腐りかけの果実

しゃむしぇる

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二節 交錯する思惑

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 捕食者のようなまなざしでエリーのことを見つめるリンの姿に、リースは興味深そうな様子だ。

「これがもしかして吸血鬼の吸血衝動ってやつかな?実に興味深い反応だね。ヨシキ君も一度吸血衝動を見せたけど、キミみたいに目は赤くならなかったんだよね。ちょっと失礼。」

「んぅ~。」

 クイッとリースはリンの顎を持ち上げると、リンの赤い瞳の奥深くをのぞき込む。

「ふむ、血流が巡って赤くなっているわけではないと。ということはやっぱり、吸血鬼の何かしらの能力と考えるのが妥当そうだ。」

 そう分析すると、リースはエリーのほうに視線を向ける。するととんでもないことを言い出したのだ。

「よし、それじゃあエリーさっそく実験だ。リンちゃんに吸血されてみてくれないかな?」

「はぁっ!?死ぬだろ!!」

「大丈夫、大丈夫~。リンちゃんが加減すればいいだけだからさ。」

 そう言ってリースはリンの頭の上に手を置く。

「できるよねリンちゃん?」

「た、たぶん。」

「さ、というわけだから~♪」

 目にもとまらぬ速度でリースはエリーの手首をつかむと、小さな体には似つかわしくない怪力でリンの目の前へと引っ張った。

「なぁっ!?ちょ、ちょっとまてお袋ぉっ!!」

「はい召し上がれリンちゃん♪」

「アタシの人権はどこに行った……。」

 半ばあきらめムードでがっくりと肩を落とすエリー。そんな彼女の指先に口を開けたリンが迫る。

「エリーお姉ちゃんごめんなさい。い、いただきます。」

「はぁ……頼むぜ、加減してくれよリン。」

 そんなエリーの願いを聞き入れる前にパクっとリンはエリーの人差し指を咥えた。そしてストローで飲み物を飲むかのようにちゅ~っと何かを吸い始める。

「んくっ……こくっ。」

「ん~?エリー、何か吸われてる感じする?」

「まったくしねぇ。それどころか痛みすら感じねぇぜ。ただ指しゃぶられてるだけだ。」

「ふむ。これは貴重な記録だ。エリー、ちゃんと事細かに教えてね~。」

「へいへい。つっても何も伝えられることなんてねぇぜ。」

 しばらくリンが何かを飲む様子を眺めていると、満足したのかリンがエリーの指先から口を離す。するとエリーの指先から2、3滴血の雫が滴り落ちる。

「ぷはっ……お、美味しかったぁ。あ、ご、ごちそうさまでした。」

「しっかり血が出てるところを見るに、吸血はされてたみたいだね。記録に残しておかないと。」

 エリーの指先に絆創膏を張ったリースはパソコンに今わかったデータを刻んでいく。それと同時進行でリンに質問を始めた。

「さて、リンちゃん。大事なことだからちゃんと質問に答えてね。」

「う、うん。」

「まず、ひとつ聞きたいのはリンちゃんは今エリーの血液を飲んだけど、それは美味しかった?どんな味だった?」

「えと、たぶん……ぶ、ぶどう?みたいな味。本物食べたことないからわからないけど。」

「ふむふむ、葡萄ね。」

 記録を取りながらリースはエリーの絆創膏が貼ってあった指先に目を向けるとおもむろにその絆創膏をはがす。

「は?」

「あむっ!」

 何を思ったのか、リースはエリーの間立が出ている油夫先を咥えたのだ。そして丹念にエリーの指先を舐めまわすと、少し顔をしかめながら口を離す。

「んえっ、やっぱり吸血鬼の味覚は人間とは違うんだね。全然おいしくな~い。」

「あたりめぇだろ!!」

 盛大なツッコミをエリーから入れられながらも、リースは口元をナプキンでふくと、改めてリンに質問を始めた。

「さて気を取り直して次だ。リンちゃん、今エリーの血液を飲んだけど、空腹感は満たされたかい?」

「うん、すごくお腹いっぱい。」

「体に何か変化は?」

「えと、わからない。でもすごく元気になった?」

「うんうん、結構。ちょっと体触ってもいいかな?」

「うん。」

 するとリースがリンの体をペタペタと確認していく。

「ん?んん?」

 リンの体を触っているうちに、ある変化にリースが気付く。

「さっきまであばら骨が浮き出るぐらい痩せてたんだけど、ちょっとお肉ついた?」

「そんなことあるかぁ?」

「それにさっき抱き着いたときいくつか、痣とか傷跡も体に確認できたんだけど……そういうのもなくなってるね。ちょっと腕まくってみて?」

 リンが腕をまくると、そこにはエリーも確認していた煙草でつけられたような火傷痕があったはずだが、それすらもきれいさっぱり消えてなくなり、きれいな地肌のみが残っていた。

「アタシが見たときにあった傷もねぇ、やっぱ血を吸ったから治ったのか?」

「おそらくね。まぁリンちゃんも満足したし、まだこの状況にも慣れてないだろうから一度ゆっくり休んでもらおう。お話はまた改めて聞くことにするさ。」

 するとリースはパソコンの画面を閉じ、片手に抱えると、リンの手を引く。

「さてリンちゃん、今日からキミが住むお家を案内しよう。もちろんキミ専用のお部屋もあるからね。」

「あ、う、うん。え、エリーお姉ちゃんまたね。」

「ん~、しっかり休めよリン。なんかあったらお袋にでもアタシにでも言え。」

 リンのことを見送ったエリーはすっかり忘れ去られた自分の指先に自分で絆創膏を張ると、煙草を咥えた。

「ふぅ……慣れねぇことはするもんじゃねぇな。変に疲れたぜ。」

 そうぼやきながらエリーは煙草を吹かすのだった。

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