馬車が欲しいんだが。」

「それでしたらこちらです。」

 俺たちは店の奥へと案内された。そこには大きなサイズの馬車がずらりと並べられていた。

「ここからここまでがお客様の要望に合う馬車ですね。大きい分、引かせる馬も強いものでないといけないのでお気を付けください。」

「ふむ。」

 ぐるっと展示されている馬車を見て回る。だいたい探している馬車の値段は白金貨2枚ってところだな。結構いい値段するなぁ……と思いながら眺めていると、ある馬車が目に留まった。

(ん?何でこれはこんなに安いんだ?一番デカイんだが……。)

 展示されている中で一つ、一際大きな馬車がある。しかし、この馬車はここにある他の馬車に比べると破格の値段で売られていたのだ。

「これはなんでこんなに安いんだ?」

 思わず気になった俺は店員に問いかけてみることにした。

「こちらはですね、重すぎる故に今のところこの街にいる馬では引くことすらできませんので、こちらのお値段となっております。」

「なるほどな。」

 並みの馬じゃ引けないってわけか、なら納得だ。

「なら、別なのにするか。」

 諦めて別な馬車にしようとしたとき……。

「その必要は無いわ!!」

 背後から聞き慣れた声が響く。

「ん?ラン、もう戻ってきたのか?」

「えぇ、ちゃんと捕まえてきたわよ。その大きな馬車でも引けるヤツをね♪」

 何か嫌な予感がする……。

 でもまぁ、この大きい馬車が安くすむならいいとするか。

「それじゃあこの馬車をもらおうか。」

「本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。」

「それでしたら、金貨80枚になります。」

「これで頼む。」

 俺は白金貨を1枚渡した。

「はい、こちらがお釣りの金貨20枚になります。」

「ありがとう。」

「こちらはもう引いてお帰りになりますか?」

「いや、一先ず持って帰るよ。」

 マジックバッグに馬車をしまった。やっぱりこれはとても便利だ、こんなに大きな馬車まで簡単に収納できるんだからな。

「マジックバッグですか、珍しいものをお持ちですね。」

「あぁ、便利だから助かってるんだ。」

 そして店員にお礼を告げて、店を出たところで俺はランに問いかけた。

「いったい何を捕まえてきたんだ?」

「ふふっ♪見たらきっと驚くわよ~。」

「ちゃんと言うこと聞くんだろうねぇ?」

「大丈夫よ~、ちゃんと上下関係は本能的に理解するはずだわ。」

 ランの話を聞いている限り、絶対馬ではないよなぁ。

 一縷の不安を抱きながら、俺たちはハウスキットのある森のほうへと歩みを進めるのだった。
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